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直木賞の思い出

子どものころから漱石や芥川が好きでした。そのせいか、自分の中の関心が芥川賞よりも低かった気がします。

初めて受賞作を意識したのは96年ごろ。「佐竹雅昭の覇王塾」という文化放送のラジオを聞いていたら「史上初の江戸川乱歩賞・直木賞同時受賞」という声が流れてきて「お、何だろう」と。藤原伊織「テロリストのパラソル」のCMでした。

そのときは読まなかったのですが、のちに専門学校の先生に勧めてもらって手に取りました。ジャンルとしては「ハードボイルドミステリィ」。世渡り及び他人(特に女性)との接し方が下手な主人公の人柄に惹かれました。藤原氏の小説は男の弱さの描写が素晴らしいのです。「てのひらの闇」「ダナエ」もおでんの大根みたいに人情のダシがよく染み渡っていました。

最初に読んだ受賞作は唯川恵「肩ごしの恋人」かと。ただスイマセン、記憶力が薄弱なので内容を覚えていません。当時通っていた英会話学校のクラスメイトが読んでいたのかな? 数多ある読書パターンのひとつ「気になる人の好きな本を真似する」を履行したのでしょう。

受賞したタイミングで単行本を買ったのは、池井戸潤「下町ロケット」が初でした。本当に凄かった。ジェットコースターみたいにアップとダウンが続いて途中でやめられない。特に理不尽な逆境をみんなの力でクリアしたときの爽快感たるや。「直木賞を獲った小説はこんなに面白いのか!」と興奮しましたね。

そこから文庫で過去の受賞作を探し、東野圭吾「容疑者Xの献身」で大泣きしました。よくこんな展開を思いつくなと。映画も見ました。あれはあれで良かったけど初読時のインパクトには及ばなかったかな。

東野氏の「ガリレオ」シリーズは大体読みましたが、どちらかというと「悪意」「新参者」などの加賀シリーズの方にハマりました。特に印象深いのは「私が彼を殺した」です。トリックがさっぱりわからず、巻末の袋とじを見て理解したときの解放感がクセになりました。

西加奈子「サラバ!」は単行本で読了。プロレスファンとして知られる方で、受賞会見でもその話をしてくれました。嬉しかったです。この作品は上巻と下巻の落差が激しく、ちょっと寒気がしました。他人事じゃないぞと。でもおかげで若いころに密かに抱いていた「勘違い的ナルシシズム」を卒業するキッカケをもらえました。

あと忘れられないのは、荻原浩「海の見える理髪店」です。「小説すばる」掲載時に表題作と出会って感激し、他の著作もいくつか読みました。私はレイモンド・チャンドラーが好きなので、マーロウ信者のペット探し探偵(!)が主人公の「ハードボイルド・エッグ」が楽しかったです。人の多面性を描くのと涙腺をくすぐるのが巧い作家さんだと思いました。

皆さんの記憶に残る受賞作は何ですか?





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