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BUTTER

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ひなぎくの小路

 巨大なキャリーケースと、革の学生鞄を、まだシーツも張っていないベッドの傍に放り出した。

 シャツ衿の一番上の貝釦だけ開けて、髪は高い位置でシニヨンヘアにし、ピンクグレージュのワンピースに水色の傘を持って部屋を出た。誰もいない石畳を歩き、重い木の扉を押して外へ出ると、ラムネ瓶のような淡水色の空に羽雲が散らばっていた。陽光の暖かさにまだ夜の影が残るような風が吹いていて、まゆこは首元に軽くそれが当た

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揺れるロウソク

揺れるロウソク

百円のライターで赤い蝋燭に点すと、半径2センチ高さ1.5cmの銀皿をつまむ指先には、瞬く間に910℃の焔に炙られた空気が伝わった。

あのひとに初めて会ったときの、ひと抱えのチューリップと薔薇…という空想を思い出していた。

ブランケットの中で身を縮めて、白くなりそうな息を指先に吹きかけながらまゆこは蝋燭の火を見つめていた。
床の木目は水面のように揺れ、まゆこは思考の昏がりに少しずつ沈んでいった。

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シケイダのナイフ

シケイダのナイフ

料理も出尽くし、皿も寂しくなったところで突然祥子が少し高い声を出したのでまゆこはカウンターについていた肘を浮かせた。
「まゆこさん、あなた箸も出していなかったなんて」
まゆこの前には一度も使われない取皿と箸袋に収まったきれいな箸があった。
「いま気づいたわ、そんな顔をしないで祥子さん」
「私はあなたの世話人じゃないのよ」
よく焼いたラムステーキ、カカオ・ビーフシチュー、薄切りの豚と茄子と茗荷の冷た

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ゆめ覚めたあとのゆめ

ゆめ覚めたあとのゆめ

カフェーの昏いカウンター席の端っこでまゆこはつまらない男性に手紙を書いていた。ふと顔を上げて、テーブル席で本を読んでいる人が本から目を離さないまま左手がケーキのフォークを探して宙を彷徨っているのをぼんやりみつめた。
まゆこは手紙を書きやめて、便箋を半分に折って封筒へ入れた。
「ね、おねえさん」
声に振り向くと席をひとつあけて隣に座っていた学生服の青年が紙ナプキンを差し出していた。
「ひどく濡れてる

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花咲くことへの讃歌

花咲くことへの讃歌

天井より吊り下がる、空も埋もれんばかりと錯覚するまでの、それは大量のドライフラワーの下に私はあった。

花が花ゆえに美しいのは、それが生殖器官であるからであったか。

いったいどうしたことか、私はここにあって真に満足してしまっていた。胸のうちは充たされて窒息寸前、自らの感涙の海に溺れゆくナイフであった。私は水よりも密度の高い金属となり、潮で炎症を起こして錆びついていた。

デセールはゆめをみていた

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デセールへのゆめ

デセールへのゆめ

そしてあたしは駱駝やエミューや蛇や鰐、蠍や胡蜂、烏の丸焼きなどの寄食に歓びあるくように成長した。

成長したあたしにとって社会の人間のひとりひとりはぎりぎりのところで興味の対象ではあったが、やはり期待すべきものではなかった。そして、経験と知識と実績の切磋琢磨する社会という構造そのものが実体として現れ見えてきたときから、やはりあたしは社会からの報酬など求めていなかった。

然るところこの世は刺激的で

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憂鬱な瞳

憂鬱な瞳

ひと抱えのチューリップと薔薇…という空想  

まゆこはこの休日をギヨーム・アポリネールの詩集を手に、敷地の東側にある温室や庭園をなにとなく歩き、蝶のはばたきや魚のおこす水のゆらぎのような気持ちでいた。
そうして西陽から身を隠すように寮にはいり、部屋に戻るでもなく階段の踊り場で、ぼうっとあの世の片隅に思いを巡らしていた。

寮の階段の踊り場にはふたつの窓があって、木の格子に旧い硝子が嵌っている。鉄

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彼女について

彼女について

野生動物のような私の友達は、美しいことには憧れない性質だった。

生木の匂いを嗅いだことのない都会の人間や、プラスチックに包まれた臭い食べ物や、整頓された退屈なデザインの焼き増しなんかに見向きはしない。

私たちは両親の付き合いで、赤ん坊のころから触れ合い、私たちの記憶が形成される頃にはいつの間にか一緒にいた。つまらない理由で頻繁に開かれるパーティー、親戚や知人に振る舞う笑顔、立派で高級になるため

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あたしと友達とお菓子について

あたしと友達とお菓子について

あたしが小麦色のワンピースを捲り上げて、デイジーの刺繍のある麦わら帽子を被って森の中、草を摘み友達と口吸いのまねごとなどをしていた頃
デセール(dessert)でちいさな女の子はできあがると思っていた。

季節の果物は白い肌をより白く輝かせ、ミルクや卵は華奢な骨格を創り上げ、クリームややさしいお砂糖は極上の柔らかさを与えるものだから、ちいさな女の子はデセールだけを食べて生きられるのだと思っていた。

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