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「夢は夢のままの方がいいのか?」それが問題だ

三省堂書店・小川町仮店舗のブックカバー。最後はシェイクスピアです。

↓で「ヘミングウェイ、カフカ、ドストエフスキー」を予想していました。当たらずとも遠からずでしょうか。

12月31日までの企画です。この機会にぜひ同店舗をご利用くださいませ。私も夏目漱石と太宰治のカバーが欲しかったので、各々の期間中に足を運びました。いずれもカラーリングが鮮明で、本にかけているだけでテンションが上がります。あと付されている一言がツボ。ちなみに太宰のは「積読の多い人生を送ってきました」。ふふってなりますよね。

ところでシェイクスピアといえば、皆さんはどの作品がイチオシですか? 「ハムレット」や「リチャード三世」もいいけど、私はやはり↓です。

野心に身を焦がし、ダンカン王を裏切るマクベス。置かれた状況こそ異なりますが、日本人の感覚だと「本能寺の変」の明智光秀を連想するかもしれません。彼がなぜああいう行動に出たのかはいまだに謎ですし。あるいは田中芳樹「銀河英雄伝説」のロイエンタールとか。

他のシェイクスピア作品と同じく、様々な箴言が胸を打ちます。「地獄の手先はつまらぬことで御利益を見せ、一番大事なところで打っちゃりを食わす」「顔つきから人の心を読み取る術は無い」「腹の中で先手を打っても行為が伴わねば追い越される」など。

結末までの流れに関しては、いろいろな解釈ができます。マクベスを気の毒に感じる人もいるでしょう。たしかに幸せではなかったかもしれない。でも心の底では後悔していない。私はそう確信しています。

決して魔女たちと奥方の教唆によって我を失ったわけではない。彼はずっとああしたかったのです。でも勇気がなくて一歩を踏み出せなかった。何かきっかけが欲しかった。それがたまたまあの予言だったのだと考えています。

唯一の誤算は彼が自身で考えているよりもはるかに優しく、そして一度手にしたものに執着する人間だったこと。良心の呵責。失う恐怖。「巨人の衣装を盗んで着用に及んだ小人の惨めさよ」というセリフが暗示しています。

人は追い詰められた時に初めて本性が顔を覗かせます。もしマクベスが本心を抑え込んで長生きしたら、そんな苦い真実を知らずに済んだのかもしれない。芥川龍之介「芋粥」にも通ずるテーマです。

ただ、そういった諸々を含めて、彼は己の生涯に納得できた。そんな気がするのは、私もまた野心の灯火をいつまでも消せずにいる小人のひとりだからでしょう。

夢は夢のままの方がいいのか? それが問題です。答え、いやその問いを深く掘り下げ、生きる糧とするためにもぜひご一読を。

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