五粒のチョコレート
不思議な縁あって、彼女と出会ったのは、6月のこと。
展示しているお店は 20時までなのに、20時過ぎちゃいますとメールがあった。
道路の脇であたふたして電話をかけている女性。遠くからでもパワフルそうなのがわかる。素敵な人。
「やっと会えたね!」と言って笑っていて、わたしもなんだかおかしくて笑ってしまう。
「場所がどこだかわかなくて!」
一月前にいきなり知り合いから連絡があって、相談にのってほしいフランスに住んでいる人がいるから、と言われて、何がなんだかわからなかったが、その人の連絡先を教えてもらって、メールでのやりとりをする。
わたしの近況を知らせたり、彼女のことをきくうちに、向こうの学校に通っていて、日本でのインターン先を探している、とのことがわかった。
ちょうど、その日は実家に帰っていて、電車やバスでずっとメールを打ち家に着いて、ご飯を食べていた頃家に電話がかかってきて、話をすることになった。何度も国際電話の通話料が心配だからスカイプにしましょう、 と提案したのだが、IDも教えてもらってかけたのに反応がなく、彼女は使い方がわからないようだった。 家の電話だと、受けたほうはお金がかからないし、フランスだとそこまで高くないから大丈夫です、と言われた。 ふだんは家電がないから、その日は幸運だった。 こんなことは初めてで、どきどきしてしまったが、一言目でなんだか良い感じの人だというのがわかった。 思えば国際電話も初めてだった。きくと、50 代だというからびっくりした。20 代のうちにフランスへ渡って、もう半生を向こうで過ごしているそう。
長年ずっと同じ場所で働いていたそうだが、テキスタイルを一から学んでみたいと、仕事をやめて、学校に通うことにしたらしい。そのあと病気にもなって、ここもここも切ったわと言う。この一年くらいが本当に嵐のようだったと。
そんな彼女と昨日初めて渋谷で会った。わたしのポップアップショップをやっているお店に来てくれるということになったのだ。最終日だった。 はつらつとして、やっと着いた!と笑いながら、でも着いた途端、「煙草を一服したいな」と言った。 煙草を吸う女性って嫌いにならないの、なんでだろうな、と思っているうち、「でもとりあえず見ようかな」と言ってお店に入ってくれる。そういえば 20時までなのに、20時も10分ほど過ぎていた。 色々と眺めて、これは?これは?ときいてくれて、あれこれ説明する。 彼女はクリーム地のコットンに緑の格子柄のプリントのワンピースを着ていた。Vネックに不思議な綱のような紐が渡っていて、とても素敵なデザインだった。きいたら随分前に買った MARNI なの、と言っていた。 かっこいい。
「よかったらこのあとお話ししましょうよ!」と言ってくれた。あと少ししか東京にいないのだ。
「早く終わらせてね!」と言われて、教えてあげた定食屋さんに先に入っていてもらった。
「フランスに来てくれたらいつでも案内するよ、別荘もあるし、ひとりくらいだったら部屋も広いから泊めてあげる!」と言ってくれた。
「ポンヌフの恋人の、ポンヌフに行ったみたいな」と話すと、 「ポンヌフはパリだわね。」と教えてくれた。川に架かる橋の名前。 「あの映画有名だけど観たことがないなぁ。働いてからずっと忙しかった。」
「さて、これからどのようなブランドになってゆくのかしら?」ときかれて、うまく答えられなかったけど、とにかく絵を描きたいことと、多くの人に受け入れてもらえるような、デザインの服を作りたいな、とか話す。
あっちでも、こっちでも、どっちでもいいよって言ってあげれるようなデザインが、多分わたしらしいかもしれない、と話してみる。そうしたら「かなこさん、わたしはさっき作品をみて、光をとても感じたわ。」と彼女は言ってくれる。
「かなこさんはとても柔らかいけど、波長は緩やかで、( 手で波線を描きながら )、 きちんと表現したいものがある。それぞれにストーリーがあるんだよね。」
そんなこと言われたのは初めてで、とても嬉しかった。
光や水や風や、自然を感じる、とは言われたことあるんですけどね、と話して誤魔化してしまったけど、照れくさくて、余計なことを言ってしまった。わたしはそういう風にはずっと考えられなかった、とも教えてくれた。
鼻筋がすっと通っている。鼻筋が通っている人は意志や目的がきちんとある人、と誰かに教えてもらったことがある。
それから、料理の話をした。わたしがはまっている料理家の高山なおみさんの話。昨日作ったものの話。
「わたしは料理が好きだけど、夫も好きなの。上手でね。わたしは野菜とか油物とかささっとしたもの を作って、夫はじっくりした煮込みとか作るの。 何時間も何日も煮込んでね、フランスっぽいって感じ。キッチンの取り合いになるよ。」
「わたしが生地をつくるのと、料理は似てますね。」 と話すと、そうそう!と目がきらきらしていた。
「じゃがいもとにんじんとたまねぎでも、それぞれ火の通りがちがうから、じゃあにんじんから茹でよう、とか そういうの、わかってくるのよね。この食材が旬だから使いたい、とか、そうしたらいつ買い物に行こう、 とか予定まで 決まってくる。何百回も何百回も失敗して、ね、わたしもずっと主婦やってるからもう何回失敗したことか、 でもずっとやってるとそういうの、わかってくるのよね。」
最後にフランスのおみやげをくれたから、友情のしるしにちいさいバッグをプレゼントしたら、すごく喜んでくれた。
お店の前で一緒に写真を撮った。「なんだか母親と娘みたいね!お母さんいくつ?」と話して、また笑った。
信号の前でまた話して「もうこれが青になったら、渡ってね、きりがないから!」といってハグしてくれた。
「初めて会った気がしないわ!」といって、わたしもそうで、また笑った。
「またどこかで会えるわよ。」
フランスのおみやげのチョコレートは、3 人くらい小人が描かれていて、箱が好き、と彼女は言っていた。でもたった 5 粒しか入ってないの、とはきいていたけど、宝石のような、それぞれ違うほんとうにきれいな 5 粒のチョコレートだった。
(20170731)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?