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千葉雅也さん「制作と生活」――『自分の薬をつくる』書評②

千葉雅也さん「制作と生活」――『自分の薬をつくる』書評②

坂口恭平さん、というか、同い年でもあり、まだお会いしたことがないけれど、奇妙な、というか正直に言えばどことなく「居心地の悪い親近感」を感じている人物なので、許可はいただいていないが、おずおず坂口くんと呼ばせていただきたいのだが、坂口くんの新刊『自分の薬をつくる』の書評をご本人から依頼された。これは坂口くんが自らの心身をやりくりしているメソッドを応用して人々を悩みから解放する、というワークショップの

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石川直樹さん「それ自体が薬」――『自分の薬をつくる』書評③

石川直樹さん「それ自体が薬」――『自分の薬をつくる』書評③

『自分の薬をつくる』を読み終わった。いつもの坂口恭平がここにいた。ときにプロデューサーになり、ときに政治家になり、ときに編集者になり、ときに僧侶や牧師のようでもある。共通するのは、ひとりひとりの相談者の核になるような部分を見出し、枠に押し込めずに自由に解き放つこと。彼は、それを薬と呼び、処方箋として個々の相談者に差し出していく。

坂口恭平が処方する薬で、自分が印象に残っているのは、曼荼羅を作って

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斎藤環先生「自分の<声>という薬」――『自分の薬をつくる』書評④

斎藤環先生「自分の<声>という薬」――『自分の薬をつくる』書評④

私は精神科医として、坂口恭平の多方面にわたる活動を興味深く見守ってきた。坂口は双極性障害の当事者なのだが、一貫して現在の精神医療のあり方を批判しており、独自に編み出した自己治療の手法を著作などで紹介している。そうした彼の活動を快く思わない一部の精神科医がいることは承知している。これでは真面目に治療に取り組んでいる——医師の指示通りに通院服薬を続けている——患者を混乱させてしまう、というわけだ。

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養老孟司先生「坂口恭平という、清涼なる薬」――『自分の薬をつくる』書評①

養老孟司先生「坂口恭平という、清涼なる薬」――『自分の薬をつくる』書評①

 坂口さんには清涼の気がある。本人も作品も、である。作品は心地よく軽い。今度の本もそうである。坂口さんが医師になり、患者さんの悩みを聞き、薬を処方する。むしろ患者に薬を自分で作らせる。うっかりすると。心の悩みは重たくなる。その解決つまり薬は軽やかで明るい。

 私は日本の世間を八十二年生きてきたが、この社会は根が生真面目だから、どこか重たくてうっとうしい。吉本に代表されるお笑いですら、そういう感じ

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養老孟司先生「偏見を打ち破る学問の仕事」――『土偶を読む』書評

養老孟司先生「偏見を打ち破る学問の仕事」――『土偶を読む』書評

 

 本書の面白さは二つある。一つは土偶がヒトではなく、植物や貝を象ったフィギュアだという発見、もう一つは素人がほとんどゼロから始めて、大きな結論にたどり着くという具体的な過程である。ぜひ多くの人に読んでもらいたいと思うのは、学問はかならずしも専門家のものではないということに気づいて欲しいからである。日本の現代社会がおかれている一種の閉塞状況を打ち破るような、こうした仕事がもっと様々な領域から出

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