見出し画像

タンメンを食べる

福岡のミュージシャンと出会ったのは2年くらい前のことで、印象に残っているのは一緒にタンメンを食べに行ったこと。

もう一人友人のミュージシャンが誘ってくれて、3人で行く。
寒くて晴れた日に、行列ができているお店に一緒に並んだ。
10人くらい並んでいる人がいた。お店に入ると店主はゆっくりゆっくりと調理していた。友人が
「職人みたいで手さばきがきれいなんだよ」と言っていたので、手に注目してその姿を見る。湯気がたちのぼっていて、しんとした店内、なんだか神聖な雰囲気が漂っていた。

そのタンメンは、今まで食べたことのあるタンメンの中で一番美味しかった。
タンメンの一番上と、麺の上、スープの上にそれぞれ何枚かチャーシューがのっていた。お店をでたあと福岡の友人が
「てっぺんにのっているのと、側面にあるのと、それぞれチャーシューの味が違った」
と言っていた。わたしともうひとりはそのことには気づかなかった。

そのあと知り合いの喫茶店を覗くも、お客さんが一杯で入れなかった。
知り合いが出てきて
「わりいな」
と言った。人気店なのだ。

古本屋へ立ち寄って、1人がなにか小説を買っていた。昔の推理小説を福岡の友人は好きだと言っていた。今はない道具や手法で、謎を解いたりしていくから面白いのだと。

道を歩くとき、ふたりは何かを歌っていた。しっかり歌詞があるときもあったような、鼻歌や口笛だったような。言葉を話すように、音楽をやっている人は、特に歌を歌っている人には、音楽が自然に出てくるものなのかなと思って、いつもそのまま聴いている。

さっきのお店は若い人が集まって、これから行くお店は年老いた人が集まってる、と友人が福岡の友人に説明していた。

喫茶店はたしかに老人たちが集まっていて、それぞれに話し込んでいた。
若い人たちはわたしたちくらいだったけど、老人たちと同じようにケーキを頼み、コーヒーを飲んだ。
音楽の話とか、猫のこと、ボンヤリ話していたような感じ。甘いケーキをおいしいね、と言って食べた。


この2年の間に、ほかの友達の猫が死に、友達は新しい猫を飼い始めた。


福岡の友人はこの2年の間に新作を作ってまた東京に来た。


2年前に、毎月CDを送ってくれる約束をして、一度だけCDが送られてきた。たしか2年前のクリスマスだったように思う。本当に送ってくれるとは思っていなかったから、嬉しくてすぐ返事を書いた。小さな絵もたしか描いて返事を送った。

それきり返事は来なくて、ラインも交換したのに、いつのまにかいなくなっていて、どうしているのか心配だったけれど、元気にやっていたという。

その間も東京に歌いに来ていたようだったけれど、なかなか会えずに、2年越しとなった。
阿佐ヶ谷でのライブを見に行って、そのあと友人4人で飲みに行った。あんまりゆっくり話せなかったけど、楽しかった。
今回はタンメンは食べれなかったし喫茶店へも行けなかった。
「他に行きたいところはあまりないけど、あのタンメンだけはまた食べたかった」
と友人は言った。
わたしもあの日以来タンメンを食べていない。チャーシューの味が本当に違うのかはまだ確かめられていない。でも友人が言うのだから間違いない、と思っている。

福岡の友人は2年前も
「ありがとうまたいつか」
と言って去っていった。

たしか2年前は明け方まで一緒に飲んでいて、色んなことを話した。
「朝まで付き合ってくれてありがとう、直してくれたカバンは死ぬまで使って、棺桶にも入れてもらうよ」と何回も言ってくれ、わたしが直したカバンを大事そうにしていてくれた。駅の改札を入って歩いていき、ギターを抱えて手を振る姿を覚えている。


駅前で差し出された握手の手が思ったより力強かった。またいつかは、今回は2年越しだったなぁと思った。なかなか会えない友人との別れ際は、いつもさみしいなと思う。


(20200213)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?