見出し画像

言葉を考える⑥「守ってあげたい」の危険性

 21世紀に入ったばかりの頃、その頃、まだ10代だった女性ミュージシャンが結婚することがニュースになった。その時、その結婚相手の男性は、その女性よりも、かなり年上、ということもあったせいか、「守ってあげたい」といった発言をしていた。

 その時、とても無責任だけど、そして、まったくの他人だから余計なお世話なのだけど、嫌な予感はした。別に、それだけが原因のわけもなく、本当のことは、その二人にしか、もしかすると、本人たちにも分からないのかもしれないけれど、その約5年後に、離婚をした。

松任谷由美の「守ってあげたい」

 もうずいぶん昔の話になってしまうけれど、松任谷由美の「守ってあげたい」は、映画「ねらわれた学園」の主題歌として書き下ろされた曲で、その主演は、当時、確か、まだ高校生だった薬師丸ひろ子だった。

 だから、映画の内容も含めて、その歌は、「女の子が、けなげにも、自分が好きな男の子を守りたい、と願う」というニュアンスが強く伝わりやすく、その好きな相手を、「守ってあげたい」と思えるのは、自分にとって素敵な存在であることへの恩返しとして、というようなロマンティックな歌詞に思える。

 この当時は、まだ1980年代初頭であるから、「男らしさ」や「女らしさ」のパターンはかなり定型的で、しかも強く規定されているような時代で、その「男らしさ」のなかに「女性を守る」というようなことが含まれていたはずだった。

 だから、女性から男性に対して「守ってあげたい」と言うのは、当時は新鮮で、確かに、そんな風に歌われると、特に若い時は、男性はうれしく感じてしまうような頃だった。


AI 「Story」の「守るから」

 1980年以降も、歌謡曲やJPOPでは、そんなに詳しくは知らないけれど、恋愛に関する音楽の中では、おそらく「守ってあげたい」といったニュアンスの言葉は、数限りなく語られてきた、という印象がある。

 それは、やはり、相手によって、タイミングによっては、「グッとくる」表現であったのだと思う。自分の経験不足もあって詳しくは語れないが、一瞬の錯覚であっても、うっとりするのは、幸せということなのかもしれない。

 AI 「Story」の中で、「守るから」と歌ったのは、2005年のことだった。 
 彼女の歌声の強さもあって、それは覚悟や、本当に「守る」という決意も伝わってきたように思った。その歌詞は、自分が辛い時に助けてくれたのだから、キミがつらいときは、今度はわたしが守る、というような意味合いに思えた。

 私の理解の範囲に過ぎないけれど、女性シンガーが歌っているといっても、そのキミが異性か同性かも分からず、大事なことは、その二人の信頼関係なのだろうと思えた。そして、その関係性は、かなり対等で、その時々で、守ったり、守られたり、といったようなニュアンスに感じられた。


 冒頭の女性ミュージシャンが結婚したのは、松任谷由美の「守ってあげたい」からは、かなり年数がたっていたが、AIの「守るから」の前だった。


「守ってあげたい」の危険性

 21世紀になっても、というよりは時代が変わっても、人の価値観は生きている限り、なかなか変わらないから、世代が交代しないと変化しないということかもしれない。だから、人によっては、男性が女性を「守る」という常識は、今も生きているように思う。

 若い時に、そういう「きみを守る」という言葉に、言う方も言われる方も、陶酔するのは仕方がないのかもしれないし、もしかしたら、人によって必要なことだろうけど、だけど、結婚したりして、一緒に生活をするようになったら、当然だけど、いろいろな出来事が、誰にでもあるはずだ。

 そんな変化とともにある時間の中で、守ったり、守られたり、頼ったり、頼られたりと、関係性は、日々変わっていくから、毎日、調整も必要なはずだし、しかも、人は成長していく。

 特に、若い時ほど、成長の速度は速いのだから、「守ってあげたい」と思っていた相手が、どんどん大人になっていくのも自然なことで、それなのに、いつも「守ってあげたい」になってしまったら、変な支配につながるかもしれず、そうなったら、その関係が壊れてもおかしくない。

 こうしたことは、外から見ていると、比較的分かりやすいことなので、偉そうにいうのも申し訳ないのだけど、だから、「守ってあげたい」の姿勢が、変わらない場合は、やっぱり危険だと思う。


 今でも、大きなお世話だと感じながら、特に結婚の時に「守ってあげたい」といった言葉が出ていると、それがそのまま変わらない場合は、関係性が壊れやすいかもしれない、と秘かに思っている。


「逆ナン」や「逆プロポーズ」という言葉への違和感

 言葉がすべてを決めるわけではないけれど、使う言葉に、おそらく人は思った以上に影響されると思う。だから、「守ってあげたい」にこだわると、相手を心理的に拘束していることに気が付きにくくなるので、「守ったり、守られたり」という言葉を使ったほうが、対等な関係になりやすくなるかもしれない。

 そのことと、直接関係ないのだけど、「逆ナン」とか「逆プロポーズ」という言葉にも、昔はそうでもなかったとしても、時代がたってくると、だんだん違和感を憶えるようになってきた。

「逆」ということは、「正」があるはずで、「ナンパ」の「正」は、使われ方からみると、男性から女性を「ナンパ」するのが正しくて、女性から男性への「ナンパ」は「逆」ということのようだし、「プロポーズ」も同様のようだ。

 だけど、どちらからでも、したいほうが「ナンパ」すればいいし、「プロポーズ」(考えたら、特殊な言葉ですが)も、女性からでも、男性からでも、どんなカップルでも、結婚したいと言えばいいのだから、正も逆もなくなるのではないか、と20世紀の終わる頃には、うっすらと思っていた。

 だけど、今も「逆ナン」や「逆プロポーズ」という言葉が使われていたり、男性から女性への「守ってあげたい」が健在なのは、そうした言葉を支える思考を、支持する人たちが、現在も、一定数以上いるということかもしれない。



(他にも、いろいろと書いています↓。クリックして読んでもらえると、うれしいです)。

言葉を考える ⑤ 「ヤバい」の万能性

読書感想 『どうして就職活動はつらいのか』 双木あかり 「切実で貴重な21世紀日本の記録」。

とても個人的な平成史⑧「進まなかった男女平等」

暮らしまわりのこと。

いろいろなことを、考えてみました。

「コロナ禍日記 ー 身のまわりの気持ち」① 2020年3月



#言葉 #言葉を考える #哲学   #心理学

  #言葉の意味    #言葉の意味の変遷    

#言語学   #日常語   #守ってあげたい   #守る

#支配欲   #松任谷由美   #ねらわれた学園

#薬師丸ひろ子    #AI     #Story

#逆ナン   #逆プロポーズ   #結婚    #夫婦

#離婚   #男女平等



記事を読んでいただき、ありがとうございました。もし、面白かったり、役に立ったのであれば、サポートをお願いできたら、有り難く思います。より良い文章を書こうとする試みを、続けるための力になります。