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最近仕入れて売れた「1冊だけの棚差し」

非正規雇用の書店員として働く身です。

担当する棚の選書をある程度任されています。しかし完全に自由というわけでもなく、様々な制約が存在します。この本をいい場所に積んでください、あの本は動かなくてもしばらく返品不可です、など。

ゆえに私は平積みや面陳ではなく、1冊だけの棚差しで他店との違いを生み出そうと考えています。もちろん売り上げを見込める新刊や話題書を切らさないことも大事。でもいまは本部の一括注文やAIの自動発注が十分にカバーしてくれる。むしろ過剰在庫を懸念しないといけないほどです。

リアル書店では、実は平積みよりも棚差しの方が多く売れています。大雑把に眺めれば、どこの店の棚も同じような顔触れでしょう。しかしじっくり見てもらえれば「こんな本があるのか」という邂逅を得られるはず。

最近1冊だけ仕入れ、買っていただいた本を2点紹介します。

「孫子」の関連書はたくさん出ています。ただ多くのお客さんは内容そのものではなく、それをいかに己の仕事へ落とし込むかを知りたくて手に取っているはず。その意味では本書がオススメです。

何度か読み、その度にヒントをいただいています。「無理して勝つぐらいなら余力を残して負ける」とか。故・野村克也さんが実践した「弱者の兵法」に興味がある方もぜひ。

著者は雑誌「文藝春秋」の編集長。2012年から2018年までは「週刊文春」で同職を務めました。いわゆる「文春砲」が話題を集めた時期です。

正直いいイメージを持っていませんでした。たとえば私が「初の女性首相候補」として期待していた某議員は「文春砲」で不倫が発覚し、世間から大いに叩かれました。それが原因かどうかはわかりませんが、いまは政治の世界を離れています。

たしかに不倫はよくない。馴れ合いに堕さぬメディアが必要なこともわかっています。ただどこか釈然としないものが残ったのも事実でした。

でも本書を読んで納得。モヤモヤが晴れました。もちろん週刊誌は正義の味方ではないし、会社である以上は売り上げを伸ばすことも大事です。でも決してそれがすべてではない(著者は「ブランディングとマーケティング」という言い回しで表現しています)という矜持が文面から伝わってきました。

少なくとも自分が想像していたよりもずっと新谷さんは多くのリスクを背負い、ファクトチェックを含む細やかな部分にまで気を配り、様々な不条理と戦っています。長いものに巻かれず、炎上にも屈しない気骨を備えている人だと感じました。

組織のリーダー論としても頷ける見解が多い。「高いモチベーションを持った人間は、命令されるとシラケる」とか。棚作りがまさにそうです。偉い人たちに「俺よりも読んでるんですか?」「現場の状況をわかってますか?」と訊きたくなる。

↓もどうぞ。有隣堂さんのYou Tubeチャンネルです。話のテンポが秀逸で、内容もなかなか踏み込んでいます。

引き続き「面白い1冊」を探していきます。

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