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2020年7月の記事一覧

『高瀬舟』で「安楽死」はわからないが再読する夏の夜。No one knows "euthanasia" when reading "Takase Bune", but I reread it on a summer night.

いろいろなストレスで鬱病になると死にたくなる
でも今も生きていると死なずに良かったと思う
仕事が決まらずに今ゴクツブシのように寝食
生きる価値などないと徐々に思えてきても
それでも今は生きていきたいと思うのに
世の中では今の私を必要としていない
死にたくないけれど死んだ方がいい
そんなふうに私が私に囁きかける
それでもまだ生きたいと願う私
もう充分だとため息をつく私
一体どちらの私が本当の私
私の

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8つの切り口で世界を堪能。 Please enjoy the world in 8 cut.

 『一人称単数』(村上春樹著・文藝春秋刊)読了しました。単行本になる前に初出で読んだものが殆どですが、改めて読んでも、今回も充分に村上ワールドを楽しめました。もちろん、これからも何度も繰り返し読みます。何度読んでも新しい発見がありそうな予感がします。以下に、8つの短編について短い感想を記します。

ご注意! ネタバレになるかもしれませんので『一人称単数』を読了後に、以下を読むことをお薦めします。

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私の死に場所は誰が決めるのか? Who decides where to die for me?

 先日『死を生きた人びと』(小堀鷗一郎著・みすず書房刊)を読みました。副題は「訪問診療医と355人の患者」となっています。自分自身はもちろん身近で大切な人の、最後の日々(そのとき、どんなふうに生きるのか、そして死ぬのか)を考えるための一冊です。小堀さんは355人の看取りに関わった訪問診療医なので、それぞれの事例が生々しいドキュメンタリーのように読者に迫ってきます。ここに提示される死に様は、同時に生

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KEEP CALM AND READ ... . 気を落ち着けて、…を読もう。

 先日、『村上T 僕の愛したTシャツたち』(村上春樹著・マガジンハウス刊)を読みました。190頁に「この本は『ポパイ』二〇一八年八月号~二〇二〇年一月号に連載されたエッセイを書籍化に伴い加筆、修正したものに、インタビューをあらたに加えたものです。」と書かれています。つまり、そういう単行本です。
 この本の中で、私の好きなTシャツは5頁に登場する「“TONY”TAKITANI Houser D」(T

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彼女はリリー。She is Lily.

 私の好きな作家の一人が谷崎潤一郎です。『細雪』の絢爛豪華なドロドロも素晴らしいですが、今回は猫を主人公にした小説を紹介します。タイトルは『猫と庄造と二人のをんな』です。中公文庫版は「をんな」表記ですが、新潮文庫版は「おんな」表記です。新潮版は中公版を底本にしているそうですから、中公版で充分かもしれませんね。中公版の良いところは「ドリス」という作品も同時収録されているところです。この未完の小品も素

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旅行中。Traveling.

 私の好きな作家(村上春樹)が好きな作家(トルーマン・カポーティ)の『ティファニーで朝食を』(トルーマン・カポーティ著/村上春樹訳/新潮社刊)の好きなセンテンス(単行本の16頁より)。

 そのアパートメントに移ってきて一週間ばかりたった頃、二号室の郵便受けの名札入れにいささか風変わりなカードが入っているのが目にとまった。社交用の名刺みたいにあらたまった書体で印刷されており、「ミス・ホリデー・ゴラ

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ビニール傘。Vinyl umbrella.

 『ビニール傘』(岸政彦著・新潮社刊)を読みました。第156回芥川龍之介賞候補作品で、第30回三島由紀夫賞候補作品でもあります。岸さんは、社会学者ですが、作家としても非常に映像的な感覚の持ち主だと感じました。刊行年は2017年ですが、2020年の今読んでも全く古くありません。大阪在住の私には、特に若い頃に市内で暮らして、市内で働いていた私にとって、市内の懐かしい景色が目に浮かんで、そういう意味でも

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