PKPK(パパっと簡単ぱぱキッチン)11
なにかの雑誌だったか、インターネットの記事だったかはっきりとは覚えていないのですが、血液型や星座によって、人にはいろんな口ぐせがあると目にした記憶があります。
それを読みながら、
「なるほどなぁ、確かに!」
と、妙に納得した覚えがあります。
ちなみに私はO型で、統計によると、よく言いがちなのは、
「おなかすいた!」と、「眠い!」だそうです。
私は三十歳の時七つ下の女性と結婚し、二人の子供に恵まれました。
妻は、娘を産んだ年の秋、病気の為ひとり天国へと旅立ちました。
わずかな結婚生活でしたが、宝物のような時間の中で、妻はたくさんの言葉を残してくれました。
妻の趣味は料理で、冷蔵庫にあるちょっとした食材を駆使して、本当に美味しい創作料理をあっという間に作ってくれました。
「ご飯の時間って、やっぱり楽しく過ごしたいな。ケンカしたり、仕事でつらいことなんかあったとしても、晩御飯を笑って食べて元気になりたいな。鍋とか鉄板をつついて、楽しい話なんかしながらお酒飲みたいよね。」
妻はいつも言っていました。
結婚して間もない頃、よく居酒屋に行きました。
いつだったか、私が焼酎、妻が酎ハイを飲みながら、
「このお店の料理、結構美味しいね。けどさ、家で作ってもらう手料理の方がおれは好きかな。」
と、特に何も考えずに発した言葉を妻はずっと覚えていてくれたらしく、それがとても嬉しかったんだと、結婚式の挨拶で語ってくれました。
私は、
「そんなこと言ったかなぁ。」
というくらいの感覚で、頭をかきながら照れ笑いをしていました。
ある日、そうちょうど今くらいの季節だったと思います。
当時、世田谷区の三軒茶屋から、家族で住める少し広めの桜新町のアパートに引っ越しをして間もない頃の話です。
仕事が忙しかったり、暑さと地下鉄の人の多さで少しバテていた時だったと思います。
妻が、
「今日さ、いろいろと食材買って来たよ。明日病院とかあるし時間ないかもだから、何通りも作れるように、たくさん用意したんだよね。」
と、目をくりくりさせて言いました。
「作るの大変でしょ?賞味期限も長いし保存も大丈夫そうだし、おれカップ麺とかでいいよ。それかそこまで行って牛丼とか買って来るよ。その方がきみも楽でしょ?」
と、これまた特に何も考えずに口から出てしまいました。
平成十五年の秋、妻は他界しました。
息子がもうすぐ二歳、娘が一歳になろうかという、少し肌寒い日でした。
二人の子を連れ熊本の実家に帰りました。
子供達が成長するにつれ、私は食に対して大きな興味を持つようになりました。そうなる必然性があったから、だとも思っています。
どうしたらこの子達はたくさん食べてくれるんだろう。
必要な栄養って何だろう。
美味しい料理ってどうやって作るのかな。
そんな風にいつも考えていました。
大きなお皿に、大きなお子様ランチを作って、みんなで分けて食べた時、二人が手を叩いて笑いながら食べてくれた時、とても嬉しかったのを今でもはっきりと覚えています。
今まで自分は、
料理は美味しければいい。
栄養さえ摂れれば問題ない。
見た目とか手間暇なんて関係ないよ。
そんな風に考えてはいなかったろうか?
中学生の頃、母が作ってくれた料理には目もくれずに、
「部屋で勉強せなんけん時間ないとたいね。英語しながら食べるけん、おにぎり作ってもらえる?」
と、生意気な言葉を吐いた日もありました。
母も妻も、ただの仕事や義務感で、ロボットのようにご飯を作っていたんではなく、食べる人が笑えるように、その表情の奥まで考えながら、ひとり暑い台所に毎日立ち、汗をかいては拭きながら料理をしていたんだなぁと、子育てをする日々の中で、改めて実感しました。
あれこれ考えながら作った料理をたくさん食べてもらえると、自分は胸もお腹もいっぱいになるから不思議だなぁと思います。
さて、子供達のリクエストの晩御飯たちです。
私が作る料理のほとんどは、妻が大好きだった物です。
みんなで食べれて元気になって仲直りが出来るように、会話が弾む料理が、妻の哲学にも似たこだわりでした。
小さい頃は食が細くていつも心配ばかりだった子供達ですが、大きくなるにつれてたくさん食べてくれるようになりました。
ちなみに二人の口ぐせは、
「パパ、おなかすいた!」
「パパ、眠たい!」 です。
パパの料理を、いつも笑って食べてくれてありがとう。
と、心の中だけではなく、言葉に出して言える日が来るまで、元気に料理を作っていたいと思います。
そしていつか、妻と会える日がやって来たら、
あの時、カップ麺でいいなんて言って、ごめんね。
そう、謝りたいです。
もし、妻が笑って許してくれるなら言おうと心に決めています。
「おなかすいた!」 と。
この記事が参加している募集
私の記事に立ち止まって下さり、ありがとうございます。素晴らしいご縁に感謝です。