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2023年1月の記事一覧

『情事の終り』 グレアム・グリーン

『情事の終り』 グレアム・グリーン

第二次大戦直後の、まだ戦争の傷跡も生々しいロンドン。
「わたし」ことモーリスは、雨の降る街角で見知った男を見かけ、声を掛ける。
男は近所に住む高級官吏ヘンリ。実はモーリスは2年前まで、彼の妻サラァと不倫関係にあった。

久しぶりに会うヘンリは何やら悩んでいる様子。聞くと、サラァがどうやら外に男を作っているようだという。
サラァとの情事はもう終わったものとしていたモーリスだが、その話を聞くと俄然嫉妬

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『そこでゆっくりと死んでいきたい気持ちをそそる場所』 松浦寿輝

『そこでゆっくりと死んでいきたい気持ちをそそる場所』 松浦寿輝

インパクト大な題名とおしゃれ怖い装丁のこの一冊。
12の短編を3作品ごとにまとめた4部構成になっているが、その各部には例えば次のようなタイトルがついている。

・黄昏の疲れた光の中では凶事が起こる…
・冷たい深夜の孤独は茴香の馥りがする…

これらを読んで惹かれるものを感じる方ならば、本書を読んできっと満足できるはずだ。
期待通りの不気味、暗澹を心ゆくまで堪能できること請け合いである。
(同時に、

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『灰の劇場』 恩田陸

『灰の劇場』 恩田陸

表紙から、見返しをめくった先、また裏表紙の見返しまで、グレー調の町の写真が続く(ぱっと見て江東区辺りかと思ったが、よく見たら大田区だった)。
本書を読んだら、もう一度この写真を眺めてみてほしい。二人の気配が漂うのをきっとあなたも感じるだろう。

*****

大学時代からの友人同士であり、一緒に暮らしていた二人の中年女性が、橋から飛び降りて死亡した。
作者を思わせる小説家「私」は、この事件の小さな

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“Uncommon Type”  Tom Hanks

“Uncommon Type” Tom Hanks

ハリウッド俳優のトム・ハンクスによる短編集。
「ハリウッドスターが書いた」という宣伝文句のいらない、というよりそれがむしろ邪魔になるくらいの、素晴らしい一冊だ。海外文学好きには大推薦したい。
今回私が読んだのはアメリカ版のペーパーバックだが、日本語訳はクレスト・ブックスで出ているので、こちらも良書であること間違いない。

特に気に入ったのは以下の3作品。

<Christmas eve 1953>

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