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散文

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#映画レビュー

悲しみのなかにある笑い

悲しみのなかにある笑い

なんかもうムチャクチャな話だった。飲んだくれの私立探偵ニック・ビレーンが、行く先々で暴言を吐き散らし、女のケツを押さえようと追いかけ回し、ムカつく男がいればそいつのケツも蹴り飛ばす…。チャールズ・ブコウスキーの遺作、「パルプ」。

主人公ですら、「こんなダメな奴にケツの一蹴り以外何かを手にする資格があるのか?」と自問するくらい下品な話。それなのに不思議と、作品全体に哀愁を誘う雰囲気が漂っている。

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ゆめまぼろしでも

ゆめまぼろしでも

身体の性別に関係なく、誰であれ女性性と男性性を持ち合わせているものですが、女性性の愛を求める男性性の強い思いや、精神的な飢え渇きは、特に切実なものであるような気がします。

自分自身の中であまりにも男性性や父性が強いと、前進、向上することや、規範、厳しさなどが重視され、内面生活がちょっと苦しいものになりそうです。女性性も男性性も、社会で生きていく上ではもちろん両方が大切な性質ではあるけれども、生き

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映画「ガタカ」の感想をちょっと真面目に書いてみる

映画「ガタカ」の感想をちょっと真面目に書いてみる

先日、夢から目が覚める瞬間に「ガタカ」という声が頭の中ではっきりと聞こえた。そういえば、そんなタイトルの映画があったような気がする。ということで、その日の午後にさっそく観てみることにした。

ざっくりとあらすじ。

遺伝子操作により優れた才能を持って生まれた「適正者」と、自然妊娠によって生まれた「不適正者」に分けられた世界。不適正者として誕生したビンセントは、生まれながらに大きなハンデを負いながら

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プラスチックの翼で無限の彼方へ

プラスチックの翼で無限の彼方へ

このところ、トイストーリーのバズのことが頭から離れなくなっていた。
特別なきっかけもないのになぜ急に思い浮かぶようになったのだろうと不思議に思っている間にも、ネットでやたらバズの写真が流れてきたり、友達からスタンプで送られてきたりと、突然あらわれるバズに怯える日々がしばらく続いたので、このさい自分から歩み寄って久しぶりに映画を鑑賞してみることにした。大したことは書けないけど、一応観た感想を書いてお

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エルサ、もう一度歌って

エルサ、もう一度歌って

ありのままに生きるということは、世間に背を向けることだと心のどこかで思ってた。でもいくらなんでもそれはない。礼節さえ大切にしていれば今はそんなに冷たい世間でもないはずだ。

「アナと雪の女王2」を観たあとからずっと考えてる。前作「アナと雪の女王」は、姉妹の絆を取り戻したという点ではたしかにハッピーエンドだったんだろうけど、私がエルサだったらあの物語の中で起こった出来事はかなり大きなトラウマになるだ

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最後までよろしく

最後までよろしく

今年の八月頃、韓国映画「ビューティー・インサイド」を観た。毎日目が覚めるたびに性別も年齢も人種も全く違う身体に変わってしまう主人公のウジンと、彼が愛した女性イスのラブストーリー。ウジン役は123人の役者が演じたらしいけど、どんな姿であってもウジンの目の奥に浮かぶ表情はどことなく似ていた気がする。もう幸せはとっくの昔に諦めたというような寂しげな瞳が印象に残る作品だった。

この映画を観ている間、銀色

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