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真冬のオペラグラス

ファントム!ファントム!

今年の大寒もめっちゃ寒かった。1年で1番TRFの『寒い夜だから・・・』を聴きたくなる日だったな。去年よりも確実に寒い気がしたし、ヒートテックとダウンを着ていても全く意味がなかった。 でも、1番は去年の冬のようにマスクをしていなかったからかもしれない。

私は、そんな日にミュージカル『オペラ座の怪人』の来日公演を観に行った。本場ブロードウェイでは、35年のロングランを経て、去年4月に上演が終了したそうだ。本作に触れるのは、子供の頃に児童書籍で読んだのと、数年前に映画を観て以来である。2階席からオペラグラスで観劇していたが、本場の俳優さんたちによるパフォーマンスは圧巻であった。

そして、ここ数日の大寒波なんてどうでも良いくらいに気持ちが華やいでしまった。「ファントム!ファントム!」と何度も心の中で感嘆した。なんとも、素晴らしい幻影を魅せられた。

誰にだって心がツーッと寒くなる時はあるし、誰の心にも闇がある。誰の後ろにも幻影があるし、誰の心にも怪人がいる。そんなふうに思わされるような演出が、随所随所に凝らされていた。なんか、自分の心の中に潜んでいたエリックがザワザワと忙しくなってきた感じがした。色んな悲愴な過去を思い出し、エリックのように魂の雄叫びをを上げたくなってきたのだ。

エリック(怪人)は終始、仮面をしているが、最後にクリスティーヌ(ヒロイン)にその仮面を外されるというシーンがある。エリックにとったら、そんな命と同じくらい大切なマスクを外されることは、気持ちの大寒波以外の何物でもないだろう。自分の感情を隠し、そして表現できる唯一の愛翫がマスクしかないのだから。

私は時折、夜な夜な号泣してしまうことがある。泣けば泣く程、様々な情景がエンドレスに再生され、どうやってその気持ちに収拾をつけたらいいか分からなくなる。そんな自分をコントロールして日々を過ごすのって、本当に難しい。見えない何かに脅かされていると思っていたけれど、それは心の奥底に潜むエリックがヴィヴィッドに息をし始めたのかもしれない。

そう考えると、私はクリスティーヌでもありエリックでもあるのだと思った。常に何かを夢見ながらも、突如として脅威が襲ってくるのは陰と陽の二面性があるからこそだ。時にはクリティーヌの可憐な感情が私を魅力的にさせ、時にはエリックのメランコリックな感情が私を脅かす。シーソーのように毎夜変わり行くその様子は、まるで常にマスクを付け替えているようである。でも、その忙しなさがまた、私を人間らしくしているのかもしれない。

オペラグラスのように幻影を魅せてくれるフィルターを通せば、どんなことも曖昧に介せて楽になるのかなと思うこともある。自分の心の中のエリックとしっかり向き合わなければいけないのに、息を切って逃げたくなることもある。でも逃げられないし、声を上げて啼き叫びたくて仕方なくなるのだ。

いつの日か、心の中のエリックが完全に昇華され、歓喜のファントムを感じられる時がきたらいいのにな。次に『オペラ座の怪人』を観る時には、今と全く違うマスクを着けていたいと思う。

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