記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

【夏に見たいセカイ系】イリヤの空、UFOの夏を紹介

今回は夏に見たい名作「イリヤの空、UFOの夏」を紹介したい。

「イリヤの空、UFOの夏」

どんなアニメ?

秋山瑞人氏による同名ライトノベル「イリヤの空、UFOの夏」を原作としたOVA作品。2005年2月〜6月まで全6巻が発売された。
ひと夏に描かれる、少年少女の切なく儚い物語である。

あらすじ

夏休み最後の夜、園原中学校へ通う2年生「浅羽直之」は学校のプールへと忍び込む。深夜のプールで彼を待ち受けていたのは「伊里野加奈」との偶然の出会いだった。突然現れた浅羽に驚き、伊里野はプールサイドから落ちて溺れてしまう。溺れる伊里野を水中で抱きしめ介抱した浅羽は、彼女の手首に金属球が埋め込まれていることに気づく。

「浅羽直之」
「伊里野加奈」

プールサイドへ上がった二人。浅羽は溺れた彼女に名前を聞いた。少女は自らを伊里野加奈と名乗った。名前を聞いた浅羽は泳ぎ方を教えると彼女に提案したのだった。それからしばし、二人は深夜のプールで泳ぎの練習を重ねていた。その時、サイレンの音と共に見知らぬ男が現れる。

入里野の兄のようなものを自称する男

突然の第三者に浅羽は警戒して名前を聞いた。自らを入里野の兄のようなものと自称したその男に、浅羽はますます警戒心を露わにする。だが、入里野から見知った人物だと告げられる。
男は自分も昔はよく学校のプールへ忍び込んだと聞いてもいない思い出話を始めた。どうやら、浅羽がプールへ忍び込んだことは不問にするから今日は帰れということらしい。どこか釈然とせず浅羽はプールを後にした。

プールを取り囲む車両と人

学外へ出た浅羽が目にしたのは、たくさんの車両と人だった。浅羽に気づいた黒服の男たちは無言で近づいてくる。そして、次に浅羽が気がつくと近くのバス停にいたのだった。

翌日、夏休みも終わり2学期最初のホームルームで転校生が紹介された。その転校生はなんと、昨夜プールで出会った入里野加奈だったのだ。

転校生の入里野加奈

ヒロインの秘密

日本は「北」という勢力と戦時下にある。新聞の枚数が減ったり、天気予報が放送されなかったりと有事の情報統制が敷かれていた。というのは建前で、実際は異星からの侵略者と長きに渡って戦争をしていた。

情報統制が敷かれる

実は入里野は「ブラックマンタ」と呼ばれる侵略者に唯一対抗できる戦闘機のパイロットだったのだ。手首に金属球が埋め込まれているのもブラックマンタを操縦するためだ。過去、ブラックマンタのパイロット5人いたが、既に入里野を残して全員死亡している。
ブラックマンタの操縦は神経系に特殊な処理を施され、ESP能力を持つ子供にしか出来ないのである。

「ブラックマンタ」

最後の戦い

あの夜、プールサイドで出会った男は「榎本」という自衛軍の関係者だった。そして浅羽に真実を告げる。入里野は間近に最後の戦いを控えていて、その戦いに負ければ人類は滅亡すると言うのだ。
さらに、入里野は「子犬作戦」と呼ばれる計画の一環で園原中学校へ転入していたのだ。ブラックマンタのパイロットは仲間を守ることに戦う意味を見出していた。仲間を失い、一人になった入里野は生きる意味も、戦う意味も見失っていたのだ。
そこで、入里野に新しく「守るべきもの」を与えようとする計画が子犬作戦だ。クラスメートの誰かを子犬に仕立て上げ、最後の戦いへ向かわせる予定だった。だが、偶然にも深夜のプールで出会った浅羽が子犬として選ばれていたのだった。

浅羽とラーメンを啜る榎本

最後の戦いの日、浅羽に迎えが来る。彼の仕事は入里野を説得して最後の戦いへ向かわせることだ。
自衛軍の空母へ降り立った浅羽は、榎本の案内でブラックマンタの近くで塞ぎ込んでいる入里野の元へ駆け寄った。

格納庫に鎮座するブラックマンタ

入里野は浅羽と出会い、初めて死にたくないという感情が芽生えた。そして浅羽は、最初に出会った時から今までずっと好きだったこと、そしてこれからもずっと入里野が好きだと告白する。それを聞いた入里野はようやく浅羽のことが分かったと呟いた。

それと同時にリフトが動き出し、ブラックマンタのキャノピーが開いた。入里野は浅羽を守って死ぬと決心したのだ。戦う意味、そして生きる意味さえ亡くした彼女が最後に見つけた守るべきもののために…

最後の戦いへ赴く入里野

甲板へ向かった浅羽はブラックマンタの出撃を見届けた。浅羽は見事に守るべき子犬としての役目を果たしたのだ。

出撃した入里野を見届ける浅羽

セカイ系としての考察

「イリヤの空、UFOの夏」が出版された00年代前半といえば、セカイ系というジャンルがサブカル界隈では大きな賑わいを見せていた。

原作ライトノベル

同年代かつ代表的な作品は他にも、漫画原作でアニメ化や実写映画化もされた「最終兵器彼女」や新海誠監督の「ほしのこえ」がある。

「最終兵器彼女(アニメ版)」
新海誠監督「ほしのこえ」

これら多くのセカイ系はヒロインが不幸な目に遭うというポイントが共通している。加えて、なぜ不幸や不条理に見舞われるかといった理由が明確に描かれない点も特徴的だ。つまり、ヒロインと主人公の関係性という狭いスコープからセカイを覗くような形で、あえて理由や原因などの物語的文脈を排して二人の悲哀を描くのだ。

本作「イリヤの空、UFOの夏」も同様にUFO異星人など暗示させるワードは出てくるが、ヒロインが戦わなければならない確固たる理由は作中で明示されない。
だが、他のセカイ系と大きく違う点も存在する。それはヒロインと主人公の関係性が、実は大人たちによって仕組まれたものであるという種明かしだ。
エピローグにて「子犬作戦」という計画が明かされ、セカイ系という物語構造ながら、どんでん返し的な要素も孕んでいる。

セカイ系でありながら、しっかりオチを用意した本作はセカイ系の決定版と言って差し支えないと思う。
このどんでん返しは原作を読まないと味わえないので、ぜひ手に取って頂きたい。

総評

00年代を代表するセカイ系の決定版と言える名作である。本作はセカイ系と呼ばれる物語的構造を深く理解し、見事に描いているお手本的作品である。意図せずセカイ系チックになっている作品もあるが、本作は計算され尽くしたセカイ系だ。
90年代から勃興したセカイ系というジャンルを洗練、進化させた偉大な名作と評しても過言ではないだろう。

他にも、この年代のアニメとしては原作に忠実という点も評価できる。00年代というとアニオリ展開など、原作を毀損するような出来栄えの作品が多く見られた。だが、本作は全4巻の原作小説の魅力を忠実に映像化したアニメ化ある。
全6話のOVAでよくまとまっていて、視聴しやすいので是非おすすめしたい。
もちろん、原作小説も素晴らしいので読んで頂きたい!














この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?