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卒業式の先生のなみだ、わたしの涙。

なんでも言葉にすればいいってもん

じゃないと思う時がある。

伝えることは大事だけれど、やっぱり

言葉にできない感情もある。

世の中すべての事が、言葉で翻訳された

途端に、ちょっとちがうものに形を

変えてしまうような気がする。

だから、そのままのなすがままで

いいのになって思うこともよくある。

今日、インタビュー番組を見ていたら、

ゲストの方が、共演者からの手紙に

涙されていた。

7年の月日の思い出を、綴られたやさしい

手紙。

ゲストの方の頬には、涙が伝ってゆく。

背広の内ポケットからそっとだした

ハンカチでとめどない涙をぬぐわれる

その姿をテレビの映像はずっと映し続けた。

ドラマ番組を卒業されるらしかった。

映され続けることが商売だとしても、

すこし残酷だなって勝手に

思っていた。

その手紙の朗読が終わったあとで、

ホストの方がすぐさま、涙の理由を

問いかけた。

問いかけないでほしいって密かに

思っていたけど。

涙の理由ってみんな聞きたがる。

負けたアスリートが流す涙に問いかける。

謝罪会見で流した涙を責め立てる。

会社の上司の前で泣けば、なんだ

その涙はって言われたりする。

涙の理由なんていらないのにって、

ずっと

思っていた。

そのゲストの方も答えなくていいよって

本心では思っていた。

でも、今しがた流した涙の理由を、

心を探るように

確かめながら言葉を尽くして答えて

いらっしゃった。

そのシーンは、はやく過ぎてほしいと思い

ながらわたしはみていた。

小さい時も、なぜか涙がでてきてしまう

ことがよくあった。

泣いたら負けよって、言われながらも

泣いていたけど。

その時もじぶんでも理由はよくわから

なかった。

最近も、いろいろなセンセーショナルな

画像をみるにつけ、そこの「暮らし」が

唐突に暴力的に奪われているのをみている

せいなのか、ときどきパソコンの前で

涙している時がある。

気が付くと、あ、って思うけど。

そのまま流すままにしている。

理由は掘らない。

書けないせいかもしれないし。

昨今の世界のせいかもしれないし。

どれがどれかわからないから。

卒業式の時も涙はでる予定は、

なかった。

枝垂桜

まわりのクラスの人たちは泣いていたけど。

わたしは大学もまだ決まっていなくて

2次試験の若干名に受からなければ、

その年の進路は宅浪(自宅浪人)だった。

桜並木の真下でみんなで写真を撮りながらも

未来は不安で、できていると信じていたので

泣かない笑わないそんな高校最後の写真を

友達と撮った気がする。

謝恩会もおわったそんな卒業式の日。

これでお開きってなった時に、かつて担任だ

った化学の先生通称メルモに、言葉をかけら

れた。

わたしはほんとうに、不届きな生徒だったの

で、いつだったか、メルモに悪態をついたこ

とがあった。

わたしは勉強のできなさが尋常じゃなかった

ので個人面談が増えていた。

そして精神面でも頑なすぎて喋らないので

心配ばかりかけていた。

どんな先生とも距離を持って過ごしたかった

が故、じぶんからは歩み寄れなかった。

そんなメルモに

「先生という仕事は職業のひとつですよね、わたしと
一生関わるわけじゃないので、そんなに気にして
もらわなくていいです」

と、鬼生徒が鬼発言をしたことがあった。

その時メルモは、そんな哀しいこと言われたんは

教師になってあんたがはじめてやって、

すこし泣いていた。

メルモの涙は、わたしの気持ちをゆさぶった。

だから、いつもの調子で「なーんて」って

わたしは、かるい口調で逃れたつもりだった。

実の所、酷いこと言ったなもうこれで

地獄行きだなって思ったけど。

メルモのわたしへの態度はそれでも変らなかった。

先生は人気者だったので、みんなから

慕われていた。

辛口の、白黒つける気ぃの強い先生で内心は

好きだった。

そして謝恩会も最後の最後で、お別れがやってきたとき、

メルモがわたしの側に寄ってきてくれた。

積年のお叱りをうけると覚悟していた。

「7年間、いい子ちゃんにならへんかったあんたが

好きやったで」

って、けらけらとまっすぐ言ってくれた。

いい子ちゃん、きらいやねんってメルモは

本音までぽろっともらした。

その時メルモが、泣いていた。

そして、絶対に卒業式では泣くものかって

思っていたのにメルモにちょっと泣かされた。

あの時のふくざつな思いの涙を想う時

今もメルモに会いたくなる。

あの頃のわたしは、まったくどうしようも

なかったけれど。

今もあまり変わらないけど。

あの頃の自分に送るとしたらこんな言葉

かなって思う。

その後、書くことを始めた頃に先輩の方から

教わった句集のなかの俳句だった。

なにもないポケットに手がある

住宅顕信


見上げればこんなに広い空がある

住宅顕信




泣きたい夜は 泣けばいいし 泣けない夜も あっていい
ひそやかな ひとしずくに うつる風景に 君の名つけて
  

咲き枝たる桜のフリー素材 https://www.pakutaso.com/20150337063post-5238.html

ぱくたそさんに素敵が画像を拝借しました。
ありがとうございます。

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