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#眠れない夜に

きみの季節、蠢く先で死滅

冬と春の混ざった匂いがする。ああ今年もこうして死んでいくんだなとぼんやり思った。春に虫と書いて蠢くと歌われるような、春はそんな生命の季節のはずなのに、その割には春って全然生きた心地がしない、春だけはいつも私の中に残らない。残ってくれない。掴めないからずっと不穏で、でも掴めないから心地いい。だから気付かないうちに死んじゃいそうになる。春は生命の季節じゃなくて死の季節だろ。蠢く先で死滅。いつも降りずに

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ひかりの淀

ひかりの淀

次の季節がわたしを呼ぶから生きてしまう。終電に向かって駆け抜けた街のひかりの残像がやけに綺麗で泣きたくなった。汚い街ほどひかりは鋭くかがやかしくて死にたくなった。だけど雨が、月が、私を生かす、この月は、この空は、どこまでも、あなたの街へも、きみの街へも繋がっている、その事実が、その縁が、わたしを生かす。もう会えぬひと。この星のどこかで、同じ空の下で、同じ月を見上げている時が1秒でもありますように。

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カウントダウン

カウントダウン

きみに触れたのはきみとの破滅を望んだから。恋をすることは失敗することの決意でした。互いを呪い合う覚悟でした。あの光。深夜のブルーライト、きみからのメッセージ、「好きだよ」、6:32:14とだけ表示された無機質な最後の通話履歴。きっと霞んでも光はいつまでも光のままで、今もその先が心臓を突き抜けて痛い。過去を抉る気持ち良さは瘡蓋を剥がす気持ち良さに似ている。膿んだ傷口から溢れ出す体温。その痛みこそが今

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夜に溶けるわたしの身体、きみの欠片

夜に溶けるわたしの身体、きみの欠片

眠りにつく前の朦朧とした意識の中で思考がぼやけて浮遊してゆく感じがすき、わたしときみの言葉がだんだん絡まり合って溶け合って、最後にはnの音しか出せなくなっちゃうくらいにまで知能が低下してゆく感じがすき。夜だけは、融解と昇華が許される気がする。わたしがこの星に固体として存在していなくても誰にも責められない気がする。
AM2:00、街は海に沈む。わたしをまるごと飲み込む水が、わたしの耳を塞いで、わたし

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id1

id1

わたしたちはそれが何百年前の光なのかも知らずに、今はもう消滅しているかもしれない星々を見上げては綺麗だと呟く。今かがやいている星の光を、果たしてわたしたちが死んだ何百年後かに生きるひとびともわたしたちと同じようにこの地球から眺めているのだろうか。
今この瞬間をまっとうに生きている人は一体どれくらいいるのだろう。わたしたちは少しだけ明日を待ちすぎている気がするし、過去や未来に縋りすぎている。ひとは脆

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⚖️

⚖️

わたしたち、同じものを見てきれいな色だねと言うのに、あなたとわたしで全く同じ色を見ることは永遠に不可能だなんて皮肉な話だと思わない?わたしたちは同じものをそれぞれの違う思考回路を通して「きれいだ」という共通解に至る。なんだかそれっておもしろいけどすこしかなしい。だけどそれは多分、相手の眼球だけを移植したところで同じものが見えようになるというわけでもなくて、きっと根本的に脳味噌を入れ替えないとあなた

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