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それは、あまりにも小さなことだけど

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「それ」は、生とか人とか。取るに足らないことかもしれないけど。それでも。(短編集)不定期更新。
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#1000字前後

「椎名ちゃんはボクのもの」などと■■は供述しており、(1029字)

 質問? 何でも答えますよ。「答えたくない質問」なんてありません。だって、椎名ちゃんに関することでしょう? 椎名ちゃんのことならボク、何でも答えます。

 誘拐? 動機? 失礼ですね。ボクは、椎名ちゃんが好きなんですよ? 「好きな人と過ごしたい」って普通のことですよね? 誰にでもある欲求じゃないですか。そんなに騒ぎ立てることなんですか?

「なぜ、椎名ちゃんを殺さなかったのか?」どうして殺すこと

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toward morning

僕はたぶん、起きる方向を間違えたんだ。「方向」っていうのは、何の比喩でもなく、東西南北のことだ。僕はいつも東を向いて起きているのに、今朝にかぎって、西を向いて起きてしまった。そのせいだ。現在午前7時。昇るはずの陽が、沈もうとしている。ああ。取り返しのつかないことをしてしまった。これじゃ、今日が始まるどころか、昨日に戻っているじゃないか。ああ。全人類の皆さん、ごめんない。僕が、西を向いて起きたばっか

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イッツ (ア) ファンタスティック

「慣性の法則?」

「うん。……ええと、つまり、君を忘れようと思っても、すぐには忘れられないってこと」

「じゃあ、魔法をかけてあげる」

「魔法?」

「1日目には、体温。2日目には、匂い。3日目には、私自身を、忘れることが出来るように」



「おは、」

そこまで云いかけて、云うべき相手がいないことに気付いた。

そうか。
君は、もういないんだ。

『荷物、全部置いていくから』

『何で?

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――僕、君のこと好きなんだよ。知ってた?

――知ってた。

彼女は、事もなげに言った。

あまりにも「事もなげ」だったから、僕は、その次に何を言おうか、忘れてしまった。何を言おうか、言わまいか、そのどちらかを忘れてしまったんだ。

――ええと、それで、

僕は、仕切り直すことにした。

――君は、僕を好きなの?
――さあ。
――さあ、って。

彼女は、ふあ、と欠伸をした。もちろん、わざとだ。

僕は、「さあ」なんて言われることも予想の範囲

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