_missin

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ブログも開設しておりますが、各場所で内容は異なります。 日本語版ブログ https://dilettante-boudoir.amebaownd.com 英語版ブログ https://boudoir3373port.wordpress.com/

マガジン

  • BUTTER

    小説

  • 紅茶と花々の日々

    偏屈な人、その生活

  • エッセイ

    エッセイ集

  • 小さな花たち

  • マグマスペース

    僕たちはどこから来て何処へ行くのか。

最近の記事

メリザンド

甘やかなともだちのことを、打ち明けさせてください。 その子は独立心の高いロシアン・ウルフハウンドをお部屋で飼っていて、一緒に寝るんです。裸に清潔なシーツが当たるのをとても好むひとで、夜は着物も下着も全部脱いでベッドに潜り込む女の子でした。 その子は自分を愛していて、お付き合いする男のひとはひとりもいませんでした。彼女が私室で心を許すのは、狼よりも強いセーブル色の大きな美しい犬だけ。 その子の父親と、私の母親は古い友人でした。4歳のとき、母親は私に同い年の女の子について話し

    • ひなぎくの小路

       巨大なキャリーケースと、革の学生鞄を、まだシーツも張っていないベッドの傍に放り出した。  シャツ衿の一番上の貝釦だけ開けて、髪は高い位置でシニヨンヘアにし、ピンクグレージュのワンピースに水色の傘を持って部屋を出た。誰もいない石畳を歩き、重い木の扉を押して外へ出ると、ラムネ瓶のような淡水色の空に羽雲が散らばっていた。陽光の暖かさにまだ夜の影が残るような風が吹いていて、まゆこは首元に軽くそれが当たるのを楽しんだ。振り返って塔を見上げると、灰色の石の塔は不安を駆り立てるような存

      • ブロッコリー

        得意料理が出来ました。 ブロッコリーのオーブン焼きレモン風味 (何と呼べばよいか…) 家に大きいオーブンができてから二度目の挑戦で確信しました。これから何度も繰り返し作るレシピだって。 ブロッコリーが好きな人は是非やってほしい、簡単でとても美味しいから。 必要なもの(二人分) ・ブロッコリー2つ ・レモン1個(レモンゼストとレモン果汁に分ける) ・粉チーズ、好きなだけ(一般的なのはパルミジャーノ。粉に限らず好きなチーズでいいと思う) ・オリーブオイル、適量 ・美味しい塩、

        • 揺れるロウソク

          百円のライターで赤い蝋燭に点すと、半径2センチ高さ1.5cmの銀皿をつまむ指先には、瞬く間に910℃の焔に炙られた空気が伝わった。 あのひとに初めて会ったときの、ひと抱えのチューリップと薔薇…という空想を思い出していた。 ブランケットの中で身を縮めて、白くなりそうな息を指先に吹きかけながらまゆこは蝋燭の火を見つめていた。 床の木目は水面のように揺れ、まゆこは思考の昏がりに少しずつ沈んでいった。 「どうか、君はひと抱えのチューリップと共にいて」 山猫みたいな細い目で睨むよ

        メリザンド

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          9本
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        記事

          シケイダのナイフ

          料理も出尽くし、皿も寂しくなったところで突然祥子が少し高い声を出したのでまゆこはカウンターについていた肘を浮かせた。 「まゆこさん、あなた箸も出していなかったなんて」 まゆこの前には一度も使われない取皿と箸袋に収まったきれいな箸があった。 「いま気づいたわ、そんな顔をしないで祥子さん」 「私はあなたの世話人じゃないのよ」 よく焼いたラムステーキ、カカオ・ビーフシチュー、薄切りの豚と茄子と茗荷の冷たい和え物、ナッツとシナモン増量のタルト・タタン、黒胡椒の入ったジンジャーエール。

          シケイダのナイフ

          ガールフレンド

          その女の子はジャズバーで働いていて、私に水のグラスを出してくれた。たぶん私より少し背が小さいくらいなのに、手が私よりずっと小さくて、指先と爪も可愛いかたちをしていた。なにより肌がパールのようにきめ細かく光っていて白く美しい。 ジャズライブの演奏を聴きながら、私はその女の子の働きを目で追っていた。飲み物を盆にのせて私の横を何度も通り過ぎ、その度に私の水のグラスが減っていないかとこちらに視線を向けるのだった。 注文したキャンディみたいな赤色のクランベリージュースより早く水を飲

          ガールフレンド

          今日みた夢の話

          寝室のベッドはふたつの壁に寄せて置かれていて、ふたつの窓に面していた。植物が雨戸とガラスの内窓の間に置かれており、寝室からガラス越しにミントの葉が見えていた。 時々雨戸の外から植物を食べにあぶら虫や小さなハエが入ってくることがあり、その日も植物に水をやって葉についた虫を取り、きっちり内窓をしめて布団に潜った。 目が覚めると、視界の端に何か小さなものが動いているのが目に入った。急いで眼鏡をかけて確認するとあぶら虫がゆっくり歩いている。耳に羽音を感じて驚くと、小さなハエが飛んで

          今日みた夢の話

          ゆめ覚めたあとのゆめ

          カフェーの昏いカウンター席の端っこでまゆこはつまらない男性に手紙を書いていた。ふと顔を上げて、テーブル席で本を読んでいる人が本から目を離さないまま左手がケーキのフォークを探して宙を彷徨っているのをぼんやりみつめた。 まゆこは手紙を書きやめて、便箋を半分に折って封筒へ入れた。 「ね、おねえさん」 声に振り向くと席をひとつあけて隣に座っていた学生服の青年が紙ナプキンを差し出していた。 「ひどく濡れてるよ」 まゆこが手紙を書くために適当に端へ追いやったサイダーの結露が水たまりをつく

          ゆめ覚めたあとのゆめ

          花咲くことへの讃歌

          天井より吊り下がる、空も埋もれんばかりと錯覚するまでの、それは大量のドライフラワーの下に私はあった。 花が花ゆえに美しいのは、それが生殖器官であるからであったか。 いったいどうしたことか、私はここにあって真に満足してしまっていた。胸のうちは充たされて窒息寸前、自らの感涙の海に溺れゆくナイフであった。私は水よりも密度の高い金属となり、潮で炎症を起こして錆びついていた。 デセールはゆめをみていた 陽光の下でも木蔭に湿った其処に凛々しく蕺草が葉を伸ばしており 陽と蔭に目が眩ん

          花咲くことへの讃歌

          デセールへのゆめ

          そしてあたしは駱駝やエミューや蛇や鰐、蠍や胡蜂、烏の丸焼きなどの寄食に歓びあるくように成長した。 成長したあたしにとって社会の人間のひとりひとりはぎりぎりのところで興味の対象ではあったが、やはり期待すべきものではなかった。そして、経験と知識と実績の切磋琢磨する社会という構造そのものが実体として現れ見えてきたときから、やはりあたしは社会からの報酬など求めていなかった。 然るところこの世は刺激的であったがそれを去勢させているのは人間の共同体であると考えていた。 退屈しのぎに

          デセールへのゆめ

          憂鬱な瞳

          ひと抱えのチューリップと薔薇…という空想   まゆこはこの休日をギヨーム・アポリネールの詩集を手に、敷地の東側にある温室や庭園をなにとなく歩き、蝶のはばたきや魚のおこす水のゆらぎのような気持ちでいた。 そうして西陽から身を隠すように寮にはいり、部屋に戻るでもなく階段の踊り場で、ぼうっとあの世の片隅に思いを巡らしていた。 寮の階段の踊り場にはふたつの窓があって、木の格子に旧い硝子が嵌っている。鉄の輪に金具を引っ掛けるだけの簡単な鍵がついていて、内側から外開きに窓が開けられる

          憂鬱な瞳

          ハニー

          私をbeautifulと名付け、darlingと呼んでくれたあなたへ ダンボールの小さな箱をこんなにも格好良くしてしまえるのは、あなたに違いありません。 自作のステッカーを貼って、私の名前のひらがなをデザインして、日本画の切手を四隅に貼ってくれましたね 私がカッターの刃を入れているときのときめきを想像してください… カッターで切った跡が刻まれてもあなたの箱はその特別さをひとつも失わず、むしろもっとその存在を強くさせました。 開けたら小さな魔法が現れました。 私の表情の変

          はじめまして!

          はじめまして。私は   。 小さな頃から絵を描くことが好きで、水彩も油彩もイラストも描きます。画材はボールペンから糸まで、色のあるもの全部です。写真を撮るのも好き。 体を動かすことも好きで、色んな植物や虫に出会うために山にも行くし、海にも行きます。特に海は大好きです。 私が愛しているものは季節です。できることなら、瞬きする時間も惜しんで季節をみていたい。空の色が移り変わっていく様子をみているとき、空の色に自分のからだが溶け込んでいく想像をします。ブランコに乗りながら逆さまに

          はじめまして!

          彼女について

          野生動物のような私の友達は、美しいことには憧れない性質だった。 生木の匂いを嗅いだことのない都会の人間や、プラスチックに包まれた臭い食べ物や、整頓された退屈なデザインの焼き増しなんかに見向きはしない。 私たちは両親の付き合いで、赤ん坊のころから触れ合い、私たちの記憶が形成される頃にはいつの間にか一緒にいた。つまらない理由で頻繁に開かれるパーティー、親戚や知人に振る舞う笑顔、立派で高級になるための習いごとや発表会、必要以上に人間が集まり馴れ合う場所を渡り歩いて育たなければい

          彼女について

          3週と5日目

          封代わりの青いベルベットリボンの一端を摘んで引くと、結び目が解けてそのままだらりと垂れ下がる。箱を持ち上げて自分の膝の上に置くと、以前持ち上げた時…店から部屋へ持ち帰ってくる間までのことだが…よりも重量が軽くなっているような感覚がする。蓋に手をかけると男はそれを持ち上げようとするのだが、見た目よりも存外手ごたえがある。厚紙同士の摩擦や湿度による歪みで生じるようなものでは決してない、本体と蓋が糊付けされているかのような堅牢さ。 その手に覚える頑丈さに合わせて、少し強い力で蓋を

          3週と5日目

          あたしと友達とお菓子について

          あたしが小麦色のワンピースを捲り上げて、デイジーの刺繍のある麦わら帽子を被って森の中、草を摘み友達と口吸いのまねごとなどをしていた頃 デセール(dessert)でちいさな女の子はできあがると思っていた。 季節の果物は白い肌をより白く輝かせ、ミルクや卵は華奢な骨格を創り上げ、クリームややさしいお砂糖は極上の柔らかさを与えるものだから、ちいさな女の子はデセールだけを食べて生きられるのだと思っていた。 かくいうあたしは、雑食の獰猛な獣であった。だからちいさな女の子がほんとうにい

          あたしと友達とお菓子について