マガジンのカバー画像

短編小説

3
運営しているクリエイター

記事一覧

Butterfly/短編小説

Butterfly/短編小説

恋に落ちた瞬間の音を、僕は初めて知った。
そして、それと同時に僕は確かな愛を知る事が出来た。

いつも通りの通勤時間。
僕は周りの人より一時間程遅くに出勤する。
通勤ラッシュで、人混みを避ける為、会社側が配慮してくれたから。

電車に揺られ、二駅目の時に僕の肩に遠慮がちに置かれた手があった。
「もし良かったら、ここどうぞ」
柔らかい女性の声。
僕の手を取りながら、座席に誘導してくれた。
僕は彼女の

もっとみる
鯨になった彼/短編小説

鯨になった彼/短編小説

ああ、またあのコがうなされている。
汗を額に滲ませて、苦しそうに寝言を繰り返す。

僕はあのコのいる、309号室の扉をすり抜け、少女の夢の中へと入り込む。
今日は結構苦しいな。
けれど、キミの為なら大丈夫。
安心して。もう楽になるからね。

僕は少女の悪夢を一つ残らずお腹に収めた。
これで安心。
ほら、もうぐっすり眠っている。

あ、次は別の場所だ。
僕は月明かりの下を駆けてゆく。

「お母さん、

もっとみる
星二つ/短編小説

星二つ/短編小説

もし、生まれた瞬間に運命というものが定められていたら。
それを変える事は不可能なのだろうか…。

俺はそうは思わない。
諦め半分投げやりに生きてきた若造の俺を、アイツが救って変えてくれたから。

「なあ、今日もやんだろ?」龍が俺を見上げ、決定事項の様に言って来た。
最近、俺はその事に少々嫌気がさしてきていた。

「あぁ?うーん、どうすっかな…」
煮え切らない俺の返事に、龍は若干不機嫌さを滲ませた声

もっとみる