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教養・ノンフィクション

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#ノンフィクション

『家を失う人々』 マシュー・デスモンド

『家を失う人々』 マシュー・デスモンド

本書は、社会学教授マシュー・デスモンドが、米ウィスコンシン州最大の都市ミルウォーキーの、貧困層の住むトレーラーパークと黒人住人の多く住むスラムに、合わせて一年余り住んで行ったフィールドワークを記録したものである。
登場するのは全て実際に著者が現場に住みながら知り合った人々であり、書かれている出来事や会話は、実際に著者が目の前で見て、聞いたことだという。
膨大な取材をまとめ上げた本書が見せる現代アメ

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『サンダカン八番娼館』 山崎朋子

『サンダカン八番娼館』 山崎朋子

1972年初版の本書は、70代80代の老女となった元からゆきさん達の生の声を取材したドキュメンタリー作品である。

貧困ゆえに苦しく耐えがたい人生を送った女性達の声なき声を聞くことが、女性史研究者としての仕事であるという著者の強い想いが、プロローグで語られる。
貧困地から南洋に送られて行った彼女達に、階級と性という二重の虐げが集中して表されている、つまり、日本における女性の苦しみの原点がある、と著

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『統合失調症の一族』 ロバート・コルカー

『統合失調症の一族』 ロバート・コルカー

この本をはじめて見たのはどこかの洋書サイトでだったか。目が引き寄せられたのはその表紙、豪華な螺旋階段にずらりと並ぶ正装した大家族の写真である。
題名は"HIDDEN VALLEY ROAD Inside the Mind of an American Family”。
なにやらアメリカの個性的な家族の話らしいこの本には、素通りできないものを感じた。
ただ値が張るのでちょっと検討、とアマゾンのカート

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『宇宙からの帰還』 立花隆

『宇宙からの帰還』 立花隆

「地球は青かった」というガガーリンの言葉は、人類で初めて宇宙から地球を見た宇宙飛行士の言葉という文脈を背にして、壮大で深淵に響く。
しかしその言葉だけ冷静に見れば、実は詩情もなにもない実際的な響きだ。
なるほど、マーキュリー、アポロ、ソユーズなど、1960年代から始まった宇宙飛行の計画では、宇宙飛行士に抜擢される大部分は軍人だったという。軍人かつ技術系インテリである宇宙飛行士は、人文系の文化とは縁

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『牧師、閉鎖病棟に入る。』 沼田和也

『牧師、閉鎖病棟に入る。』 沼田和也

本書は、牧師の沼田和也氏が、3ヶ月の精神病棟への入院を通して見知ったこと、学んだことを綴ったエッセイ/ノンフィクションである。

幼稚園の理事長兼園長としての仕事に忙殺されストレスが爆発してしまった氏は、妻のすすめに従って精神科の病院に入院する。

自分自身が入院患者となったことで、今までの自分が牧師としての役割とはいえ、その溝を自覚せずに「わたしたちは一つになって祈っている」と思い込んでいたこと

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『ウクライナの夜 革命と侵攻の現代史』 マーシ・ショア

『ウクライナの夜 革命と侵攻の現代史』 マーシ・ショア

ロシアやオーストリアという大国の間に位置していたという地理的理由、また、土壌が肥沃で農作物がよく育つという土地としての魅力から、歴史上常に各国間での取り合いの対象とされてきたウクライナ。
そんな国の近代から現在までの歴史、とりわけ2014年のマイダン革命からウクライナ東部での紛争とロシアの介入に至るまでを、渦中に身を置き、目で見て肌で感じてきた個人たちの心の動きを通して伝える。

学者や学生、ビジ

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『チェルノブイリ 「平和の原子力」の闇』 アダム・ヒギンボタム

『チェルノブイリ 「平和の原子力」の闇』 アダム・ヒギンボタム

威嚇するようなその厚さ、毒々しい黒・赤・黄の表紙。手に取るのを躊躇するような本だが、一度読み始めると抜け出せなくなる。

ずっしりと重いこの一冊に詰まっているのは、核施設の恐ろしい爆発事故について取材調査した、緻密で克明な記述である。
著者は本書で、チェルノブイリ原子力発電所建設までの背景と道のりから、未曾有の大事故に至った経過、事故後の技術的及び政治的な対処、放射線を浴びた人々の身に起きたこと、

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アーミッシュの赦し

アーミッシュの赦し

『アーミッシュの赦し』

スティーブン・M. ノルト、デヴィッド・L. ウィーバー‐ザーカー、ドナルド・B. クレイビル

男がアーミッシュの学校を襲撃し、女子生徒数名の命を奪った銃乱射事件。
その事件の痛ましさと同時に世界を驚愕させたのが、犠牲者の家族を含むアーミッシュの人々が、即座に加害者を「赦し」たことだった。

アーミッシュの教えにおける赦しについて、そして赦しと和解とはどのような意味を持

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