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短篇小説

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とても短いストーリーなので、あっという間に 読めるかと思います♪
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「卵」

「卵」

昨日、私は離婚した。
紙切れ一枚、提出するだけで、
6年間の結婚生活が簡単に終わった。

私達の結婚生活は、不妊治療との
闘いだった。

2人とも子供が大好きで、付き合って間もなくから、早く子供が欲しいという意見が一致しての、スピード結婚だった。

しかし1年以上経っても、子供が出来る気配は無く、2人で初めて不妊治療専門の産婦人科へ出向いた。

彼は治療に協力的で、一緒に検査を受けてくれた。

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「持たない男」

「持たない男」

暑い夏の午後、私と彼は喫茶店の中に居た。
古い建物の周りに蔦の絡まるこの純喫茶は、エアコンが程よく効いている。

私は週末になると、この純喫茶へ電話をかけて、彼を電話口へ呼び出してもらう。
「今から行くね」
「うん、待ってるよ」

何故、お店に電話をかけるのか。
それは彼が携帯を持たないからだ。
今年で平成も最後だというのに。

彼は、徹底して物を持たない男なのだ。

以前は営業職という職業柄、携

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「冷たい舌」

「冷たい舌」

まだ太陽が沈みきらない黄昏時、
私はめずらしく 仕事へ行く支度が
早く終わり、行きつけのカフェで
時間をつぶすことにした。

このカフェは、昼間は珈琲や軽食を
出し、夜になるとbarに変わる。

丁度、カフェからbarに変わるころに
お店に着いた私は、天井の灯りが暗くなり、それぞれのテーブルに小さなロウソクが配置されたタイミングで、珈琲を注文した。

いつものカウンター席に座って、マスターとお喋り

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