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ショートストーリー | Chocolateな彼女 | シロクマ文芸部

チョコレートを「チョッコレイ」って発音するひとだった。
可愛かったよ。薄気味悪いくらいに。

彼女は厚みのない薄いチョコレートしか食べないんだ。
上唇と下唇の間を5ミリくらい開けて、笑うみたいに口を横に引く。
そうして出来た隙間に、よく紗々を突っ込んでやったな。覚えてる?ロッテの紗々。
あの繊細なチョコレートを、郵便ポストみたいに構えてる彼女の口に入れるんだ。
今思えば、なんでそんなことしてあげたんだろう。
それくらい、惚れていたってことかな。

帰国子女らしいんだ。
一緒にスタバに行くと、「ホッチョッコレイ」って言ってココアを頼むんだよ。それが結構恥ずかしくてさ。
本人は大真面目だから突っ込まなかったけど、店員は必死に笑いをこらえてたよ。
だけど、ココアを飲む姿もやっぱり可愛かった。

「ダークチョッコレイ」な色が好きなんだって、よく俺にプレゼントしてくれた。要は、こげ茶色の物。
セーターとか、マフラーとか、財布、ベルト、カバン。
金持ちなんだよ彼女。たまに怪しいバイトしてて。黒船ちゃんって呼ばれてるって、酒の席でポロっと言ったことがあった。
俺は彼女が、俺といない時間に何をしていようとあまり気にしていなかったけどね。
だけど、それが良くなかったのかもしれないな。今思えば。

もっと甘くて、とろけそうな恋をしたいからあなたとは別れたいって。最終的には振られたよ。
その時の彼女、白いセーターを着て、ふわふわしてて、これでお別れって時なのに惚れ直しちまった。
それに比べて俺は、全身こげ茶色のコーディネート。

俺たちは、もっと上手くやるべきだった。
紗々のように白と黒でも繊細に交わって、ひとつになるべきだったんだよ。

彼女の気持ちは固まってたね。
俺がやり直したいと泣いてすがっても揺るがなかった。まるで冷蔵庫で冷やした明治の板チョコだ。
冷たい目で俺を見て、こう言ったんだ。
「立ち去れ、う○こ野郎!」

酷いだろ?彼女からプレゼントされたもので、毎日全身こげ茶色コーデになっていた俺に、そんなこと言ったんだ。
ダークチョッコレイじゃなかったのかよ。
嫌いになったらう○こ色か。

女って、切り替えが早いって本当だ。
俺はまだ当分忘れられないね。
薄いチョコレートを見ると、彼女を思ってしまう。
5ミリだけ開いた口からこっそり見えた、あの真っ白な歯を思い出すよ。



[完]


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