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エッセイ

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#創作大賞2024

卵で産みたい。

卵で産みたい。

「つわりはしんどい。」
情報として、知ってはいた。

本や映画でそれらの描写は度々見てきたし、大好きな作家さんや友人が、妊娠当時のことを書いた血の通った文章だって読んできたから。

それらを読みながら、

「わあ、妊婦さんって大変なんだなあ。」
「ずっと吐き気なんて、気の毒だなあ。」

だなんて、その辛さに共感していたつもりだったけど今なら分かる。ちっともわたしは分かってなんかいなかった。

実際

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ポテト欲、爆発中。

ポテト欲、爆発中。

クラッカー5枚入り、2袋。
粉末味噌汁。
小さいおにぎり。
チョコレート3つ。
干し柿。

これはとある日のわたしのおやつである。
これで普通に朝昼晩も食べているからこわい。

吐きづわり、食べつわり、眠りつわり…。
妊娠中、様々なつわりがある中でどうやらわたしは、空腹になったら気持ちが悪くなる「食べづわり」らしい。

なんせ、少しでも空腹になるとしんどい。
横にならなければいけないほどではないが

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子どもを泣かせた、ベテラン先生の一言。

子どもを泣かせた、ベテラン先生の一言。

「すみません、まだ子どもが帰っていなくて・・・。」

ーまた?

電話で保護者からのその知らせを耳にしたとき、正直そう思って心がざらついてしまった自分がいた。

ちらりと職員室前方の時計に目をやる。
時計の針は、16時を過ぎたところ。
1年生の下校時間からは、もうすでに30分以上過ぎている。

クラスのれおくん(仮名)は、少し前にも同じように下校時間を過ぎても帰宅していないということがあった。

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ようこそ、まめちゃん。

ようこそ、まめちゃん。

いつからだったんだろう。
Instagramに並ぶ友人たちの赤ちゃんの写真を可愛いねえ、という気持ちだけで見れなくなってしまったのは。

彼女らの作る美味しそうな料理とか、心動いた素敵なお店とか花や空の写真とか。
それらから垣間見える日常への眼差しが好きだった。

しかしその内の何人かは子どもが生まれてからかなりの頻度で更新されるのは、我が子の写真一色になった。

そりゃあ1日の大半は育児になるし

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美しきパフェに浸る。II

美しきパフェに浸る。II

パフェとは、つかの間の夢であり刹那のエンターテイメントである。

以前、ブライトンホテル東京ベイのロビーラウンジ「シルフ」にて「美しすぎるパフェ」として苺をふんだんに使用したスワンパフェを堪能した。

そして今回また別のブライトンホテルに泊まることになり、他のスワンにもお目にかかれると知ったとき、これはぜひ会いに行かねばと思った。

というわけでパフェを食す、あの夢のような時間を求めてブライトンホ

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「風が気持ちいい」のかっこいい言い方。

「風が気持ちいい」のかっこいい言い方。

茶室に入った瞬間に、あれ、とほのかな違和感を抱いた。

それもそのはず。
先月までぽっかりと畳をくり抜いて、備え付けてあったはずの炉がない。その場所は何事もなかったように畳になっていた。
その代わり、勝手付けに近い方の畳の上の釜でしゅんしゅんとお湯がたぎっている。

風炉、である。
5月からは気温が高い時期は、こうして畳をくり抜いた「炉」から畳の上でお釜を沸かす「風炉」に切り替わる。

前回前々回

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京都で小学校だった建物でお籠りステイ。

京都で小学校だった建物でお籠りステイ。

ホテルやら旅館やら、わたしにとってのお宿とは、観光地へ赴くための足掛かりではない。
ここ最近は、どちらかというと、ゆっくり過ごすための非日常と日常のあわい的な要素が強い。

いつもと違う環境の場所で、お気に入りの飲み物片手にゆったり過ごす。
それは、リフレッシュであり、贅沢であり、またゆるやかな現実逃避でもある。

関西圏に暮らすわたしは、京都、奈良、大阪、和歌山など関西にお気に入りのお宿が多いが

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繋がれた小さな手。

繋がれた小さな手。

きゅ、と小さな温もりがわたしの手の平に触れる。

少し驚いて、そうっと手の持ち主を盗み見る。特段、照れ臭そうでもなくうれしそうでもなく、いつもと変わらぬ低学年のそうたくん(仮名)の横顔。

意外に思ったのは、彼は普段わたしの近くによってきたり、スキンシップを求めたりするようなタイプではないから。

…なんでこのタイミングで?

彼は、玄関で上靴から外靴に靴を履き替えるときに手を握ってきた。

あ、

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卒業式、斜め前の先生の涙が美しいと思った。

卒業式、斜め前の先生の涙が美しいと思った。

つい先日、わたしの勤める小学校で卒業式があった。
卒業生の新たな門出を祝うかのごとく、春の日差しが温かな日だった。

何度も練習したように、1人1人、ゆっくりと体育館の壇上にあがる卒業生たち。

担任により名前を呼ばれると返事をし、卒業証書を受け取って礼をし、またゆっくりと階段を降りてゆく。

卒業生である6年生へどんな思いを抱くかは、これまでの彼らとの関係性によると言える。

わたしはというと、

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滋賀大津にて、ドイツを堪能する。

滋賀大津にて、ドイツを堪能する。

未知との遭遇は愉しい。

それが不安要素が特に見当たらず、期待に覆われているならばなおさら。

目に飛びこんでくる文字は読めるけれど、どんなものを指すのかは見当もつかない。
しかし、きっと美味しいものであるという期待は膨らむ。

わたしは、ドイツにやってきた。

いや、正しく言うと滋賀県大津市にある
「ヴュルツブルクハウス」というドイツ料理のレストランにやってきた。

可愛らしい民族衣装のようなワ

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おばあちゃんがくれた、ふわふわハンカチの正体。

おばあちゃんがくれた、ふわふわハンカチの正体。

「かしこいまりちゃんにこれをあげよう。」

そう言って今は亡き祖母は、幼稚園児だったわたしに、阪神百貨店の包みを差し出した。

祖母は百貨店が好きで、足腰弱るまではよく出かけていたものだ。

なんだろう…!
わくわくしながら包装紙を破る。

姿を現したのは綺麗にラッピングされ、お行儀よく箱に納まったハンカチだった。
黒地に華やかな花が描かれている、ふわふわのハンカチ。

(…あんまり好きじゃない。

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泊まり、より日本を知れる体験。

泊まり、より日本を知れる体験。

素敵な旅館やホテルに泊まることが趣味といっても過言ではないわたしだが、美味しいものを食べて寝起きするだけでない、泊まる以上の価値を提供してくれた、ずっと心に残る経験が出来たお宿がある。

そのお宿は全国に展開する、「NIPPONIA」
のお宿。

「NIPPONIA」とは、「なつかしくて、あたらしい、日本の暮らしをつくる」
そんなコンセプトをモットーに、
「歴史的建造物の活用を起点にその土地の歴史

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家庭訪問先でステーキを食べて泣いた話。

家庭訪問先でステーキを食べて泣いた話。

「さあさ、もう焼き上がりますんで。」
玄関で靴を脱いでいると、にこやかにそう言われた。

もう、焼き上がり、ますんで・・・?

漂う焼けるお肉の、暴力的なまでにそそられるいい匂い。お昼に食べた給食はすっかり消化し終えている。ほどよく空っぽの胃が、物欲しげにきゅるきゅる動く。

・・・ちょうどご夕食の準備中だったのだろうか。タイミングが悪くて申し訳ない。早くお暇しなければ。
そんなことを考えながら案

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