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あたしと友達とお菓子について

あたしが小麦色のワンピースを捲り上げて、デイジーの刺繍のある麦わら帽子を被って森の中、草を摘み友達と口吸いのまねごとなどをしていた頃
デセール(dessert)でちいさな女の子はできあがると思っていた。

季節の果物は白い肌をより白く輝かせ、ミルクや卵は華奢な骨格を創り上げ、クリームややさしいお砂糖は極上の柔らかさを与えるものだから、ちいさな女の子はデセールだけを食べて生きられるのだと思っていた。

かくいうあたしは、雑食の獰猛な獣であった。だからちいさな女の子がほんとうにいるとするならば、あたしはそれをすぐさまに愛した。

あたしという獣については、
遊びといえば古書の切り貼り、宝物といえば透明な硝子球であったけれど、あたしは舌が肥えていた。むかし、街の中心の、いちばん高いビルの屋上で食事をしたとき、席で立ってする親戚へのご挨拶も帰りにシェフから貰ったテディベアも、中の下くらいのお料理もほんとうにつまらなかったけれど、あたしは御夕飯に出される魚の目玉が一等好きだった。家庭では目玉を食べ、誕生日には一等級の甘い鶏肉を所望し、森で若草を噛み香り、あたしは育った。
そういう食好みをするものだから、お菓子に対してもあたしは選り好みが激しかった。

あの頃、あたしのよき共犯者であった友達が、手の中で丸くて真っ赤なチューインガムを転がしながら云った。

今日はね、オモチャみたいなお菓子があるの。いっこあげる、あんたの好きそうな色でしょ。
こんなの、私の家にもあんたの家にもないと思う。どう?

男子がこっそり持ってきてたわ。ガム、ガムなんてアハアハアハハハ!あんた食べたことある?

明日は父さんのお菓子を持ってくるよ。お酒の入ってるやつ!

彼女は盗みの天才で、両親や同級生からお菓子をくすねて、あたしのところに持って来た。彼女の盗みは時々他人に暴かれることがあったが、彼女はまた嘘つきの天才でもあったので、いつも彼女は潔白であり続けた。

しかしあたしと彼女にとってお菓子は重要ではなかった。この手癖の悪い友達はあたしの好きなお菓子を当てる遊びと称して、自分の快楽のために盗みを働いているだけだった。

彼女は大抵、蟻の巣にお菓子をばら撒き、砂糖で蟻を窒息させていた。あたしは、その不正解の盗品を殆ど食べずに、手遊びに友達の口に詰め込んでいた。彼女はこうした私の意地悪の腹いせに、砂糖やキャラメルや香料甘味料でいっぱいの口を私の頬に押し付けた。

あなたってほんとう意地悪でズルい。
酔っぱらいのお父さまに隠れて舐めたウイスキーの味しか知らないくせに!

それよりもねぇ。
あたしたちのおうちには、チューインガムとかグミとかは絶対にないけれど、だからってこのガムボールはお菓子じゃないし珍しくもないわ。わざわざミルクや小麦粉や砂糖なんかに変なものを入れちゃってできた、甘ったるいプラスチックがダガシってやつよね。

あたし赤いのは好きだけど
男子の手垢よりお肉とか野苺とか、そういうのがきっと、あたしたちにお似合いだと思わないわけ?

ああうるさい、こだわりが強いおひと、あんたが好きな食べ物って目玉しか知らないわ、と友達はげらげら笑うのだ。
あたしはすまして、スギナを噛んで口直しをしたものだ。

あたしは…母が料理をしない日に時々食卓に出る、出来合いの食べ物を気持ちよく食べたことがないし、祖母がスナックのように頻繁に宅配させる高級寿司も好まない。星付き料理人の作品も、マシと思えれば幸運だと考えていた。一日数回ある食事の度に、私は自分で漕ぐことのできないブランコに縛り付けられているような退屈を味わっていた。

だからといってあたしは食わず嫌いにはならなかった。味覚の飢えを満たすものを探し続けて何でも喰って吐き出した。そのたびに、その刺激の余韻を記憶に刻みつけて、理想の食べ物を想像しようとしていた。

思うに、もともとあたしは味覚に敏感であり、故に味覚に関して殊更豊かに成長したのだろう。

__しかし友達付き合いに関してあたしは殊更上等なものを選り好みする訳ではなかった。あたしが理想の味を見つけられないように、人間もあたしのこころにかなうものがあるとは考えなかった。(そしてあたしは、そのとき既にデセールという夢をみてしまっていた)

あたしはこの駄菓子のような友達と、付きすぎず離れず、小学校、中学校にいるあいだは何とはなくつるんで過ごしていた。

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