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詩と詩に関する記事です。
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二月の空

二月の空

白けた気持ちになりたくて
二月の冷えた空を見上げる
くもり

私の血と肉とこころを静めた

愛情を与えることはずっと上手になって
受け取ることはどこまでも下手になっていた
いつのまにか

悲しい

因果の道理

因果の道理

その命は誰のものか。
なぜこの世に居るのか。
生産されたのではない。
産まれてきたのだ。

培養されたラットのぬくもりも
紛れもない命だ。
受粉せず実を成す都合の良い果実も
その香りは自らが作り出すもの。

誇りを持て。
その身を器と選んだのはお前の魂。
試練は甘んじて受け入れ
他の者が創れぬ世界を創造しろ。

ああ。
今日も空はあるよ。
成層圏が何色に見えても
この惑星の自転は速度を変えない。

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大陸とヒトの記憶

大陸とヒトの記憶

 朝いちばんの草の上に
 ぽとり ぽとりと
 種を撒く

 はるかな朝焼けは
 露ににじんで 乾いて消えた
 年寄りの指は豆を開き
 若き指がそれを数えていた

 懐古主義が命を浄化する

 交易のない絹の道を行く男
 羊の居ない草原を行く男

 馬を駆る勇壮な民の 鷹の目は弓の先を見張る
 草原の満月が 溶けて落ちぬよう

 砂漠の雨季に 生まれた湖
 眠った魚 目を覚ます

 刺繍の糸 色を咲

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黒に沈む

黒に沈む

「愛してる」は月の光に誓え
体は満ち欠けのゆらぎのまま

澄んだ空は似合わない
それも悪いことじゃないね
誰の価値観で生きる?

ホントはお前
囚われてなんかないよ
愛されてるってさ
思いたいんだよね?
束縛が愛なんだろ?
飽きたらすぐに被害者面だ

「ここに来て」ってどこなんだ
その表皮付近?
自分でも辿り着けないだろ。
自分の本心に。
テキトーな定型文を口走って
遠い楽園で笑って

路地裏で淀

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【合作詩】 時のフィラメント

【合作詩】 時のフィラメント



それは 柔らかく 優しく 私の上に降り続けた

寒い朝に 曇った午後に 溜息の宵に 涙の夜に

遠い打上花火の音 見えなくてベランダから背を伸ばす

夕餉の匂い 窓硝子に滲む街灯り

理不尽な理由で消えた予定がノートを汚して

思いがけず手にした自由は よそゆきの顔をしている

あとどれだけあるのだろう?

問いを胸に パンを焼き 靴紐を結ぶ

「道の果てはあるよ。すべての旅人の道にね。」足元

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詩を合作してみる【リレーじゃなくてラリー】

詩を合作してみる【リレーじゃなくてラリー】

「リレー小説」というものがあるじゃないですか。
複数の作家で順番に一章ごとにまたは一節ごとに交代して一つの物語を書いて繋いでいくという。
次にどんな物語になっていくのか予想もできず、面白いものです。
そういった合作を「詩」でできないものかと。ある日突然思いまして。

そもそも「詩」とは?・書き手の頭の中にある気持ちやイメージや雰囲気や感覚など…目に見えないようなものを文字に変換して読み手に伝えるた

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【詩】 いつくしみのかいな

【詩】 いつくしみのかいな

重たいからっぽがひそんだその体を
ずっと抱きしめておくから
安心して眠ってください

ぬくもりを
命ある体内の音を
その呼吸を
この腕にあずけてください

かなしさは
たくさんあっても大丈夫
ぜんぶ引き受けるから

朝まで深く眠ったら
その体は軽くなっているよ

わたしの体が
悪い夢を食べる
あなたが眠った後
おなかが満ち足りるまで抱きしめて
それからわたしも眠ります

どうか静かに
ここにあずけ

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水底の人魚

水底の人魚

生命の混沌が漂う海の
その潮の合間に
人魚の青年を見つけた

網に囚われたセイレーンの末裔
彼は光を求め 水面を目指し
あがき 疲れ
冷えた体を横たえていた

海底に朽ちた古代の遺跡を
ただぼんやりと見ながら
いにしえの言葉で途切れ途切れの物語を歌う
故郷の景色 置いてきた愛 狂おしい渇望
ひとつひとつが泡となり
水面に小さく不揃いな旋律を解き放つ

ただ1枚の 彼の鱗がたゆたっていた
月光に輝き

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椅子

椅子

座るべき椅子は元より無く

立てかけてあったパイプ椅子を広げ
浅く腰掛けてみたものの
またお迎えが来たようだ

やれやれと
ゆかねばならぬ

気配の無い地図の
誰も指し示さぬ行き先と
置き去りにした花束
いつものことだ

まとうものもまとい忘れ
寒風に冷えていく体をそのままにし
花をくれた者の記憶を消しながら
それもいつものことだ

柔らかくあたたかなソファに座ったまま
より上質なソファのカタログ

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