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現代詩の入り口

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記事一覧

「現代詩の入り口」25 ー 詩の可能性について考えたかったら、伊藤比呂美を読んでみよう

伊藤比呂美さんの詩を読みましょう。
これは昨年(2023年7月)、ぼくの「Zoomによる詩の教室」に伊藤さんが対談で出てくれた時に、用意した資料です。
ところで、一昨日(2024年3月30日)に伊藤さんのイベントに行った時に、伊藤さんは、「自分がわからない言葉を使って詩を書きたくない」と言っていました。ですから伊藤さんの詩は、すべて伊藤さんの言葉で書かれています。そして自分の言葉だけで詩を書く、と

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「現代詩の入り口」24 ― 詩の罠にとらわれてしまいたいと思うなら、金井雄二を読んでみよう

本日、対談をした金井雄二さんの詩を読みます。

金井さんの詩がいいなと、ぼくが思うのは、なんでもない時間の中にいることを書いているのに、そこから叙情がにじみ出してくると感じられる時だ。

そうか、こんなになにげないことを書いているんだと思って、読みながら油断していると、まさに詩に足をすくわれる。あっと、思って、その時にはもう金井さんの詩にとらわれている。金井さんの詩は、どこか、草原の中にひっそりと

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「現代詩の入り口」23 ー 覚悟のできた詩を読みたいなら、長嶋南子を読んでみよう

長嶋南子さんの詩です。先日の講演の時のために用意した原稿で、でも講演では時間の都合で話せなかった詩について書いてあります。読んでいただければわかると思います。どれもとても素晴らしい。「技術」と「覚悟」の、ともに備わった詩です。

✳︎

「愛情」 長嶋南子(詩集『失語』より)


寝ようと思った
隣の男がこちらを向いて
気持ちよさそうにいびきをかいている
口をあけて寝ているので
臭ってくるのだっ

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「現代詩の入り口」22 ー 詩の本質がむき出しになっているところを見たいなら、荒川洋治を読んでみよう

「現代詩の入り口」22 ー 詩の本質がむき出しになっているところを見たいなら、荒川洋治を読んでみよう



「キルギス錐情」     荒川洋治

方法の午後、ひとは、視えるものを視ることはできない。

北ドビナ川の流れはコトラスの市(まち)からスコナ川となり史実のうすまった方位にその訛(か)を高めている。果たしてそこにひとは在り、ウラルの高峰をのぞみながらでごろな森を切っている。倒れ木の音は落ち

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「現代詩の入り口」21 - 芯のあるわかりやすさを知りたいなら、菅原克己を読んでみよう

芯のあるわかりやすさを知りたいなら、菅原克己を読んでみよう

詩に選ばれている人なんていないのかなと、ぼくは思うのです。詩を選ぶのはいつだって人の方で、そしてだれでもが詩を選ぶことができるのだと思うのです。詩を書いている人は、詩に選ばれたのではなく、詩を選んだ人ばかりです。ですからみんなが同じなんです。

で、今日はあたりまえの話をしようかと思っています。自分の書いているような詩だけが詩ではないよ

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「現代詩の入り口」20 ― 理屈抜きに詩の魅力に浸りたいなら、高階杞一を読んでみよう

「現代詩の入り口」20 ― 理屈抜きに詩の魅力に浸りたいなら、高階杞一を読んでみよう

本日は高階さんの詩を読んでみようと思います。十一篇あります。どれも面白いです。

象の鼻
てこの原理
家には誰も
キリンの洗濯
ゆうぴー おうち
春’ing
サイの河原
だぶだぶの夏
桃太郎


象の鼻 



「象の鼻」 高階杞一

世界の端っこに
鼻のない象がいて

午後には
おばさんがきて

夜には

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「現代詩の入り口」19 ― 言葉っていつも新鮮なものなんだなと感じたかったら、柳本々々を読んでみよう

「現代詩の入り口」19 ― 言葉っていつも新鮮なものなんだなと感じたかったら、柳本々々を読んでみよう

本日は柳本々々(やぎもと・もともと)さんの詩を二篇読んでみようと思います。では最初の詩から。



「ソファーが来るまでの待つような会話」  柳本々々

青いソファーがくるという。ソファーがくるなら、部屋に空間をつくらないとだめだよね?と聞くと、くうかんってなんのこと? と言う。だってあれだよ

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「現代詩の入り口」18 ― 命をしっかりつかんでいたかったら、野木京子を読んでみよう

「現代詩の入り口」18 ― 命をしっかりつかんでいたかったら、野木京子を読んでみよう

本日は野木京子さんの詩を読みます。とてもいいですよ。

次の十篇です。

「鏡の空と幻獣」 (『クワカケルル』)
「ティルトシフト」 (『クワカケルル』)
「空の水」 (『クワカケルル』)
「ウラガワノセイカツ」 (『クワカケルル』)
「渦のもの」 (『クワカケルル』)
「声のひび割れ」 (『クワカケル

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「現代詩の入り口」17 ― 詩を書くことの、喜びとさびしさに触れたかったら石原吉郎を読んでみよう

「現代詩の入り口」17 ― 詩を書くことの、喜びとさびしさに触れたかったら石原吉郎を読んでみよう

かつて、石原吉郎の詩を読んでは、その詩とともに一日を過ごしたことがあります。ここに載せるのはそれらの日々です。99篇あります。なぜここでやめたのかを、ぼくは思いだすことができません。

(1)

時間・2   石原吉郎

それでいい町なのだろう
それでいい人間なのだろう
男とはいわない
だが来たのに

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「現代詩の入り口」16 ― わたしたちの詩の源を知りたかったら、萩原朔太郎を読んでみよう。

「現代詩の入り口」16 ― わたしたちの詩の源を知りたかったら、萩原朔太郎を読んでみよう。

本日は萩原朔太郎の詩を七篇読んでみます。

ここに載せる文章は、昨年(2022年)の講演のために用意した草稿ですが、時間の関係で話せなかったものです。ぼくの読み方で萩原朔太郎の詩を読んでいます。次の7篇です。

ありあけ
愛憐
恋を恋する人

大砲を撃つ
殺人事件
掌上の種



ありあけ

ながい疾

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「現代詩の入り口」15 ― 揺るぎない詩のあり方にふれたかったら、好川誠一を読んでみよう

「現代詩の入り口」15 ― 揺るぎない詩のあり方にふれたかったら、好川誠一を読んでみよう

好川誠一の詩を読んでみようと思います。好川さんは詩誌「ロシナンテ」の同人でした。何年か前、粕谷栄市さんとお酒を飲む機会があって、その時に粕谷さんが「松下さん、好川の詩について書いていましたね」と言ってくれたことを思い出します。ああ、読んでいただいていたのだなと、それだけでぼくは感激していたのです。

それで

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「現代詩の入り口」14 ― めそめそしていない叙情に浸りたいなら、富岡多恵子を読んでみよう

「現代詩の入り口」14 ― めそめそしていない叙情に浸りたいなら、富岡多恵子を読んでみよう


富岡さんの詩を読んでまず感じることは、詩というものを書こうという焦りや、変な欲が感じられないということです。なんだか普通の文章をそのまま書いて、どこかの縁側で足をぶらぶらさせても詩が書けちゃう、そういうのが詩だと考えている、そんな感じがするんです。
言い方を変えれば、なんでも詩にできちゃう人っていう

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「現代詩の入り口」13 – 言葉の前に立ち尽くしたいなら、三角みづ紀の詩を読んで見よう

「現代詩の入り口」13 – 言葉の前に立ち尽くしたいなら、三角みづ紀の詩を読んで見よう

本日は三角みづ紀さんの詩を読んでみようと思います。三角さんともZoomで対談をしました。その時に用意した資料になります。

次の10篇です。さて始めましょう。わくわくします。



ヒューストン (『オウバアキル』)
しゃくやくの花 (『カナシヤル』)
切愛 (『はこいり』)
追伸 (『はこいり

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「現代詩の入り口」12 - 胸に直接響く詩を読みたかったら、宮尾節子の詩を読んでみよう

「現代詩の入り口」12 - 胸に直接響く詩を読みたかったら、宮尾節子の詩を読んでみよう

この原稿は宮尾さんとの対談のために用意した原稿です。宮尾さんがご自身で詩を朗読して、そのあとで僕が解説をするという手順でした。書いた本人の前で詩を解説するというのはとても緊張します。

(1)

グッド モーニング 宮尾節子

コップ一杯の
水道の水が
ひとりの大人の人間を
立ちあげる
いちばん正しい
飲み物

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