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雪柳 あうこ
2024年5月12日 12:11
風薫る季節になると、ふと思い出す人がいる。薫さんという。色の白い、大きな両目が少し離れた造作で、愛くるしい笑顔の朗らかな人だった。五月の生まれだと言っていた。真面目で、高校ではいつも教室の前方の席を希望して座っていた。歯並びがよく、いつもはきはきと喋った。爽やかで好感の持てる人だと、誰もが言う。けれど毎年五月だけ、彼女の印象は豹変する。連休明けに、大人っぽくも初々しい教育実習生たちが高校へと授
2024年3月17日 20:26
朧月よく見れば 半分光は輪郭を溶かし実は半分であることをさりげなく誤魔化しながら夜毎ふくらむ 花を誘う もう半分はどこへやったの?欠けたの? 亡くしたの?それともこれから造るの?朧月よく見れば 半分夜毎ふくらむ花のひとひらよく見れば 月・・・・・・見上げた月が,ちょうど半月の朧月でした。思わずシャッターを切りました。月に誘われコブシも咲き出し、すっかり春
2024年2月25日 18:30
閏年、四年に一度だけの二月二十九日。その日にだけ訪れることのできる小さな島で待っています。爪月の端、時のあわいから届いた小さな手紙には、流れる水のような文字でそう書かれていました。岬まで迎えを寄越しますと書かれた文章を、わたしは何度も何度も指で辿って、その日その時を心待ちにしていたのです。ずいぶん前からあなたとその日に会おうとを決めていて、わたしはそれだけを覚えていました。けれど、織姫と牽牛
2024年1月21日 20:58
雪化粧をした枝に積もる冷たい白粉を 集めたら蕾に 籠めておきましょうあたたかい朝白い光のような雪が咲くでしょうから・・・・・・春先に咲くユキヤナギの花が、もう咲きかけていたのに触発されました。今年もぼちぼち、不定期更新で始動いたします。よろしくお願いします。小牧幸助さんの #シロクマ文芸部 からお題をお借りしました。いつもありがとうございます。
2023年11月26日 11:27
詩と暮らすことにしたのは、数年前の春からです。その春、わたしは陽気に当てられぐったりとしていました。そんな時、窓からふと、ひとひらの詩が飛び込んできたのでした。ひらひら、ひら、り。窓の内側に吹き込んできた詩を、手のひらに収めました。薄桃色の詩は、見た目の美しさとは裏腹に、少し乾いていました。わたしは硝子の容器に水を張り、詩を浮かべてみたのでした。すると、詩は楽しそうにくるくると硝子の中で回りま
2023年10月1日 20:08
月めくり、夢をかけ替える朝通う道は明るい来月、次の月こそと願って、ページを はらり月めくり、今を過去にする夜辿り着いた部屋は暗い今月、ようやく終われたとうそぶいて、ため息 くたり月めぐり、満ち欠けやがて名月黄金色の夜明けは近い満月、見送って手を振ると滴って 月光 とろり・・・・・先日は明るい月夜でしたね。小牧幸助さんの #シロクマ文芸部 の企画「月めくり」から書き
2023年4月2日 16:21
赤青鉛筆で日記を書く。赤で下書きし、青でなぞれば、少し黒っぽい紫色の一日が仕上がる。「今日は楽しかった」、そういうことにしておきたい、あかいことば。「今日は楽しかった」、辿りながら少しはみ出してしまう、あおいことば。赤いわたしは青い私に塗り込められて、陽炎になる。不器用さのせいで重なり合えないはらいの先は、二つの色に分たれたまま、互いの影を見つめて震えている。赤青鉛筆を擱けば、少し黒っ