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蒔倉のショートショート

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私が書いたショートショートや掌編小説をまとめたマガジンです。毎週ショートショートnoteやその他お題で書いた作品も含まれます。だいたい410字〜1000字の小説となっております。
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2024年3月の記事一覧

時を超えて。【ショートショート】

時を超えて。【ショートショート】

「其方、いったい何者だ」

私は…。

あれは桜が満開に咲いた頃。
田舎の神社に在る一本の枝垂れ桜。

私は一人、その場所に居た。

なぜだか不意にこの桜を見たくなった。
樹齢何百年ともなるであろう立派な太い幹に美しい桜が豪快に枝垂れる。
私は思わずその幹にそっと触れた。

「きれい…」

トクンと鼓動が鳴り、風が髪をなびかせる。まるで何かと繋がった気がした。私を覆う枝垂れ桜はサラサラと揺れ、花弁

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もう一度。【ショートショート】

もう一度。【ショートショート】

深夜のバス停。満月ガスとバスの往復が一枚綴りになった切符を握りしめる。

「あんたもこのバスに乗んの」
女がぶっきらぼうに話しかける。

「だったら何」
俺はガン飛ばしてそう答えた。

「このバスの行先、分かってんの」
「あぁ」
女はそれ以上何も聞いてはこなかった。

到着したバスへ乗り込む。
前方へ座った女は車窓を物悲しそうに眺めていた。

元よりこのバスの噂は知っていた。
一度だけ望む幻が見れ

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月夜の暗々裏。【ショートショート】

月夜の暗々裏。【ショートショート】

ようやく手に入れた三日月ファストパス。

三日月の夜。重厚な扉の前に立つ。防犯カメラに姿を捉えられ「合言葉は」と、問われた。

「暗々裏」

パスをかざすと、ギギギと音を立て扉が開く。
そこは名のある月の夜にだけ開かれる場所。

丸見えの満月も、暗闇で存在だけ感じる新月も、
裸エプロンや裸ワイシャツのような半分だけ見える上弦や下弦の月も、どれも捨て難い。

だけど俺は三日月が好みだ。
チラッと見え

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おかげさまで猫まみれ。【ショートショート】

おかげさまで猫まみれ。【ショートショート】

毎週ショートショートnoteのお題を確認する。
流行りを知らない私に訪れた『突然の猫ミーム』

猫ミームとは…。

思わず私はGoogle先生を頼る。
分かりやすく言えば、猫を動画に起用してバズる事か。

しかし、それでもやはり、なかなかピンとはこない。

そこで私はYouTube先生を頼る。
そこには、《ハピハピハッピー♪》の歌とともに、必死に上げた手で拍手をするように何かを捕まえようと、ピョン

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猫ミームでバズったのはこのオイラ。【ショートショート】

猫ミームでバズったのはこのオイラ。【ショートショート】

青天の霹靂。オイラは一躍有名になった。

オイラは田舎のその辺に住んでいる冴えないブサイクな陰キャだ。

帰り道の休憩所、振り返る姿をパシャリ。
それは一瞬の事だった。
気の抜けた変な顔とポーズ。

あの野郎、オイラの事を盗撮しやがって…!

「晒すなんてやめろ!デジタルタトゥーは御免にゃ!」あぁ、オイラの猫生が終わった…。

そう思ったが、それは逆だった。
“突然の猫ミーム”ブーム。

オイラの

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