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【オカルトアニメの決定版】世紀末オカルト学院を紹介

今回は、名作オカルトアニメ「世紀末オカルト学院」を紹介したい。

「世紀末オカルト学院」

どんなアニメ?

テレビ東京・アニプレックス共同のアニメ制作プロジェクト「アニメノチカラ」の第3弾作品。2010年7月〜9月まで放送され、同プロジェクトのフィナーレを飾る作品でもある。
雑誌「ムー」の監修を受けており、オカルトをメインテーマとしつつ、心温まる人間ドラマも描かれる。

あらすじ

時は1999年「神代マヤ」はオカルト好きの父、神代純一郎の急死を受けて私立ヴァルトシュタイン学院の学長に就任する。
ヴァルトシュタイン学院はオカルトの研究が盛んで、周囲からオカルト学院と呼ばれていた。父親との確執やオカルト嫌いも手伝い、マヤは学院を廃校にするべく画策する。

「神代マヤ」

父親の葬儀の日、突然空から携帯電話が落ちてくる。続けて、上空から全裸で現れた謎の男と遭遇する。落ちて来た携帯電話を拾い上げ、マヤは目の前の怪しげな男に対して悲鳴を上げたのだった。

「謎の男」

そしてその夜、持ち帰った携帯電話で何気なく、鏡越しに自分を撮影したところ、骸骨が映し出されたのである。マヤは不気味な画像を前にまたも悲鳴を上げるのだった。

マヤが自身を撮影した際の画像

次の日、学長室で業務を行うマヤの前に新任教師が自己紹介に訪れる。
名前を安倍実というその男は前日に上空から現れた全裸の変質者だったのだ。昨日のことはなかったかのように、自己紹介を続ける安倍実にマヤは槍を振り回し問いただす。観念した安倍実はマヤに持ち去られた携帯電話がなければ、未来を救えないと打ち明ける。
そしてさらに驚くべきことが語られる。2012年ノストラダムスの大予言は的中し、地球は宇宙人に侵略され滅亡の危機に瀕しているのだと…

西暦2012年地球は宇宙人の侵略を受けていた

侵略を受け、レジスタンスを組織し抵抗を続けていた人類はある時、宇宙人のテクノロジーを手に入れた。人類はそのテクノロジーを元にタイムスリップ技術を開発し、エージェントを1999年へ送り込み大予言の阻止を図った。そしてそのエージェントこそが安倍実もとい「内田文明」なのである。
大予言は「ノストラダムスの鍵」と呼ばれる物を破壊することで回避が可能とされており、文明の使命は鍵を見つけ出し破壊することである。

「内田文明」

実は文明の落とした携帯電話は「歴史改変シミュレーター」という装置であり、撮影した人や物の未来の姿を映し出すことができるのだ。
ノストラダムスの鍵に関係している人や物を撮影すれば、平和な2012年の光景が映し出され、また無関係な物を撮影すれば荒廃し滅亡を迎えた光景が映し出されるのである。

マヤは文明から語られた話を信じられなかった。それに内田文明という名前も世間を賑わす超能力少年と同姓同名であり、尚更でまかせに思えたのである。しかし、文明はその超能力少年は13年前の自分だと主張する。
同一人物ならスプーンを曲げてみろと言い放つマヤに、文明はスプーンを手に取り念じるのであった。
曲がらないスプーンに怪しい男…マヤは持ち去った携帯電話を投げつけると共に学長室から文明を追い出すのであった。

超能力少年と同一人物だと主張するが…?

文明がオカルト学院へ赴任してきた日の夜、マヤは実家で死霊に襲われる。
その時、窓を割って文明が現れた。エージェントにも関わらず狼狽える文明をマヤは殴り飛ばす、しかし、そのはずみで秘密の隠し部屋を見つけたのだ。
隠し部屋へ逃れたマヤだったが、既に文明は伸びており役に立たない。そこに先ほどの死霊が現れ、マヤの首を締め上げる。朦朧とする意識の中もう駄目かと思われたその時、壁の一部が崩れまばゆい光が差したのだ。死霊は光によって消滅し、崩れた壁の空間から一冊の手帳が出てきた。

死霊に襲われ絶体絶命のマヤ

意識を取り戻した文明とマヤは発見された手帳を読み進める。手帳を記したのはマヤの父、純一郎だったのだ。手帳には文明が語ったノストラダムスの鍵についても記されており、マヤは文明の話がデタラメでないことを確信する。そして、手帳の最後にはヴァルトシュタイン学院をすぐに離れ、全てを忘れて平穏に暮らせと綴られていた。
ただのオカルト好きと思い関係がギクシャクしていた父が、実は世界を救うため密かに研究を続けていたという事実にマヤは動揺する。
突如未来から現れたエージェントを名乗る男、襲いかかってきた死霊、そして父の遺した手帳、マヤは一晩考えた。翌日、学長室へ文明を呼び出したマヤはノストラダムスの鍵探しへの協力を申し出る。

二人は鍵を見つけ出し滅亡を回避することができるのか。感動のオカルトストーリーが開幕する!

ここまでが第1話〜2話の大まかなストーリーである。まず特筆したいのが、豊富なオカルトやSFからのオマージュだろう。
1話ラストで文明がタイムスリップして現れる際に上空へ描かれる紋章が、ムーではおなじみのウンモ星人のUFOと同じマークなのだ。

1話ラストのシーン
本物のウンモ星人のUFO

ウンモ星人についても語りたいが、長くなるので割愛させていただく。簡単に言うと70年ほど前から人類へコンタクトを試みる、14.4光年離れた惑星に暮らす異星人である。気になる方はムーのバックナンバーを調べて欲しい(ムー2020年7月号)

他にも背景のプロップとしてカブレラ・ストーンなどのオーパーツが多数出演しており、マヤが文明へ振り回した槍はロンギヌスの槍そのものである。
また、過去のオカルト・SF映画からのオマージュも多く見られ、小ネタ満載である。視聴した際には、いくつネタに気づけたか意識するとさらに楽しめるかもしれない。

豊富なオカルト要素

先ほどあらすじの項でも少し述べたが、本作は数多くのオカルト要素で構成されたアニメと言っても過言ではない。オカルト要素をこれ程までに散りばめたアニメがかつて存在しただろうか。以下に代表的な例を示す。

オープニング映像

「モスマン」と「ESPカード」

「モスマン」から逃げる文明とその足元に「ESPカード」が見受けられる。
モスマンとは有翼の怪物で、災厄をもたらすとされるUMAだ。モスマンの有名な事例として、アメリカオハイオ州のシルバーブリッジ崩落事件との関連がある。橋が崩落した日にモスマンが目撃され、崩落を予告するために現れたと噂されているのだ(ムー2020年2月号)
次にESPカードだが、これはゼナー・カードとも呼ばれていて、かつて超能力の実験に用いられていた。カードをシャッフルし5枚1組を裏返して置き、1枚ずつ描かれた図柄を当てていくことで透視やテレパシーの実験を行ったのである。

螺旋階段の背後に見えるマヤ文明の「ヒスイの仮面」

マヤ文明は現在のメキシコ〜グアテマラのラテンアメリカ地域に存在していた古代文明で、4世紀〜9世紀にかけてユカタン半島で成立したとされる。
そして、メキシコ南東部のパレンケ遺跡の王墓から発見されたのが「ヒスイの仮面」である。石棺から発見されたパカル王の遺体にはヒスイの仮面が被せられていた。ヒスイの緑色はマヤ人にとって高貴な意味を持っており、当時の文化が伺い知れる貴重な発掘品となっている。

ルネ・マグリットの「共同発明」によく似たカット

オープニングで一瞬映し出されるルネ・マグリットの「共同発明」であるが、これ自体は有名な油彩作品であってオカルトに関連する物ではない。しかし、五島勉氏の「ノストラダムスの大予言」という著書でよく似た絵が掲載されていたのである。ノストラダムス繋がりで引用されたのだろう。

五島勉の「ノストラダムスの大予言」

本編

水晶髑髏?

文明が歴史改変シミュレーターの操作説明を受ける際「水晶髑髏」が登場する。水晶髑髏とはマヤ文明、インカ帝国、アステカ文明などから発掘された遺物で、ノミなどで切削した痕跡がなく作られた意図や目的、製造方法が不明のオーパーツとされていた。現在では精密検査の結果、近代になって作られたフェイクとされている。

聖徳太子の地球儀

文明がノストラダムスの鍵を探すため、オカルト学院内を探索し、資料室で数々のオーパーツを発見する。その一つが「聖徳太子の地球儀」だ。
606年に聖徳太子によって建立されたと伝わる斑鳩寺には、ゆかりの品とされる宝物が多数所蔵されている。江戸時代には宝物のリストとされる「斑鳩寺常什物帳」が作られ、その中に地中石と記されていたのが聖徳太子の地球儀である。地球儀には15世紀以降に発見されたアメリカ大陸、南極大陸も描かれているため、聖徳太子が生きたとされる6世紀末~7世紀前半の飛鳥時代には不相応なオーパーツとされている。

カブレラ・ストーン

さらに、次のカットでは「カブレラ・ストーン」が映し出される。カブレラ・ストーンとはペルーの内科医ハビエル・カブレラ氏が所有する1万5000点以上の彫刻石のコレクションである。表面に恐竜や人間が描かれ、人間が恐竜に餌を与えているような場面もあり、恐竜が絶滅していなかった証拠だとして取り上げられ一躍有名となった。
炭素年代測定では1万2000年以上前に作られた物との鑑定結果が出たが、真相は地元の農家が妻と一緒に制作した物だった。表面を火で炙るなどして、炭素測定の結果を誤魔化していたのである。

このようにオカルトファン、ムー読者はニヤリと出来るシーンが多数存在する。ここでは挙げきれなかったオカルト要素もたくさんあるので、一時も目を離さず見つけて欲しい!

精密な時代描写

本作は劇中に登場する小物など、細部に渡って作中時代が1999年ということを強く意識させる演出がある。ノストラダムスの大予言が取り沙汰され、一斉を風靡していたことを知る世代はノスタルジックな気持ちに浸れるだろう。

「午後の紅茶」「Pooky」「ファンタ」

昼休みにマヤと友人が雑談するシーン、お菓子とジュースが映る。注目したいのが右にあるファンタクリアピーチだ。これは1999年に限定フレーバーとして発売されていた物で、記憶にある人もいるのでは。

ファンタクリアピーチ

また、歴史改変シミュレーターもシャープが発売していた「J-SH04」という最初期のカメラ機能付き携帯電話が元ネタとなっている。J-SH04の発売は2000年のため、1999年の時代設定とは合わないがカメラ機能付き携帯電話の元祖としてノスタルジーの象徴的に登場させたのだろう。

「歴史改変シミュレーター」

終盤の超展開

終盤に町の洋食屋、中川食堂の看板娘「中川美風」の正体が邪悪な魔女と判明する。ヴァルトシュタイン学院で続けて発生する怪事件の元凶は彼女であった。彼女の目的は魔界の扉を開くことである。

「中川美風」
正体は邪悪な魔女だった!

正体が暴かれた未風は世界を滅ぼすため実力行使に出る。それを阻止するため、父の手帳に記された魔を滅する呪文を唱えようとするマヤ。
しかし、魔女の力は圧倒的で手帳は遠くへ飛ばされ、マヤは拘束されてしまう。文明も抵抗しようと投げ飛ばされた手帳を拾いに向かうが、美風の色仕掛けにより酷く動揺してしまう。

美風を撮影したら平和な学院が映し出された

その時、拘束されたマヤが美風を歴史改変シミュレーターで撮影したのだ。見事、平和な景色が映し出されノストラダムスの鍵が判明した。その事を動揺している文明にマヤが告げると正気を取り戻した。その後、二人で呪文を詠唱して邪悪な魔女を倒すのであった。

呪文により消滅する邪悪な魔女

直後、文明はノストラダムスの鍵の破壊完了を未来のレジスタンスへ報告する。報告を受けたレジスタンスは歓喜し、みな一様にアジトの外へ飛び出す、しかし外の景色は以前と変わらず荒廃したままであった。

鍵を破壊したにも関わらず、荒廃したままの世界

実はノストラダムスの鍵は文明だったのである。マヤが美風を撮影した際に一緒に文明も映り込んでいたため、平和な未来の光景が映し出されていたに過ぎなかった。

実は文明こそ「ノストラダムスの鍵」だった

ヴァルトシュタイン学院では近々、超能力少年として一斉を風靡している内田文明を招くイベントが予定されていた。その際に未来から来たエージェントの文明と13年前の文明が出会ってしまいタイムパラドックスが発生する。タイムパラドックスは次元の歪を生んで、異次元の門を開き宇宙人が襲来するのだ。これがノストラダムスの大予言とされた災厄の真相である。

タイムパラドックスを回避するため、マヤはイベントのキャンセルを文明の母に伝える。イベントを控え東京から学院のある長野まで足を運んでいた母親は激怒する。そしてそのまま滞在先のホテルへ戻ると、留守番をしていたはずの文明がいないのである。

過去の自分と会う恐れもなくなり、文明はマヤと屋上で最後の挨拶を交わす。だが、そこに13年前の自分が姿を表す…

出会ってはいけない2人

オカルトに興味のあった文明は滞在先のホテルを抜け出して、自らヴァルトシュタイン学院へ足を運んでいたのだ。過去の自分へ文明は「これからも自分の足で歩け」と何かを察したかのようにエールを送る。
その時、上空から異次元の門が出現する。門からは宇宙人の尖兵が現れ、学院を破壊しようとする。
宇宙人へ立ち向かおうと超能力少年の文明が走り出す、しかし敵わず吹き飛ばされ気を失ってしまう。心配して駆け寄ったエージェントの文明は気絶している過去の自分の胸元にスプーンを見つける。

まさか…?

スプーンを手に取り、覚悟決めた文明は「歴史が変わるのはここからだ!」と告げる。文明の体をエネルギーのようなものが覆い、失われた超能力に再び目覚めたのだ。
異次元の門からは次々に宇宙人の尖兵が学院へ降り立とうとしていた。そこへ文明はスプーンを掲げながら向かっていくのだった。

再び超能力に目覚めた「文明」

宇宙人の攻撃を超能力で防ぎ、異次元の門へそのまま特攻していく文明は最後に「(過去の)俺を頼んだぞ」とマヤへ言い残し消えていった。
奇跡が起こり異次元の門は消えた、内田文明の命と引き換えに…

門が消滅した後、マヤは残された歴史改変シミュレーターでノストラダムスの鍵の破壊が完了したことを未来へ伝える。
一報を聞いたレジスタンスがアジトから飛び出すとそこには平和な2012年の景色が広がっていた。

滅亡は無事回避された

終盤の超展開からのタイムパラドックス、そして感動のフィナーレである。
基本的には役立たずの文明が最後に漢を見せたシーンは涙を禁じえない。
さらに、終盤のエンドロールではマヤと超能力少年だった過去の文明が家庭を築いていると思しき描写があり、世界を守った文明が最後に伝えたことをしっかりマヤは守っている。

総評

数多くのオカルト要素とSF、人間ドラマを見事にまとめ上げた名作である。
終盤少し超展開気味だが、オカルトに超展開は付き物である。突拍子のなさこそがオカルトの醍醐味だ。物語の構成でもオカルトを表していると評価してもいいだろう。
同じ制作プロジェクトの「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」や「閃光のナイトレイド」よりも攻めた作風でありながら、王道を往く物語は素晴らしいの一言。
アニメノチカラというプロジェクトの最高傑作と言っても過言ではない。

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