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【Destination】第46話 少年の選択

危険を承知でルカを助けに戻るべきか、身の安全を優先して村へ帰るべきか。サトシとマモル、ふたりの意見はわかれ口論となる。

「村に帰るべき」

「人の厚意を踏みにじり、感謝の気持ちを伝えても笑顔のひとつもなく冷徹。そのうえ異常なまでの強さ。助けにいけば反対に殺されるのではないか」。マモルの意見は絶対反対。

「助けに戻るべき」

「冷たい態度、人間離れした強さ、確かに感じた殺意と狂気に満ちた恐ろしい目。マモルの言うとおり村へ帰ったほうが得策かもしれない。だが、彼女がいなければ命を落としていた。今度はこちらが助ける番」とサトシはゆずらない。

互いに意見をぶつけ合うふたりだったが、マモルのはなった言葉でサトシの心に迷いが生じる。

「命をかけてまで彼女を信じ助けたい」その理由を聞かれたサトシは困惑、返答につまってしまう。

「血のかよっていない人の姿をした冷たい人形」。

理不尽なあつかいをうけ、納得できない気持ちでいっぱいのマモルは、不信感をつのらせ、心のフタを固く閉ざし、彼女のもとにいこうとするサトシを断固として引き止める。

人間だれしも、よい部分とわるい部分をもっている。本来ならよい部分をみつけ、互いに褒めあい伸ばすよう心がけたほうがいい。

しかし、潜在的に人は相手の足りない部分、悪い部分を意識しやすい。その人物に「よい部分がある」とわかっていたとしても。

10あるうち9がよい部分、わるい部分はのこり1のみだったとしても、わるい部分の印象が強くなる。

また、恨みつらみは不快な出来事からすぐには生まれず、ある程度時間が経過してからわいてくる感情。

キライな気持ちが強ければ強いほど、相手に対して苦手意識が生まれ、その相手がいないときでも尾をひき、イヤな部分だけを考える時間が長くなる。

それは、おもに「他人にだまされ痛い目に合い、損をしたくない」という自己防衛からくる心理。

人同士には相性がある。「顔すら合わせたくない」、「同じ空気を吸うのもイヤ」、「同じ空間にいるだけで身震いする」、そのくらい心底嫌いな人がいて当然。

平気であおり運転する人、SNSで特定の人物を誹謗中傷、自殺まで追い込む人、窃盗、放火、傷害、殺人を犯す犯罪者もこの世には存在する。

日常生活で出会うなかにも、考えられない行動をとる者がいる。職場で出会うこともあれば、今まで普通に付き合っていた親しい人が、ときにそのように変化する場合もある。

高圧的に理不尽なことを言い、日常的にパワハラ発言を繰り返し、信じられないような差別発言をする上司。マウントを取りたいがために、こちらの心を傷つける発言を平気で投げつける上司。

こういった人に一度も出会ったことがない人は、おそらく存在しない。

そのキライな人が困っている、困難な状況に陥っているとき、それでも助けたいと考える理由。サトシは自分のなかでひっかかっているものを懸命に探していた。

「ボクがお姉ちゃんを助けたい理由……。なんだろう……。なにか大事なことを忘れてるような……」

「命以外にも、お姉ちゃんに救われたものがあったはず。なんだっけ……。なにか大事なことがボクのなかで……」

「他人の夢を鼻で笑うようなバカの言うことに耳をかすな。真に受けなくていい」

「こんなつまらないヤツらに言われたぐらいで諦めるな。その程度のものなら、最初からやらないほうがいい。絶対に折れない心をもて!」

「どれだけ笑われる夢であろうと、なにもしていない人間より、挑戦している者のほうが人間として圧倒的にカッコいい。人としても成長できる」

「本当にやりたいことなら、だれになにを言われたって諦めなくていい!口で言い返すより、結果をだして見せつけてやれ。そのほうが早いし確実」

「みんなが恐怖で動けないなか、勇気をもって村をでたんだ。アタシはアンタたちから大きな可能性を感じてる」

「これからどんな壁にブチあたっても、その度胸があれば必ずブチ破れるよ」



「そうだ……。心を救われた」

「ヒュドラのヤツらにバカにされたボクの夢を、お姉ちゃんは笑わなかった!ボクの可能性を信じてくれた!自信と勇気を与えてくれたんだ」

「だからボクも信じてる。それがお姉ちゃんを助けたい理由!」

「やっぱりダメだよ、マモルくん!」

「このまま村に帰るのはまちがってる!ボクたちの夢は人を助ける仕事に就くこと!」

「それなのに、苦しんでいるお姉ちゃんを見捨てていいはずがない!目指しているものとはちがう!今逃げたら一生後悔する!自分を許せなくなる!」

「それは将来の話!大人になってからのね!」

「後悔を後悔で終わらせなければ、それでいいんだ!残念だけど、今のボクたちに人を救う力なんてない。この悔しさをバネにして、胸をはって前に進もう」

「しつこいようだけど、お姉ちゃんは助けてくれなんて言ってなかったでしょ?ありがた迷惑でしかないんだよ。この世には常識が通用しない、おかしな人もいるんだ」

「あの人はボクたちが子どもだからってバカにしてる。どうせなにもできないんだって!」

「だから怒鳴って追い払った!目ざわりだったんだよ!」

「ちがう!!お姉ちゃんはそんな人じゃない!」

「きっとなにか事情があったんだ!それを確かめるためにも、もう一度お姉ちゃんに会いにいく!」

「だから、やめなって!」

「もしかしたら、ヒュドラ軍のだれかが来てるかもしれない!助けに戻るのは自殺行為でしか……」

「だったら、なおさらじゃないか!」

「これ以上、マモルくんと話してもムダだ!キミがなんと言おうと、ボクは助けにいくから!」

「……サトシ……くん……」

サトシはマモルの制止を振りきり、ルカのもとに向かい走り去っていった。

マモルの予想どおり、ルカはヒュドラ軍No2ナオキと戦闘中。いけば巻きこまれ命を落とす危険性がある。そうなってしまえば本末転倒。

彼の選択は正しいのか。サトシをまちうける運命は。


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