藍白

ことばがすき

藍白

ことばがすき

記事一覧

『ホテル・ハッピーエンド』

城下町に住んでいた。という書き出しでこの物語は始まる。主人公のヤコは城下町で育ち、子供の頃はお姫様に憧れた。 場面は現代に戻りヤコは14歳、中学2年生だろうか。今…

藍白
2か月前
1

『推し、燃ゆ』

3年間ずっと名前しか知らなかったから、推しが炎上した話、主人公の「推し」と取り巻く環境を書き手が紐解くお話だとずっと勘違いしていた。 実際は、ぜんぶ書き手の話だっ…

藍白
2か月前
9

『斜陽』

私は確信したい。人間は恋と革命のために生れて来たのだ。"太宰治『斜陽』 この世界で生きていて、おかしくなった人はおかしくないんだ、とおもわせてくれるような作品だ…

藍白
2か月前
17

「ハニービターハニー」

恋とは何か、わたしのそんな疑念にひとつの解答を与えた。恋心は言葉では表せないけれど、確実にそれに近いなにかに触れたのがこの作品だった。あまくて、にがくて、あまい…

藍白
10か月前
7

『リーガルリリー YAON 2023』でみつけた光

 2023年7月2日、小望月の夕暮れ時。日比谷野外音楽堂で、ひとつの扉がひらいた。野音に声が響いたとき、雨が上がったんだな、とおもった。ばかばっかの戦場にいのちが流れ…

藍白
10か月前
7

「白い薔薇の淵まで」

クーチと塁が愛し合ったあとには、クーチの脳髄の裏側に白い薔薇の花が咲く。純粋な愛の証拠であるその表現を、とてもいとしく感じた。 この小説を知ったきっかけは、紬さ…

藍白
1年前
11

「夜空はいつでも最高密度の青色だ」

はじめて詩集というものに触れた。twitterでいくつかの文を見る機会があって、最果タヒという詩人を知った。 はじめの印象は、絶望を与えてくれる存在だった。どうしてか…

藍白
1年前
14
『ホテル・ハッピーエンド』

『ホテル・ハッピーエンド』

城下町に住んでいた。という書き出しでこの物語は始まる。主人公のヤコは城下町で育ち、子供の頃はお姫様に憧れた。

場面は現代に戻りヤコは14歳、中学2年生だろうか。今はそんな煌びやかな生活とは無縁の、平凡な学生生活を送っている。ただ1人と、その契約を除いて。

この一段落目は、すこし現実離れしている。それは「お城」の描写が子供の頃のヤコの視点でしか描かれていないから。
「夏期講習」や「千葉から東京」

もっとみる
『推し、燃ゆ』

『推し、燃ゆ』

3年間ずっと名前しか知らなかったから、推しが炎上した話、主人公の「推し」と取り巻く環境を書き手が紐解くお話だとずっと勘違いしていた。
実際は、ぜんぶ書き手の話だった。書き手にとって「推し」はまさしく背骨、書き手の中枢だった。

「推し」の炎上から卒業に至るまで、あかり(書き手)は「推し」の変化に気づきながらも愛していることは変わらないから、と盲目的な愛をやめない。
あかりはほとんど推しのために退学

もっとみる
『斜陽』

『斜陽』

私は確信したい。人間は恋と革命のために生れて来たのだ。"太宰治『斜陽』

この世界で生きていて、おかしくなった人はおかしくないんだ、とおもわせてくれるような作品だった。

人間には生きる権利があるように、死ぬ権利もあるのではないだろうか。ただし、母が死ぬまではその権利は留保される。
この作品が認められていることが、わたしの世界にひとつの居場所を作った。

真面目でいることが恥ずかしいから、周りに馴

もっとみる
「ハニービターハニー」

「ハニービターハニー」

恋とは何か、わたしのそんな疑念にひとつの解答を与えた。恋心は言葉では表せないけれど、確実にそれに近いなにかに触れたのがこの作品だった。あまくて、にがくて、あまい。名詞の甘さがあまったるかったり、あまくなかったり。

ビールも煙草もにがくて泣いてしまう。不快ではないけれど。

愛じゃないんだよ。人は何かを得ようとするときに何かを失う。愛を、相手を引き換えに自分を失う。慣れてしまえば、失って空いた穴も

もっとみる
『リーガルリリー YAON 2023』でみつけた光

『リーガルリリー YAON 2023』でみつけた光

 2023年7月2日、小望月の夕暮れ時。日比谷野外音楽堂で、ひとつの扉がひらいた。野音に声が響いたとき、雨が上がったんだな、とおもった。ばかばっかの戦場にいのちが流れていた。
 人生ではじめてのライブだった。はじめてで、右も左も分からないわたしを3人が手をにぎって連れていってくれるような感覚だった。ギターが耳に、ベースが心臓に、ドラムが脳にわたしの知らない衝撃を与えた。あれは、ほのかさんがこの地で

もっとみる
「白い薔薇の淵まで」

「白い薔薇の淵まで」

クーチと塁が愛し合ったあとには、クーチの脳髄の裏側に白い薔薇の花が咲く。純粋な愛の証拠であるその表現を、とてもいとしく感じた。

この小説を知ったきっかけは、紬さん(@sunrce)という方がTwitterに投稿していた紹介文だった。

わたしはこの文章に強くこころを惹かれた。同性愛に興味をもっていたのもひとつの理由だし、愛の間に溺れていて、でもたしかに生きている言葉を受け止めたいとおもった。

もっとみる
「夜空はいつでも最高密度の青色だ」

「夜空はいつでも最高密度の青色だ」

はじめて詩集というものに触れた。twitterでいくつかの文を見る機会があって、最果タヒという詩人を知った。

はじめの印象は、絶望を与えてくれる存在だった。どうしてかわからないけど無責任な希望を与える現実に対して、絶望を与えてくれる詩は、わたしにとって共感的で、唯一寄り添ってくれる存在だと思えた。
詩集を読んでから、わたしという人間の存在とか、愛とか、死生観について、最果タヒの視点もくわえた多角

もっとみる