見出し画像

姓名判断

くわの擁齋は、書き連ねた数字を見て言った。

「あなたの場合、直感ね、直感を通り越して閃き」

そして少し頷き、

「間違わない」

と、言った。

「鋭いなんてもんじゃない。
 ただ、親の影響もあって苦労性だから・・」

と言い、私を身籠っていた当時の母親の心理状態に言及した。

忘れていたが、昔、一度だけ、母親から聞いた事があった話を、
まるで、見て来た様に寸分違わず口走り、私の記憶を蘇らせた。

驚いた。

は?名前で?と、思った。

「だから、緊張状態で神経が休まらないのね」

と、くわの擁齋は言った。

その通りだった。

「えっ?名前で全部決まっちゃってるんですか?」

と、尋ねると、彼は言った。

「私は名前が全てだなんて思ってませんよ」

彼は眼鏡の位置をゆっくり直した。

「ただ、何かしようと思うなら、良い名前でした方がいい」

私は、ちょっと、何を言っていいか分からなかった。

「この名前は私が勝手に作ったんじゃないんですよ」

と、独特の優雅な口調で くわの擁齋は言った。

「元々あなたの名前だから」

私は、ちょっと、何を言っていいか分からなかった。

「その若さで、名前を変えようという着眼は普通持てないのね」

そう言うと、彼は少し姿勢を正して更に言った。

「ある程度、人生の結果が出てから、考える人は考える」

晩年を良くするのも大事だけど、できれば若いうちに、
何かする前に名前を整えた方がいい、という事だった。

彼は、私の着眼と決断に関心しているようだった。

私は、自分の適正を知りたいと伝えた。

「何でもやってみたら?」

と、くわの擁齋は言い、更に付け加えた。

「頭で何でも決め付けずに」

私は、それ以上、何を言っていいか分からなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?