見出し画像

【Destination】第52話 助けたい理由


「命と心を救ってくれた。可能性を信じてくれた。皆から無理だと否定され、バカにされた夢を笑わなかった。この人だけは、なんとしても助けたい」

その強い思いを胸に、小さな少年はひとり巨大な悪魔に立ち向かう。

世界大戦停戦後より約2年。そのあいだ、ヒュドラ軍から迫害を受け、苦しめられてきたサトシを含むラハマの村人たち。

「人を人として見ない」

その理由を聞かされたサトシは、ナオキの残忍で身勝手きわまりない、同じ人間とは思えない非情な言動に言葉を失った。

「イジメられる者には、イジメられるだけの理由が必ずある」

「体が小さい、自分の意見を言えない、やり返す度胸がない。貧しい、醜い、汚い、頭が悪い、そして弱い。そんなヤツはイジメられて当たり前!文句を言う資格はない!平和に生きる権利もッ!」

「なんの価値もない、お前ら貧乏人に存在価値を与えてやるため、生きる意味を与えてやるために迫害しつづけた」

「弱者が強者のエサになるのは至極当然!お前らはそのために産まれてきたんだからなッ!」

「それをイジメだなんだと騒ぎやがってッ!被害者ぶるのはやめろッ!」

「子どものころ、オレはいじめられていた。つまらんヤツに大切なものを奪われ、悔しくてつらくて毎日泣いていた!」

「だが、オレはてめぇらクズとはちがう!勇気を出して相手に立ち向かい、強くなろうと努力した!自分の命を、尊厳を守るため、死にもの狂いでッ!」

「オレにはどんなヤツをもねじ伏せる力と才能がある!」

「これはまさしく、神がオレに与えたもの!オレは神に選ばれし特別な存在ッ!」

「オレはなにをしても許される!」

「自分がやられたことを他人にやり返すのは罪ではない!オレには許されるだけの理由がある!」

自らもイジメられた過去をもち、人の痛みを理解しながら、苦しんでいるのを知りながら、ナオキは残虐行為を繰り返していたのだった。

自身が味わった苦脳を他人にも与えるために。

自分は地獄から這い上がろうと、死に物狂いで努力して強くなった。イジメを受けつづける者と跳ね返す者との決定的な差はそこにある。

努力だけではない。自分には神から与えられた、「すべてを支配する力」、「秀でた才能」、「決して倒されない強靭な肉体」もある。

「自分の言動は道理にかなっている。自分に一切の非はない。自分は正しい!努力もせず泣いているほうが悪い。イジメられる弱者が悪い」

ナオキはそう言い放ち、拳を振り上げ「天罰」と称し、ためらいもなく少年を殺害しようとする。

それでもサトシは逃げだそうとはしない。

ゆっくりと近づいてくる死を前にしても、怯まずナオキを睨みつけ、一歩たりとも引かない。

勇敢な少年の身に生命の危険が迫る。





「そろそろカタをつけようじゃないか。覚悟はできたか?小僧ッ!」

「………………」

「バカか、お前ッ!早く逃げろ!殺されるぞッ!」

「イヤだッ!絶対に逃げない!」

「ボクはおねえちゃんを助けるために、ここへ来たッ!逃げるわけにはいかない!」

「女を……、助けるだと……。お前が……」



「ハァッハハハハハハッ!!」



「なにがおかしいッ!!」

「おかしいに決まってるだろッ!これが笑わずにいられるかってんだッ!」

「………………」

「髪の色も目の色もちがう。顔も似ていない。姉弟ってわけじゃない。お互い名前すら知らない」

「それなのになぜだ?身内でもないのに、なぜ、この女を助けたい!」

「カッコつけてぇのか?自己満足か?それとも金目当て?まさか、ヤラせてもらおうなんて下心があるんじゃねぇだろうな?偽善者よ!」

「いったい、なにが言いたいんだッ!」

「人は見返りがなけりゃ人を助けようとはしない」

「………………」

「自分の身を捨ててまで助けるからには、それなりの理由があるはず。てめぇがそこまでして、この女を助けたい理由はなんだ?答えて……」

「ないッ!!」

「!!!!!!」

「ここに来るまで、いろいろ考えてた。おねえちゃんを助けたい理由……。恩があるだって、ずっと考えてた。でも、ちがう!」

「恩があるから助ける。恩がなかったら助けない。そうじゃない!人を助けるのに理由なんかいらない。頭が狂ったお前には、わからないだろうけど……」

「目の前に困ってる人がいたら、苦しんでいる人がいたら、助けるのが当たり前だッ!人として当然のことだッ!!」

「!!!!!!」

「……思い出した……。ヒデキさんの言葉……」



「どうしてキミを助けるかだって?そんなの考えたこともなかったよ」

「まぁ、あるとすれば、キミが困っているから、つらそうにしているからかな」

「ルカ。人が人を助けるのは当たり前のことなんだ。人のもつ優しさは本能。止めることはできない」

「目の前に苦しんでいる人がいたら助けて当然。そこに理由や意味なんか存在しない。いちいち探す必要もない。だから、キミもわたしに恩を感じる必要はないんだよ」

「キミの苦しみや悲しみをすべて理解するのは不可能。わたしは超能力者じゃないからね。でも可能な限りわかってあげたい」

「もし、それでキミが少しでも救われるなら、少しでも笑顔を取り戻してくれるのなら、わたしにとって、それ以上幸せなことはない」

「人は皆、支え合い、つながりをもって生きている。そうしないと生きていけない。それほど、人間は弱い生き物なんだ」



「『人を助けるのに理由はない』。そうだ。たしか、ヒデキさんもそう言ってた。あのガキと同じことを……」

「てめぇが世界一強いなら、なにを言ってもかまわねぇ。お前の言うことがすべて正解になるだろう。言ったことを実現する力があればな」

「だが、力も実績もないお前の言葉には重みが足りねぇ。すべて戯言で終わっちまう」

「これだけ教えてやっても、まだわからんのか。つくづく頭の悪いガキだッ!」

「お前なんかとベラベラしゃべっている時間はない。そろそろ、引導を渡してくれる。一撃であの世へ送ってやるぞ!」

「殺られてたまるか!ボクが死んだら、おねえちゃんが……」

「死ねッ!!」

「!!!!!!」

「!!!!!!」


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?