Canako Inoue

テキスタイル・アパレル のデザイナーをしています。日々の出来事、身の回りの人のこと、思…

Canako Inoue

テキスタイル・アパレル のデザイナーをしています。日々の出来事、身の回りの人のこと、思い出話を絵と文で。 website : https://www.canakoinoue.com/ insta : https://www.instagram.com/canakoinoue/

記事一覧

怒りについて考える

緊急事態宣言が出されて2ヶ月あまりが経ち、そして解除されて、だんだんと心境が変化していることに気がつく。 アトリエから荷物を移動し、ほとんど自宅での作業をするこ…

Canako Inoue
3年前
3

うたのよろこび

お昼に友人と待ち合わせ。数ヶ月ぶりに映画を観る。 映画館へは西荻窪から歩いて向かった。友人が観たいと言っていたので、わたしも便乗してついていく。西荻窪でランチを…

Canako Inoue
3年前
3

緑道を歩く

お昼を過ぎて、近所の公園まで散歩することになった。近所に住む友人と待ち合わせ。 1人は3駅隣の街に住んでいるけれど、運動不足だからと言って、遠い道なりを電車に乗ら…

Canako Inoue
3年前
3

母の日

近所のギャラリーへ、子供用のマスクを作り、寄付するために自転車に乗って届ける。 ひと月ほど前の真夜中に、ギャラリーのお子さんが通う保育園で子供用のマスクが足り…

Canako Inoue
4年前
6

お元気ですか

テレビばかり見ていると、不安が募ってくる。少し前に、ニューヨークのことをニュースでやっていた。遺体を置く場所がなくて、冷凍のコンテナがブルックリンに設置された、…

Canako Inoue
4年前
6

猫に読み聞かせる

風呂に入っていると、猫がひと鳴き、ふた鳴きした。真夜中の冬に、寂しそうな声だった。 姿は見えないけれど、窓の向こう、塀の上だろうか、近くにいる。 家の近所を通…

Canako Inoue
4年前
7

タンメンを食べる

福岡のミュージシャンと出会ったのは2年くらい前のことで、印象に残っているのは一緒にタンメンを食べに行ったこと。 もう一人友人のミュージシャンが誘ってくれて、3人…

Canako Inoue
4年前
1

身体の好きなところは

写真家の友人にポートレイトを撮ってもらうことになり、電車で向かう。 駅に着いて、差し入れを何も持ってこなかったことに気付いて、ニューデイズでお菓子を買う。コアラ…

Canako Inoue
4年前
3

身の回りの物、新しい発見

「ガラクタを捨てれば自分が見える」という本を読んだ。 数年前に友達にすすめられて読んだ、服部みれいさんの「あたらしい自分になる本」にちらりと書かれていた。この本…

Canako Inoue
4年前
3

数学は必要ない

幼い頃から数学が苦手だった。 数字がでてくると、頭は固まってしまう。いまでもたまにお客さんからもらったお金のお釣りを間違えるので必ず電卓で打って確認するようにし…

Canako Inoue
4年前
2

美術のともだち、醒めない夢

作業を早めに切り上げて、友達と飲みに行く。五反田に行きたいもつ焼き屋があるんだ、と誘われていた。 作業を途中でやめるとき、いつも延び延びになってしまう。ここのパ…

Canako Inoue
4年前
2

またかけるね

韓国に仲のいい友達がいる。 彼女は大学の同級生だった。正確に言うと初めは同級生ではなかった。彼女はわたしよりひとつ年上で、一年先に大学へ入っていたのだが、途中で…

Canako Inoue
4年前
4

わたしとあの子は仲が良い

よく行く中華屋がある。 駅前にある赤い看板の店で、階段を上るとビニール製の頼りないロール式の扉が付いている、中国人のお兄さんがやっている店だ。 ずっと気になっ…

Canako Inoue
4年前
3

カキフライの季節

展示会の準備に追われているときは、毎回こうなると、ひとりぼっちで卒業制作をしているみたい。 他のみんなは卒業して行って、一人だけまだ残っているみたいな感じである…

Canako Inoue
4年前
2

五粒のチョコレート

不思議な縁あって、彼女と出会ったのは、6月のこと。 展示しているお店は 20時までなのに、20時過ぎちゃいますとメールがあった。 道路の脇であたふたして電話を…

Canako Inoue
4年前
3

震災のあった夜

東日本大震災のあった日は、母の誕生日だった。 わたしは大学生で、学校の近くののマンションに一人暮らしをしていた。 震災のあった日もマンションにいて、2階だっ…

Canako Inoue
4年前
怒りについて考える

怒りについて考える

緊急事態宣言が出されて2ヶ月あまりが経ち、そして解除されて、だんだんと心境が変化していることに気がつく。

アトリエから荷物を移動し、ほとんど自宅での作業をすることに決めた3月末。自宅からアトリエまで電車や徒歩で1時間ほどかかるので、その道中に感染するリスク、感染させてしまうかもしれないリスクを考えると、だんだん不安が募っていた。
不要不急の外出は控えるように、と言われている中、止むを得ず仕事が終

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うたのよろこび

うたのよろこび

お昼に友人と待ち合わせ。数ヶ月ぶりに映画を観る。

映画館へは西荻窪から歩いて向かった。友人が観たいと言っていたので、わたしも便乗してついていく。西荻窪でランチを食べて、途中の道でクレープを買った。お店の軒先から甘い匂いがして、注文をしてから待っている間に、思わず「いい匂い」と言うと、お店の人も「いい匂いっすよね」と返してくれた。クレープを焼いている人は手と鉄板がとても近い位置で、じっくりと生地を

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緑道を歩く

緑道を歩く

お昼を過ぎて、近所の公園まで散歩することになった。近所に住む友人と待ち合わせ。
1人は3駅隣の街に住んでいるけれど、運動不足だからと言って、遠い道なりを電車に乗らずに歩いて来てくれた。

2人に会うまで、道中カメラを持って、写真を撮る。
フィルムカメラを最近買って、少しずつ撮りためている。人と会っていないので、植物ばかりになる。まだまだ慣れなくて、腕が悪いのか、カメラが良くないのか、ピントが来てな

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母の日

母の日

近所のギャラリーへ、子供用のマスクを作り、寄付するために自転車に乗って届ける。

ひと月ほど前の真夜中に、ギャラリーのお子さんが通う保育園で子供用のマスクが足りていないこと、材料はゴム以外はあるのでよかったら縫ってもらえないか、と相談があった。コロナで仕事も休みにならず、保育園に子供を預けざるを得ない家庭が多いのに、保育園ではマスクが足りていない、子供たちが心配な状況だ、とのことをきく。

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お元気ですか

お元気ですか

テレビばかり見ていると、不安が募ってくる。少し前に、ニューヨークのことをニュースでやっていた。遺体を置く場所がなくて、冷凍のコンテナがブルックリンに設置された、と。
人が一人も歩いていない街が映し出された。
タクシーも走っていない。誰もいない街。
ニューヨークで出会った人たち、いまどうしているだろう。もしあのコンテナの中に知り合いが入っていたら、と想像して血の気が引いた。

人っ子ひとりいない

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猫に読み聞かせる

猫に読み聞かせる

風呂に入っていると、猫がひと鳴き、ふた鳴きした。真夜中の冬に、寂しそうな声だった。

姿は見えないけれど、窓の向こう、塀の上だろうか、近くにいる。
家の近所を通る猫は全員にゃあこと名前を付けている。
「にゃあこ」
と声に出して呼んでみるとしばし静かになって、足取りが止まったような気配がして、今度は小さな声で、甘えた様子でひと鳴き返事をした。かわいい。

きっとふさふさした毛並みのあの子か、

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タンメンを食べる

タンメンを食べる

福岡のミュージシャンと出会ったのは2年くらい前のことで、印象に残っているのは一緒にタンメンを食べに行ったこと。

もう一人友人のミュージシャンが誘ってくれて、3人で行く。
寒くて晴れた日に、行列ができているお店に一緒に並んだ。
10人くらい並んでいる人がいた。お店に入ると店主はゆっくりゆっくりと調理していた。友人が
「職人みたいで手さばきがきれいなんだよ」と言っていたので、手に注目してその姿を

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身体の好きなところは

身体の好きなところは

写真家の友人にポートレイトを撮ってもらうことになり、電車で向かう。
駅に着いて、差し入れを何も持ってこなかったことに気付いて、ニューデイズでお菓子を買う。コアラのマーチと、清見のオレンジの砂糖菓子。改札を出て、右側の公園にいてください、とのメッセージが届き、ニューデイズの冷気をまとって、外へ出る。
自転車を引きながら、大きな麦藁帽子をかぶっている彼女。

彼女とはじめて出会ったのはもう4年ほど

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身の回りの物、新しい発見

身の回りの物、新しい発見

「ガラクタを捨てれば自分が見える」という本を読んだ。
数年前に友達にすすめられて読んだ、服部みれいさんの「あたらしい自分になる本」にちらりと書かれていた。この本は弱っているときに読んだこともあり、とっても意識が変わって、わたしの中に革命をもたらしたような大事な本。
たまに家でぱらぱらとめくっているのだが、その日はガラクタの本を紹介するページが目に入ってきた。
アマゾンで検索して中古で買う。時を経て

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数学は必要ない

数学は必要ない

幼い頃から数学が苦手だった。

数字がでてくると、頭は固まってしまう。いまでもたまにお客さんからもらったお金のお釣りを間違えるので必ず電卓で打って確認するようにしている。

学生の頃、わたしの数学を助けてくれたのはS先生だった。
小学生の高学年から、高校の1年生くらいまでお世話になった。
先生は元中学校の先生で、近所に住む友人のお母さんの担任の先生だった。
とっくに教師は辞めているのだが、お家

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美術のともだち、醒めない夢

美術のともだち、醒めない夢

作業を早めに切り上げて、友達と飲みに行く。五反田に行きたいもつ焼き屋があるんだ、と誘われていた。
作業を途中でやめるとき、いつも延び延びになってしまう。ここのパーツまで裁断したら、とか、このメール返したら、出よう!と思うのに、色々忘れ物がでてきて、どんどん出るのが遅れてしまう。

15分くらい遅刻してしまう、、、と思いながら、ラインを打ってお店の地図を送ってもらう。
友達はまたか、と思ってるだ

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またかけるね

またかけるね

韓国に仲のいい友達がいる。
彼女は大学の同級生だった。正確に言うと初めは同級生ではなかった。彼女はわたしよりひとつ年上で、一年先に大学へ入っていたのだが、途中で病気療養のため休学していて韓国に戻っていた。
そうして同じ学年になり、仲良くなった。在学中も何度か家に遊びに行ったり、出掛けたりしていたが、それは卒業する間際だったと思う。なぜだか卒業間際から仲良くなった。
彼女はいつも明るくて、身長がすご

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わたしとあの子は仲が良い

わたしとあの子は仲が良い

よく行く中華屋がある。
駅前にある赤い看板の店で、階段を上るとビニール製の頼りないロール式の扉が付いている、中国人のお兄さんがやっている店だ。

ずっと気になってはいたものの、どこか怪しさが漂い、開店してから店に入るまで一年以上は経過していたと思う。赤い看板は中国の漢字でメニューが書いてあり、とにかく派手で胡散臭さもあった。

足を運ぶきっかけになったのは友人の「あのお店なかなかいいよ」の

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カキフライの季節

カキフライの季節

展示会の準備に追われているときは、毎回こうなると、ひとりぼっちで卒業制作をしているみたい。
他のみんなは卒業して行って、一人だけまだ残っているみたいな感じである。来る日も来る日も同じようにミシンを踏んだり、あれやってこれやって、と考えて、日が暮れていく。

あまりに喋らなさすぎるのと、食事とらなさすぎて衰弱してきているような気がして、近所の割烹屋さんへ行く。

一度近所を散歩しているときに発見し、

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五粒のチョコレート

五粒のチョコレート

不思議な縁あって、彼女と出会ったのは、6月のこと。

展示しているお店は 20時までなのに、20時過ぎちゃいますとメールがあった。
道路の脇であたふたして電話をかけている女性。遠くからでもパワフルそうなのがわかる。素敵な人。
「やっと会えたね!」と言って笑っていて、わたしもなんだかおかしくて笑ってしまう。
「場所がどこだかわかなくて!」

一月前にいきなり知り合いから連絡が

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震災のあった夜

震災のあった夜

東日本大震災のあった日は、母の誕生日だった。
わたしは大学生で、学校の近くののマンションに一人暮らしをしていた。

震災のあった日もマンションにいて、2階だったが大きく揺れた。

学外展の準備をしていて、服を縫っていた。アイロンをかけていたが、電気もブレーカーが落ち、使えなくなった。パソコンから聞いていたラジオも落ちて、部屋が静まりかえり、ただ事じゃない雰囲気が漂っていた

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