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第1話 赤いワンピース
私の心はいつも奏を追いかけている。
追いつきたい、隣に並びたい、振り向いて欲しい、私を見て欲しい。
あの子の瞳に私が映ったことなんて、もう久しく無いけれど。
奏と出会ったのは、もうだいぶ前のことだ。
小学校入学前の、五歳くらいのちいさい時。
親に連れられて、美術館で開かれた書道の展覧会に行った時だった。
文字もまだたいして読めない私は、何が書かれているのかも分からないまま、絵を観るような感覚で、
第12話 モブの俺と、藤崎と(夏祭り後日談)
今回は、小休止的な感じで、藤崎さんに告白したモブの男子のお話です。
やさしい世界。
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「やけ食いか」と頭上から声がして顔を上げる。
目の前に立つそいつは、ハンバーガーが3つものったトレイを持っていた。
「お前だってハンバーガー3つとポテトも買ってんじゃねぇか」と返すと、「足りねぇんだ。育ち盛りだから」と言って、どかっと正面に腰を下ろし
第11話 藤崎結と、夏祭り
「宮前先輩っ!何食べますか?」
キラキラした笑顔で、結ちゃんがそう私へ呼び掛ける。
いまこの瞬間が楽しくて仕方ないといったようにはしゃぐ結ちゃんの様子に、彼女も少なからず今日の日を楽しみにしてくれていたのかもしれない、と安堵する。
だって、わざわざ浴衣まで来てきてくれているのだ。
夜道をこうこうと照らす出店の明かりのなかに、華やかな桃色の浴衣はよく映えていた。
私がすぐに返事をしなかったからか、
第10話 藤崎結と、他の人
「宮前先輩っ、私、彼氏ができたんです」
「…へ?」
放課後に寄り道したファーストフード店で、注文した商品を持って席に着くなり、結ちゃんが身を乗り出してそう言った。
弾けるような笑顔で携帯の画面を指さして、「この人です」と私にツーショットの写真を見せてくる。
結ちゃんの隣に座っている葵は何も言わず、黙々とだるそうにポテトを齧っていて、目が合わない。
ガツンと頭を殴られたような衝撃で、実際、くらくら
第9話 藤崎結と、こじれる前に
この関係が、こじれる前に、離れる前に、私はきっと、結ちゃんと向き合わないといけないんだと思う。
結ちゃんと葵との勉強会から帰宅したのは、時計の針が18時を回った頃だった。
今日の夕飯は何にしようかと、冷蔵庫の中身を思い出しながら部屋着に着替える。
夏休みに入ってからは、実家にもちょくちょく帰っている。
けれど、こうして高校の友達との予定があると、片道数時間かかる実家に帰るよりも、一人暮らしのこ
第8話 結と宮前と、私
私は何を見せられているのだろうか。
期末テストも終わって無事夏休みに突入した7月下旬、私と結と宮前は3人で学校近くのファミレスに来ていた。
目の前には、宮前に英語を教えている結と、その結に教わっている顔だけ美人のポンコツ宮前。
宮前が結と会うための口実に、「3人で課題をしましょう」なんて提案して集まったものの、あまりにこいつがポンコツなせいで、見かねた結が教える流れになっている。
課題で出されて
想いに気づいて。ちゃんと届けて。
柔らかい風が吹き、どこからともなく飛んできた桜の花びらがひらひらと水面に落ちていく。
眺めている間にゆらりと揺れつつ、花びらはどんどん遠くに流されていく。
「私、思うんだけどさ」
「うん」
「このサークル、こんな地方のど田舎じゃなかったら合コンサークルだったよね」
瑞葉が、私の頭についていた桜の花びらを摘まみながらそんなことを言い出したので、確かにそうだな、と思って後ろを振り返った。
私と彼女
百合が好きなまま30代になった私が、10代の頃の自分に伝えたいこと。
百合が好きなまま30代になったちりちりが、
10代の頃に悩んでいた自分に伝えたいこと、を書いていきたいと思います。
「百合好き」が誰にも言えない秘密だった頃
まず結論として言いたいのは、
好きなものは好きなままでいいんだよ
ってことです。
「当たり前じゃないの?」と思う人もいるかもしれませんね。
でも、人によっては至極当然のこの結論に至るまでに、私は結構、悩んできました。
私は昔からアニメが
第7話 宮前先輩と、特別な人
翌日の朝、目が覚めたら、何か温かくて柔らかいものに包まれていた。
夏なのにその温かさに嫌悪感はなくて、むしろずっとこの温もりに包まれていたいと思い、私を包んでいる柔らかいものに頬ずりする。
「んぅ…」
まだ瞼を開きたくなくて、ずっとずっとこのままでいたくて。
しばらくの間頬ずりしていると、寝ぼけながらも段々と頭が覚醒してくる。それと同時に、五感もだんだんと鮮明になり、視界がはっきりしてくると同
てぇてぇ百合、お探しではないですか?
もしも、この記事を読んでいただいているあなたがとても百合が好きで、尚且つ2.5次元への抵抗があまりないのなら、是非crossickをチェックすることをお勧めします!
きっと、浴びるほどの百合の供給に悶えることでしょう。。
ああ、まずはcrossickとは何ぞや?の説明が先ですね。
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第6話 宮前先輩と、お泊り
夕飯の片付けも終わり、順番でお風呂も済ませていざ寝るぞ、という段になり、先輩に言われるまま立ち上がった私は、目の前の状況に固まっていた。
目の前には、ベッドに体半分横になり、布団を上げて手招きしている宮前先輩。
他人との距離の詰め方が天才的なこの人のことだから、もしやとは思っていたけれど、本当にそうくるとは。
「……先輩、これって」
「そ、今日は一緒に寝てもらいまーす。……って、ちょっと!勝手に
第5話 藤崎結と、出会った日
ちいさくて可愛い小動物。守ってあげたくなる系。
藤崎結への第一印象は、そんな感じだった。
「今日は幼馴染と夕飯の買い物をして帰るから」、という葵のナゾの理由で先に帰宅するように言われた時、「え、いーな。私も行きたい」と咄嗟に口に出していた。
一人暮らしだから、どうせ夕飯の買い物、するし。
何よりいつも葵が話す、「ちいさくて放っておけない幼馴染」を一度見てみたかったのだ。
言うなれば、友達の妹か
第4話 宮前先輩と、そのお家
土曜日、お昼に合流して町で遊んだ後。私たちは夕飯の買い物をして先輩の家に帰宅した。
初めてあがる先輩の部屋は一人暮らしのワンルームで、思っていたより広かった。白とピンクを基調とした部屋は、物が少なくて整理整頓されている。
なんだか落ち着かなくて、失礼かなと思いながらも、きょろきょろと周りを見回した。
壁に掛けられたコルクボードには、私の知らない先輩の友達が写った写真が何枚か飾られていて、その中に
第3話 宮前先輩と、出会った日
その日の夜、お風呂上がりにドライヤーをかけていると葵ちゃんが「結の携帯鳴ってるよー。宮前から」と教えてくれた。
「うえっ、あっ、でもいまドライヤー……葵ちゃん、出て!!」
へーい、と言って葵ちゃんが代わりに出てくれる。
因みに葵ちゃんは今日もうちで夕飯を食べた後、うちの親の「明日どうせ休みだし、このまま泊まっちゃえば?」の一言でお泊まり予定だ。
泊まるの私の部屋なんだけど。
ドライヤー音の間