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第12話 モブの俺と、藤崎と(夏祭り後日談)

今回は、小休止的な感じで、藤崎さんに告白したモブの男子のお話です。
やさしい世界。
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「やけ食いか」と頭上から声がして顔を上げる。
目の前に立つそいつは、ハンバーガーが3つものったトレイを持っていた。
「お前だってハンバーガー3つとポテトも買ってんじゃねぇか」と返すと、「足りねぇんだ。育ち盛りだから」と言って、どかっと正面に腰を下ろした。
俺だって足りない。まだ食べられる。
確かにいまは、ちょっぴりやけ食い中だった。


「で?夏休み、藤崎に告白したんだって?」
突然のぶっこみに、飲んでいたコーラを思わず吹き出す。
ただでさえ炭酸は喉に来るってのに、気管支に入って、強烈な刺激に襲われた。
激しく咳き込む。
話の切り出し方が唐突過ぎんだろ。
ジトッと、俺が無言の涙目で訴えたからか、正面のそいつからは「ごめんって。でも今日はそのためのやけ食いだろ?お前を慰めるために今日来たんじゃねぇか」と笑われた。
確かにそうだ。
俺は、夏休みに藤崎結に告白して、振られたばかりなのだった。


夏休み、俺はクラスの奴らと一緒に夏祭りに行った。
そのメンバーのなかには藤崎もいて、予めみんなに頼んで、少しの間ふたりきりにしてもらい、告白する算段だった。
祭囃子が遠くに聞こえる。
俺の心臓の音も聞こえてしまいそうだった。
藤崎を前にして、どんどん鼓動が激しくなっていく。
浴衣姿がめちゃくちゃ綺麗だった。

「俺、藤崎のことが好きなんだ」
ふたりきりになったタイミングで、勇気を出してそう告げた。
びくっと、効果音が付きそうな程にあいつは身体をびくつかせて。
「……ごめんね」
と、申し訳なさそうな顔で謝ったんだ。

そんな顔をさせたかったわけじゃないんだけどな。
胸の奥が、痛くて痛くて堪らなかった。

「俺、藤崎の笑顔が見たかったんだ。俺があいつを笑わせたかった」
「………お前、ちょっと大人になったんじゃねぇの」
「どうだろうな」

ちいさく頭を振る。
俺は全然大人じゃない。
実際、振られたいまも未練はあって、いまもあいつを目で追っている。

だからこそ、気づいてしまった。
たぶん、あいつの好きな人に。

それに初めて気づいた時、正直、おいおい、そっちかよ、と思った。
そう思ったのは一瞬だ。
その人と話す時の藤崎は、幸せそうな笑顔だったから。
俺がさせたかった笑顔だった。

「追加でなんか食べるか?まだなんか食うならおごるぞ」
「あーー……。じゃあ、シェイク頼むわ」
「おっけ」
結構、腹は満たされた。
まだあんまり元気はでないけど、目の前の友達が、俺を元気づけようとしてくれているのは分かる。
こうやって少しずつ、気持ちを切り替えていくのかもしれないな。

でもあいつ、2年のあの美人な先輩かぁ。しかも女。
女同士って、付き合えんのか?
ほんとに、いざとなったら俺がお前の味方になるから、お前はちゃんと、幸せになってくれ。
そもそも付き合ってるのか分からないけど。

モブの俺には、応援することしかできないから。

新学期早々、俺は苦いスタートを切ったのだった。

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