メリザンド

甘やかなともだちのことを、打ち明けさせてください。

その子は独立心の高いロシアン・ウルフハウンドをお部屋で飼っていて、一緒に寝るんです。裸に清潔なシーツが当たるのをとても好むひとで、夜は着物も下着も全部脱いでベッドに潜り込む女の子でした。
その子は自分を愛していて、お付き合いする男のひとはひとりもいませんでした。彼女が私室で心を許すのは、狼よりも強いセーブル色の大きな美しい犬だけ。

その子の父親と、私の母親は古い友人でした。4歳のとき、母親は私に同い年の女の子について話して聞かせました。いつか会うことになるともだちだと…。8歳のときにその子が流行の風邪をひいて大変な熱を出している最中に近くに引越してきて、私は母親と一緒にお見舞いに行って初めて私はその子に出会います。
「お久しぶり、引越すまで長かったわね」
「仕事のせいでだいぶ延びたけど、念願叶ってよかったよ」
その子の父親と私の母親が数年ぶりの再開を祝っている間、私は大人用のベッドで眠っている女の子に自己紹介をして、その後は側にいて静かにしていました。その子の名前は英語でKaren、漢字で花蓮でした。

私たちはいつの間にか同じ小学校を卒業し、同じ中学校に通いました。10歳のとき、セーブル色の子犬が彼女の家に初めて来て私は花蓮の私室に泊まりました。それまで何か鬱屈していたような彼女が、子犬によって解き放たれた感覚がしました。夏の強い光の下で子犬と戯れて走り、ミントソーダを飲みながらお菓子を食べて、夜風にあたりながら並んで眠りました。
「私のお母さん、会えなくなっちゃったの」
「どうして?」
「ドイツから帰ってくるの、ずっと待ってたのに…」
花蓮は子犬を抱き締めて涙をこらえていました。
「お父さんが、お母さんと離婚するんだって」
「…」
そのまま花蓮は声を殺しながらしばらく泣いていました。私は言葉を持たず、その涙が収まり寝静まるまで子犬が彼女から離れないように見守っていました。

その頃から花蓮は急に大人びていきました。
高校受験の頃、彼女は宣言しました。
「あたし、オランダに留学するわ」
花蓮は既に遠くの景色を見ていました。

(つづく)

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