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「sampai」―西陣織の端切れを若者向けのファッションアイテムに再生。

<編集・記事執筆>
京都外国語大学 国際貢献学部
グローバル観光学科1回生
木村 まりあ

産廃を減らす、思いを紡ぐ」をモットーに、京都西陣の伝統産業や手工業の生産過程で出る端切れや廃材などのいわゆる“産廃(産業廃棄物)”を素材にハンドメイドアクセサリーの制作を行うsampai。スペルがsanpaiではなく「ン」の部分にmを用いているのには理由があります。代表の宮武愛海さんは日本とインドネシアにルーツを持っているのですが、インドネシア語でsampiは「届く」という意味があり、捨てられるはずだったものを再び人々に届けるという彼女の想いが込められているのだそうです。今回わたしたちは大学の先輩でもある宮武さんにインタビューを行い、学生起業にいたった経緯や事業にかける思い、そして私たちのコーディネートに取り入れたアイテムについて、話を伺いました。

sampai 代表の宮武愛海さん

学生起業した理由は、就職して社会を学んでから戻ってくる猶予はないとの危機感。

 大阪府出身で当時わたしたちと同じ京都外国語大学に通っていた宮武さんは、パンデミック真っ只中の2020年、大学4回生になったばかりの春に起業しました。きっかけは3回生の後半、学外での活動の一環で伝統産業が多い西陣地域に関わっていくうちに、西陣の素晴らしさを学生だけでなくさまざまな世代に知ってもらい、衰退していく伝統産業や地域を支えていきたいと思うようになりました。
当時すでに企業から内定をもらっていたものの、宮武さんは地域への関わりを深めていくなかで起業の道を選びました。その理由は仮に就職を選んで5年間働いてから戻ってきたとしても、そのあいだに伝統産業はますます衰退し、いちど失われてしまったら、もう2度と取り戻すことができないだろうと考えたからだといいます。残された時間はもうあまりない。そう考え、西陣を支えるために起業を決断しました。

丹精込めて手作りされた生地を、ゴミにしたくないという思いがはじまり。

西陣に深く関わるなかで彼女はなぜここで制作される着物が数百万の価値があるのか、その理由がわかったといいます。多くの職人が分業によってそれぞれの工程で高いレベルの仕事をしている西陣。それだけ時間も手間もかかりますし、もちろん素材を最高のものを使っています。しかもそれを長年積み重ねてきた歴史の重みもそこにはプラスされています。しかしいくら若い人に「すごくいいものだから100万円で買って」と言ってもやはり現実的ではありません。そこで彼女が目をつけたのが、制作工程で出る端切れなど廃棄するゴミ、産廃だったというわけです。

西陣織はまったく同じ色のものは二度と作れないし、それぞれがとても貴重な生地なのです。糸くずや生地の切れ端であってもすごく価値のあるものだと宮武さんは考え、そのまま処分してしまうのはあまりにもったいないと感じました。しかもそれらを処分する際には産業廃棄物扱いになり、つまりは丹精込めて作ったものの一部を、わざわざお金をかけて処分することになるわけです。そんな理不尽な話はないと思った宮武さんは、なんとかこの端切れや糸くずを魅力的な商品に再生させて、とくに若者に買ってもらいやすいアイテムにしたいと考えたのだそうです。そしてファッションアイテムであるアクセサリーに行き着いたといいます。それに身につけるものであれば、このアイテムが生まれてきた背景やストーリーを、ふだんから考えてもらえるという狙いもあったのだそうです。

購買動機を変えることで、生活スタイルを見直す第一歩になれば。

というのも、同時に宮武さんは、大学で海外のファストファッションの工場の問題について学んでいました。その知識を身につけながらも、自分自身もファストファッションを身につけていることに気づき、掲げる理想と現実の差に落胆しました。経済状況が厳しいなかで安価で服を手に入れたいという気持ちは十分に理解できる。でも、やはり西陣の状況を間近に見ていくうち、いま実際に着用している服の値段に対する疑問や実際に服を購入する際の選択に責任を持ち、商品ができた物語やプロセスに興味を持ってほしいという思いが強くなっていきました。とはいえ単にファストファッションを避けるのではなく、購入する際になぜその商品を選んだのか、その商品にどのような背景があるのか疑問を持つことで、物の価値を見直す機会が生まれると考えています。
sampaiのアクセサリーを身につけ、鏡を見るたびに、その商品ができるまでの物語や経緯を思い出してもらうこと。アクセサリーを通してその背景にあるエピソードや制作までのプロセスを日常的に意識してもらうことで、生活習慣を見直すきっかけを提供したいと宮武さんは話します。
価格はだいたいひとつ3,000円程度。時給1000円のアルバイトで3時間働けば手が届く金額なら、買ってもらえるのではないかとの目論見から導き出された価格帯でした。こうしてsampaiのアクセサリーが誕生したのでした。

世代を超えて、国境も超えて、すこしずつ広がるsampaiのファン。
 先にも書いたように、sampaiはもともと次世代に受け継いでいく人を作ることを目標にしていたので、本来のターゲットは18~25歳の若い世代でした。しかし実際の購入者層を見ていくと30歳前後の子育て中の主婦の方々のあいだでの支持が広がっているのだそうです。たしかに価格的にはそのくらいの年代の人のほうが買いやすいし、それに子育て世代の女性を通じて、未来を担う子どもたちにsampaiのアクセサリーができた経緯や西陣をはじめとした伝統産業の現状について語り継ぐ事にもなります。

今回わたしたちは外国人観光客向けのフリーペーパーを編集。「京都を、着よう」をテーマに京都のファッションを楽しんでもらおうと、私たち自身のセレクトしたアイテムによるコーディネートを提案しています。そのなかでsampaiのアクセサリーを使わせていただきました。お借りしたアイテムは「ゆれる木の葉のような球体アクセ」です。
このアイテムは、ある日伝統産業の職人さんたちと祇園に飲みにいく機会があり、そこでたまたま見かけたスナックのディスプレイに、大きい糸玉の形をしたガーランドタイプのライトがあるのを発見し、そこからひとつのアイデアがひらめいたのだといいます。糸を風船に巻き付けていき、型ができたら風船を割れば、空洞の球体型の糸巻きアクセができる。ふだんから24時間365日、糸と布と生地のことを考えている宮武さんだからこそ、こうして何気ないところからビジネスアイデアが生まれてくるのだろうとわたしは感じました。

今後は海外にも出ていって日本の伝統産業を発信していきたいとも語る宮武さん。以前、伝統産業ミュージアムに出展したときは購入者のほとんどが外国人だったといい、外国人からの人気も高いのだそうです。いちばん割合が多いのはアジア系で台湾や香港の人たちからの問い合わせや購入が多く、最近ではヨーロッパの購入者も少しずつ増えてきているといいます。今回のわたしたちのつくったフリーペーパーを海外のお客さんが見て、買ってくれる人が少しでも増えたら、わたしたちとしてもすごくうれしいことです。


ブランド情報

sampai

電話番号:090-8097-5232
●公式サイト: https://sampai.theshop.jp/
●Instagram: https://www.instagram.com/sampai.store/
●X(旧twitter) https://twitter.com/SampaiStore
●LINE: https://line.me/R/ti/p/%40775augrd
●TikTok: https://www.tiktok.com/@sampai.store
note: https://note.com/sampai/


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