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エッセイ

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社会との関わりの中で課題に思ったり疑問に思ったりしたことをエッセイにしています。
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仕事をする意味についてサン=テグジュペリ「人間の土地」を読んで考えた

仕事をする意味についてサン=テグジュペリ「人間の土地」を読んで考えた

「星の王子さま」の作者として有名なフランス人作家サン=テグジュペリ(1900-1944)が、飛行機乗りの仕事を始めたのは26歳のときだった。第一次世界大戦後、大陸間で郵便物を送る郵便飛行サービスが誕生し、そのパイロットとして採用されたのだ。

当時、飛行機乗りは死と隣り合わせの職業だった。今と違ってGPSもないため、自分がいまどこを飛んでいるのかは勘と経験を頼りに推測するしかなかった。飛行機乗りた

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「クララとお日さま」で走った電撃。カズオ・イシグロを読むときは「ドM気質」があると良い

「クララとお日さま」で走った電撃。カズオ・イシグロを読むときは「ドM気質」があると良い

2021年に発表されたカズオ・イシグロの新作長編小説「クララとお日さま」を読んで、電撃が走った。それは、過去2作の長編小説「わたしを離さないで」「忘れられた巨人」からの布石とでも言うべき、カズオ・イシグロの思考の変遷が垣間見えたからだ。

本稿では「クララとお日さま」を読んで走った電撃についてと、カズオ・イシグロの小説世界の成り立ちやその魅力について語りたい。

※まだ読んでいない方でも小説を読む

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映画「街の上で」を観て思うこと。私たちは「明日には死ぬかもしれないし」と言わなければ生きていけない

映画「街の上で」を観て思うこと。私たちは「明日には死ぬかもしれないし」と言わなければ生きていけない

2021年4月に公開された今泉力哉監督の映画「街の上で」を観た。下北沢の街を舞台に、そこで生きる人々の日常が描かれている映画だ。

「明日には死ぬかもしれないし」という言葉が頭に残った。自分も言ったことがある。「明日には死ぬかもしれないんだぜ」。他の人が言うのも聞いたことがある。なぜ私たちはその言葉を言うのか。「街の上で」を観て思うことを書く。

※一部セリフを引用していますが、脳のデキがいまいち

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「正しい」とはどういうことか 西研『哲学的思考 フッサール現象学の核心』を読んで考える

「正しい」とはどういうことか 西研『哲学的思考 フッサール現象学の核心』を読んで考える

あるときふと、「彼女はきちんとものを考える人だった」という1文が浮かびました。たぶん、村上春樹がどこかでそんなようなことを書いていたんだと思います。そして思いました。一体、「きちんと」とはどういうことなのだろう、と。

最近、「正しさ」ということについてよく考えていました。それは、何が正しいことなのか、まったく分からなくなってきたからです。背景には、毎日ツイッターでありとあらゆる意見を目にしている

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メンヘラという言葉について

メンヘラという言葉が苦手だ。誰かに向かって言うのも嫌だし、自分にも使わない。また、誰かが会話で「メンヘラ」という単語を言っているのを聞くのも好まない。でも、なぜメンヘラという言葉が苦手なのかを説明するのはとてもむずかしい。うまく説明しようとして失敗した経験が何回もある。

例えば以前、僕は「メンヘラいない説」を唱えていた。これはそのまま「メンヘラなんて、この世にいない」という説だ。

この説の根拠

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