見出し画像

「包容の渦」レポート

路上で座り込み酒を飲む人たちがところどころに存在して大声で喋っている。道路をみると酒の缶やタバコの吸い殻が散乱している。長テーブルが路上にせり出しており丸椅子がチラホラ置いてある決して綺麗とはいえない居酒屋に私達3人は手書きの品揃えをみながら酒を飲んでいた。
そうか、これが西成か。そう、私達は西成にいる。
例の如く寺越に呼ばれ西成にまできてしまった私はどうかしているんだろう、本当に。
私とインタビュアーのゴン田中(ゴン)、そして今回たまたま大阪にくる予定があったアートディレクターの高永硝子、3人は先ほど寺越と樋口綾香さんのユニットBobuuunの「包容の渦」のパフォーマンスをみたところだ。

「噂には聞いてたけど西成はドヤ街っすねぇ。でも思ったより嫌いじゃないっす。しかしここで寺越さんと樋口さんはずっと稽古してあのパフォーマンスやり続けたんすねぇ」

先ほどのパフォーマンスの影響か、感慨深くなっているゴン。ゴンはいきなりそうなるところがたびたびある。

「ケイさん、僕ら何回目っすかね。寺越さんの作ったのみるの?寺越さんもさっき言ってたけど、ぼくら位じゃないっすか、こんなにみてるの(笑)」

そう、私とゴンは世界一小さな芸術祭2021に始まり(そういえば、私は戯画リンピックからか)伊豆大島の「大島のボレロ」、駄菓子屋も訪れ、「親子ってなんぞ」、StudioOnd東中野の「子宮生前葬」、そして俳優としての寺越をわざわざ福岡の柳川までみにいって、現在西成まで来てしまった。

コチラは私のレポート


「ゴンくんもケイも本当に寺越さんが好きなんだねぇ、もう推しじゃない(笑」

そう言って笑いながら枝豆を食べる高永硝子。彼女と私は以前交際しており、世間でいう元カノという存在だ。お互いの仕事のすれ違いから別れていたが関係としては良好であり、たまに食事をする仲で、ちょくちょく寺越の話しをしていた。
アートディレクターという仕事からか、単なる興味なのか、わからないが大阪で仕事があるというのもあり西成に一緒にくることになった。

「いや〜好きってわけじゃないんですよねぇ。別にファンでもないし。なんていうんだろうなぁ。ねぇケイさん、これなんていうんすかね?」

私は言葉に詰まる。ゴンの言う通り私も寺越のファンでもないし、寺越の作ったものが面白いかと言われれば面白いというのとは違う気がする。

ただ気になる。

アイツがどういう過程を経て、どういう意図で作ったのか?というのをドキュメンタリーとして捉えているのかもしれない。前に寺越にドキュメンタリーとしてずっとカメラをまわしてみたらどうか、と提案したことがある。

いや〜それ始めの四国の時から言われてるんですけどねぇ。どうも一人でいろんな人に出会うところから撮ってっていう絵が想像できないし、まずおれは出来ないと思う。編集も無理だし。あと重要なのがカメラを向けると自然な感じで人と出会っていけないと思うんすよねぇ

寺越の言葉

寺越のいいたい事はなんとなくわかる。ただ多くの人はそこをみたいのではないか。そしてそれを知ればただでさえわかりにくい作品も少しはわかりやすくなるのではないか。

忙しくレポートを書けなかったものでいえば、近所のおっちゃんと息子を引き合わすために散々動いたことにより(こういうところがドキュメンタリー向き)寺越の親子関係とも通じるものを感じ、親子というものをコチラにも考えさせられる「親子ってなんぞ」、そこで付随してくるのが駄菓子屋経験。寺越が駄菓子屋してるところは単純に笑えた(意外に子供に人気だったのが驚き)


子宮摘出を決めた女性の意思を尊重してStudioOnd東中野を子宮の空間として中には彼女の子宮の歴史を過去から遡り現在の状態へ導くように展示して、導かれた先に摘出される子宮がひっそりと佇んでおり、なお触れる事が出来るのでダイレクトに自分がそうなったら?パートナーが?と考えさせられる「子宮生前葬」



福岡の柳川で行われた日本、台湾、韓国の俳優、演出家との滞在制作(コチラは寺越の企画ではない)寺越のチームはコロナが出て、なおほぼ寺越の40分一人芝居だった。アイツの演劇史上一番大変な役だったらしい。苦しんでる様子(ここもドキュメンタリー的)は最終日にアイツと直接会って手にとるようにわかった。終わって腑抜けのような状態になっていたからだ。私のこともわかってなかったのではないか。初日の本番中に小便を漏らすというのもアイツの笑えるところだ。


「確かにケイさんの言うように気になるのかもしれないっすね。あとぼくは”わからない”というところが興味深いっすね。だって大抵の事って今わかるじゃないですか?寺越さんのやることって聞いてもわからないっすもん(笑」

ゴンの言葉を聞いてビールをぐいっと飲み干した高永硝子が喋り出す。

「私は今日始めて彼?彼らのパフォーマンスをみたけど不思議な体験だったなぁ。彼らは空間をデザインしてるんじゃないかなぁ。だって西成のあそこの四角公園だっけ?あの空間を自分たちのものにしてるんだもん。笑っちゃうよ、あんな異様な空間で異物感なかったもん(笑」

高永硝子はほろ酔いで笑いが止まらないようだ。

「そうです、そう!あの場所で異物感ないのよくわからないっすよね(笑)こっちが異物感ありまくりでドキドキしちゃいましたよ」

ゴンは言いながら興奮していた。パフォーマンスの余韻もあるのかもしれない。笑いが収まった硝子はぐいっと酒をのんで一呼吸置いてゆっくり話し始めた

「終わったあとの寺越さんの話を聞いて私思ったもん。あ、この人は衝動先行型だなって」

ゴンと私はその言葉の意味がわからなく、首を傾げていると

「あ、衝動先行型っていうのは、その名の通り衝動が先走ってしまうということ。彼の場合は未知なものと出会いたい。だから知らない土地へ出向き、そこに住んでる人を巻き込んで空間をデザインしていく。自分自身予想が出来ないものを作っていきたいんだろうなぁ。ただ‥」

高永硝子は淡々と続ける

「衝動先行型には危険もある。衝動が先走り過ぎて周り、というか全体かな、それが見えなくなる事がある。今回のパフォーマンスも西成の住人とお客さんが本当に揉めてしまってケガ人が出てしまった時とか考えていたのかしら。お客さんにもリスキーでいてほしいと彼は話していたけど、安全にパフォーマンスに集中したい人たちだっていたと思うの、少なくとも私はそうかなぁ。」

硝子の言わんとしてる事はわかるが、私はそれが危険だとは思わない。衝動?いいじゃないか。安全にみたいのであればそういうものを見に行けばいい。私が口を開きかけた時

「う〜ん、衝動型?なんかよくわからないですけど、それってそんなに危険ですかね。何度も寺越さんのみてるけど危険だと感じた事ないなぁ。衝動とかデザインとかはわからないですけど。僕はなんか今回寺越さんと樋口さんの対決みたいにみえてワクワクしましたよ、そんでやっぱり樋口さんつえ〜(笑」

いいぞ!ゴン。
ゴンの言葉を聞いて、しまった、という顔をした硝子。

「あ〜またやっちゃった。すぐ分析しちゃうのね、私、はぁ〜。ごめんね、ゴンくん、ケイ。別に彼を否定してるわけじゃないんだけどなんか気になっちゃってさ。私も彼らのパフォーマンスは興味深かったよ。私には安心できる居場所を探す人たちにみえたかな〜。その場所をみつけるにはいろんな事が起こるし、戦いも避けられない、そしてみつけられないかもしれないなぁとか思ったなぁ。ねぇ、ケイはどう感じたの?」

私は、私は寺越の何度も倒れて立ち上がり地面を這いつくばる姿に自分を重ねていた。何度もボツにされる原稿、一文字も浮かんでこなく叩きつけたペンの数々、才能のなさを痛感させられる沢山の書籍、それでも書いていこうと自分を奮い立たせる日々。
それらが思い起こされ気づいたら拳を握っていた。

ただこれを言うのは恥ずかしく、渦の引力の強さを二人の身体を通して体感した、と答えた。

「それにしても樋口さんだっけ?彼女は凄いね。あそこに何日も通い続けパフォーマンスをやり続ける事ってとてもしんどいよ、それは同じ女性としてよくわかる。あ、ビールお願いします〜」 

勢いよくビールを頼む硝子

「わかります!樋口さんは何回かみてますが、独特の空気持ってるんすよね。ねぇ、ケイさんわかるでしょ。ちょっと浮世離れしていて、彼女の周りの空気はグネグネしてるっていうか〜あ〜どういえばいいんだ〜とりあえず僕も飲みます、ビールもう一個追加で〜」

この西成で確信した。
寺越は出会ったんだろう、信頼できる相方に。
Body blow(体当たり) unit略してBobuuun。
体当たりがとてもしっくりくる。
これから寺越と樋口綾香さんがどうなっていくか楽しみになってる自分が少し不思議でもあり、それも悪くないと思い、私もビールを注文した。

文 中谷計


#路地裏の舞台にようこそ #路地裏 #舞台 #アートフェス #演劇 #俳優 #映像 #ダンス #現代アート #芸術 #芸術祭 #東京 #大阪 #西成 #通天閣 #出会った人と作っていくぜ #パフォーミングアート #現代美術 #ヤクザ #Bobuuun #あいりん地区 #三角公園 #四角公園 #台風 #包容の渦 #EBUNE #配信   #EBUNE ×EARTH








この記事が参加している募集

#一度は行きたいあの場所

52,492件

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?