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「本屋に『○○○』は必要か?」を考えさせてくれた一冊

何度となくオススメ本について書いています。

私のnoteがキッカケで読んだ、購入したという方が時折いらっしゃいます。嬉しいです。いい本だから多くの人に届けたい。そんな想いを込めて発信しているので。

一方で懸念していることもあります。それは「万が一、このnoteがキッカケである本がバズったら」ということ。

著者や出版社、あと大型書店の経営陣は大歓迎でしょう。でもお店の最前線で働く身からすると必ずしもそうではない。

店頭やSNSで売り切れた旨を伝えても連日同じ内容の電話が鳴り、同じ内容の問い合わせを受け、同じようにお断りをする。心無い言葉を浴びるケースも少なくない。

大手版元の公式アカウントが芸能誌やコミックなどの重版情報を告知することがあります。でも以前にも書きましたが「重版=すべての本屋に入荷する」とは限りません。取次へ確かめるのに時間を要するし、ウチみたいな中規模店は入るとしてもごく少数。予約は難しい。

多くの方は理解してくれます。でも一部の人が「もし入ったら教えてほしい」と食い下がってくる。

いやいや。いつどれぐらい入るか(そもそも入荷するかどうかも)わからないんだって。ただでさえ不確定な状況で「予約の予約」みたいな曖昧なものを無責任にお受けできません。仮に三冊入るとわかった後で受注を再開してもすぐに枠が埋まり、またお断りを繰り返すことになる。そして人手不足の書店現場には他にも膨大な業務があるわけです。

たまに思います。件の大手出版社のSNS担当は、こういう本屋側の苦悩をどれだけわかったうえで発信しているのかな、と。

「バズる=売り上げ急増=資本主義下の絶対正義」みたいな捉え方を全否定はしません。売れないと困ります。一方で、未知の何かに出会いたくて足を運んだ人が落ち着いて過ごせる空間を大事にしたい気持ちもある。

そんなことを考えさせてくれた一冊を紹介します。

著者は荻窪にある「本屋Title」の店主・辻山良雄さん。全国の本屋を訪ね、インタビューをし、感じたことが真摯な筆致で綴られています。

辻山さんはかつてリブロで店長を務めました。数字の大切さや商売上の清濁併せ呑む要素を当然わかっています。だからこそ、欲を喚起する大きな声に踊らされることを危惧もしている。

特に印象に残った箇所がふたつ。引用します。

「これを言えばすぐに売れる」とわかっているとき、わたしはわざとそれを言わないようにすることもある。

「しぶとい十人の本屋」 辻山良雄 朝日出版社 238P

店頭でプッシュしているその本は、ほんとうに自分で選んだ本だろうか? 自分で選んだように見えて、実はフォロワーの数や周りの店の動向から「選ばされた」ものではなかったか。

同312P

おそらく彼は、自身の発信が持つ影響力の度合いを正しく理解しています。ゆえに声の大きな側へ行かないように、自らブレーキを施している。

買ってもらわないと生き残れない。ただし売れればオールOKでもない。一時的に大ヒットすることで得られるものがあるなら、引き換えに失うものも出てくる。だったら身の丈の仕事を地道に長く続ける方がいい。そういうことではないでしょうか?

中規模のチェーン店で働く身としては、より多く売ろうという会社の方針と辻山さん的な小商いマインドを共存させたい。そこに町の本屋ともメガ書店とも異なる、独自の生き残る道を見出せる気がするのです。

お求めは、ぜひTitleかお近くの本屋にて。

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