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ほんとにあったこわいはなし、夏の陣。小説風。

by.フ○テレビ。ではないです。えっと、随筆ってエッセイですよね……?( )

夏に怪談で背筋を冷やす風物詩は百物語で、フジ○レビさんは『ほんとにあった怖い話』ですが、これは自分が図らずも夏に体験した『本当に遭ったこわい話』です。
本当に皆様の身に降りかかる可能性もあります。

・視力が低いのに、家の中では眼鏡をかけない。
・包丁をまな板の上に置いたまま。または定位置が無い。
・食事は自分で料理している。または自分が料理担当。

共通点をお持ちの方、本当にご注意下さい。……そして察してください……( )


「何年か前に実際身の上にあった話なんだけど……」

よくある前振りで回想する休日。
約束も宅配も無い筈なのに呼び鈴が何度も鳴る、訝かしく思い無視する。えねーちけーかえぼばかな。ーーいや違う。呼び鈴は鳴り止み、金属質な雑音が響く。
繰り返す雑音の後、掛けていた筈の鍵が外れる音が厭に大きく聞こえた。開いてしまった玄関から、南ゆえに太陽を背に、暗い影が伸びる。ーー足は、ある。凶器はない。
扉を開けたのはなんて事はない、ビニール袋いっぱいの合鍵の確認をしていた大家さんだった。武器代わりの傘を手にしたまま、何事かと尋ねたら、スペアの鍵と歴代の鍵が混ざったらしい。次は隣の部屋を恐怖の底に突き落とす様だ。順番に確認しているという。
マスターキーは配れないだろ?と、大家さんは笑った。おしまい( )

「ええ……」「草」「大家さん何してんの」
「えっ鍵の整理してたよ、余計な鍵棄てなきゃなって( )」

後日。大家さんから差し入れを貰った。 
曰く、大家さんの家の扉には野菜が置き去りにされるらしい。何故か産地農家を特定出来る無記名の野菜、田舎あるある。ただ大家さんのご友人達は、同じ手段で野菜を置き去りにする人が多く、身元不明の野菜達が、一人暮らしでは処理出来ない程に届くという……。ゴン、お前だったのか。とはならないし、自分の家庭菜園も畑とプランターの二段構えで、野菜は配る程あるらしい。なんてことだ。
この年ももちろん植物に優しく人類に厳しく。思わずくそと枕詞に付けたい暑さの夏。実りの秋を前に、夏野菜が既に収穫祭。……そんな訳で捌き切れない野菜が、裾野に文字通り間借りする自分にも届いた。

トマトトマトかぼちゃ。トマトトマト、かぼちゃ。サイズがでかい。大きいじゃない。でかい。
トマトは切って口と鍋へ。生で食べれるし、困ったらパスタの現代人には有難い食材。なんならもっと施されたい。
ーーさて、二択しかない次の問題はかぼちゃである。

どうしたものか。酷暑にふさわしい気温の台所、切り続けるに難儀しそうな逞しい自然の恩寵。洗ったばかりの愛刀たる包丁は、すぐに汚したくない気がする。……寝よ。
戦うは今でなくても良いだろう。心の一句。そっと問題を先送り、愚かなる人間性100%で本当に寝た( )

翌朝過ぎて昼過ぎて、涼しくなって夜。
風呂上がりに水を飲みに来てみれば、まな板の上には堂々と鎮座するかぼちゃ。動かしていないのだから当然だ。……せめて半分になれば、鍋かレンジに入るだろうか?
まだ風呂上がり直後、湿った髪と雑に被ったタオル越しに濃緑の塊を見る。やる気が無い時に捌くには骨が折れそうである。思い立ったが吉日、いつやるの今でしょ、無気力な人間に早期行動を促す言葉はいつも、後悔する胸と胃に刺さる。ーー 0 秒 で や れ 。
溜め息ひとつ。髪を払い目をこすり、かぼちゃの大きさを鑑みて、シンク下から普段は使わない大刃の包丁を手に取った。この包丁切れないんだよなぁとか思いながら。

ーー分かってはいた、かぼちゃは硬い。真理である( )
利き手で握る包丁は、数ミリ食い込んで固定された。垂直に引き抜いて再度挑戦。……切れない。刃渡りは足りているが切れ味が足りない、この包丁を普段使わない所以でもある。繰り返すうちに風呂上がりの額や首筋に汗の気配を感じ、タオルは首に移動した。

盛大に溜め息を吐き、まな板の隅に置いた包丁に手を伸ばす。昨日トマトを切った愛刀ーー小学校入学前にこども向け料理番組に影響され、ひたすら強請て半年、やっと誕生日プレゼントという設定で買って貰った、新潟燕で製造のーー日本鋼の包丁である。
刃渡りは短く、素材は錆びやすいものの、引くだけでトマトを潰さないで切れる程度の切れ味はずっと維持し続けている。ローストビーフも薄切り出来る。使い勝手と切れ味の良さ故に、まな板の上が定位置という杜撰な管理体制を強いられて、日々酷使されている。
可哀想なペティナイフ。今から恐ろしく硬いかぼちゃも切らされる哀れなるペティナイフ。気が付けば愛故に描写が長くなってしまった。
あっもちろん暇があれば研ぎ、多分不穏な笑みを浮かべている。お高い天然砥石も君の為だけに買った。

右の利き手で愛刀を握り、左手でかぼちゃを固定する。足は軸足たる左を前に自然に開き、右手は滑らかに手前に引ける様に。君なら数回繰り返せば、かぼちゃを削いで割れるだろう。何処かのステンレスとは違うのだから!

ーーだが割れない!
かぼちゃは硬い。検証済みの真理である( )

……それにしても、こんなに切れないだろうか?( )
昨日はさくっとトマトを細切れにしていたのに。風呂上がりは手もふやけて力が入らない…のかな?
さて、ここで人間が何も考えず簡単に使える力が幾つかある。気力、体力、精神力ーー…否!断じて否!『物理』である。筋力、重力、遠心力。そしてその合わせ技。
刃は1センチ程度とはいえ、かぼちゃを割るに至っている。手を離しても包丁は落ちず、かぼちゃは重く安定している。ーー方針は決まった。

ペティナイフの角度を少しずらし、かぼちゃごと回す。右手を握り直し、包丁の背に左手を乗せ、跳ねる勢いと体重を、全て刃越しのかぼちゃに伝えられる様に!!!
何処かのバトルもの漫画の様に、薄く伏せた目を開け短く息を吸い、止める。膝にほんの少しの溜めを作り、それでも静かに、背伸びをする様に跳ーー
と、そこで。日常およそ感じる事の無い、ひやりとした怖気と違和感。背筋が突然に冷え、自分は動作を停止した。

「なにごと……霊感なんて有ったっけ?」
「母親と祖母ならともかく、自分は恐らく無いですねぇ……( )」「いやまぁここまで全部前振りなんで」「最後一言だけ聞いて下さいよ」


ーー包丁裏返しで刃上向きでした。


おしまい。(回想の展開は本当に実話なので、視力低い方と包丁管理似ている方、あと単純に刃物扱う方は、必要あれば視力補正して!確認してから!ご安全に……ッ!)
……展開要約すると10秒かからないかもしれないですね!( )
日本の刃物は引かないと斬れない、に救われました。ただ体重かけてたら不味かったですよねえええ……!

愛刀と安全についてでした。完!( )



トップにかぼちゃお借りしました、画像ありがとうございます……!(遅い感謝←)

最後に小話タグと別の小話置かせてください、よろしければこちらのnoteもお願いします……!

学校の愛すべき反面教師ズ。


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