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贅沢な一人の時間 〜職人の旅日記〜

2015年10月。

夕闇が迫るなか自転車を漕いで、富山県の海岸線にある無料キャンプ場に到着した。

キャンプ場とはいえ、無料の所は管理人さんもおらず、気分的には公園野宿に近いものがある。
(もちろん、無料で使わせてもらえるのでありがたいのだが。)

10月の平日には、キャンプ場に一人という状況が多い。
変な人が来たらどうしようかと、少し不安にもなる。


気分を高めるために焚き火でもしよう。
海岸にはよく乾いた流木が打ち上げられているので、薪には事欠かない。

揺らめく火をみて身も心も暖まる。
でも、なんなんだこのわびしさは。

秋の空気のせいだろうか。
こんな夜は、波の音も不気味に響いてくる。

わびしさよりも眠気が勝ったところで、テントに入って寝袋にくるまる。

秋の夜は肌寒くて、寝袋にくるまるのが心地良い。

ふと目が覚めると、テント越しにも少し空が白みはじめているのがわかる。


野宿などをした緊張感が強い夜は、かならずと言っていいほど、日が昇る前に目が覚める。

そして、無事に朝を迎ようとしていることにホッとする。

テントから這い出て、そのまま海岸まで歩く。
闇の中で波が押し寄せてくる。
やっぱり、夜の海は怖い。

そのままつっ立っていると、少しずつ空の色が変化してきた。

山際から濃いオレンジ色がにじみ出してきて、少しずつ薄まりながら広がってくる。

まだほとんどの人が寝静まっている世界で起こる壮大な変化に見とれる。
なにものにも変えがたい、贅沢な時間だと感じる。

京都に帰ったら、こんな時間を表現できるモノ作りが出来たらいいなと思った。

みなさまのご支援で伝統の技が未来に、いや、僕の生活に希望が生まれます。