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小説のようなもの

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#超短編小説

窓辺と女

窓辺と女

窓辺から見上げた星は光り方を教えてくれない。

どれくらい経っただろうか。室内なのにコートを着たままあたしは窓辺に突っ立っていた。タバコの煙が目に入って我に返った。殆どが灰になった可哀想なタバコを一口吸ったところで自分が泣いている事に気付いた。しょっぱさを苦みでかき消すように慌ててもう一口煙を吸い込む。泣くためにタバコを吸っているみたいでまた涙が出てきた。

左へ少しずれたら1階へつながる階段があ

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とっくのとおに。

とっくのとおに。

疲れてメイクも落とさず寝てしまった日の翌日は、シャワーから上がって顔にパックをする。

昨日の自分から今日の自分への申し訳程度の施しだ。

今日も生活は続いていくなんて辛いなあ。

 2年前のクラブイベントで声を掛けてきた男の人と2年ぶりに会ってホテルに行った時、合コンで出会った全然タイプじゃない男と3回目の飲み会で深夜にゴリ押しされてホテルに行った時、私は好きな人じゃなくても感情を殺してセックス

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夏を知っていく。

夏を知っていく。

苦手なビールをビニール袋に入れた左手が君のアパートの手摺を掴んで今日も私は階段を登る。
「扉の向こうには希望が待ってる」、
君の好きなバンドの歌詞を口ずさみながら重たい鉄の扉を開ける。
いつもみたいに君のソファが私に馴染んだ頃、ビールを飲んでご機嫌な君は無理やり私の髪を乾かすけれど、私はその瞬間の無言が好きだった。
本当に聞きたいことなんて聞けないし、この轟音だらけの世界で君に会う度に私はビールを

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天井のハートと梅雨明けと。

「なんかさ、持参するの忘れて思いがけず使った旅館のコンディショナーが意外と良くて、髪がサラサラになった時ってさ、なんか寂しくない?嬉しいんだけど悲しいよね。」

行為が終わってシャワーを浴び終えた君が床にぽたぽたと水滴を垂らしながら、話しかけてくる。半裸の君はお構い無しだけど、なんとなく目のやり場に困って、テレビの横の棚に目をやる。

「わかる!意外とよく分かんないメーカーのコンディショナーがいい

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