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駅に着いた。予定時間よりもずっと早かった。目の前には、高層マンションがぽつりと、どんよりした曇空にそびえ立っていた。ここで暮らす人々は、一体どんな生活を営んでいるのだろう。ごく最近まで、自分もこの場所で寝食ができると自信があった。だのに、今ではその想像すらできない。
ある女性が私のもとにやって来た。「誰も私の相談を聞いてくれない。もらった解決策がどれも腑に落ちない。」と言った。詳細を伺うために、私は女性の話の傾聴と肯定に専念した。すると女性はみるみると饒舌になり、表情も明るくなっていった。気づかぬうちに悩みは解消していたのである。
カフェでコーヒーが出来るまでのわずかな時間、何の気もなく流行り歌を口ずさんでいた。「何て曲ですか?」背後から、見覚えのない女性が話しかけてきた。歌手と曲名を答えると、女性は変に満足気な表情で去っていった。ふとその曲を検索すると、ジャケットには見覚えのある女性が映っていた。
ある公衆トイレに希少な生物がいたと、SNSで話題に上がった。物好きのAは、直ぐに場所を特定して向かうも、既に多くの同志がいた。断念したAは帰ろうとしたが、見知らぬ誰かが肩を叩いた。「どんな動物よりも珍奇な写真が撮れたんだ。」そこには個室便所を撮影する大勢の人が写っていた。
深夜に携帯の電話が鳴った。最近関係の冷めていた恋人からだった。「怖い夢を見たから、声が聞きたくなって…」僕は相槌をしながら、じっと彼女の話を聞いた。頼りにされたことで、未来に安心したのだ。彼女の震えた声が寝息が変わるを耳にし、僕はゆっくりと電話を切ると、快活な夢から目が覚めた。
有名な日本人美食家がいた。あらゆる高級料理を食べ尽くした彼は、キャビア・フォアグラ・トリュフに並ぶ珍味を求め始めるようになった。世界中を回っては食を巡り、やがて彼の辿り着いたのは、自宅の近くのスーパーで具材と調味料を揃えた、愛妻の作る肉じゃがであった。
仕事を終えると、徐に煙草を喫んだ。煙は忽ち夜空に向かい、冬の星々に包まれた。この光景を眺めると、不思議と生命の活気を取り戻した感覚になる。死が隣にあるのに、火の扱いを用心している。そんな自分をふと愉快に思うと、吸殻と共に片手に持つ拳銃を放り投げた。
嘘つきの少年がいた。少年のあまりの嘘の多さに、町の人はついに無視し始めた。ある日、少年は火事が起きたと叫んだ。当然嘘であった。すると一人の少女が何処からか現れ、少年の傍の家に火をつけた。火を見るや少年はどこかへ駆け去った。以来、この町に嘘をつく者はいなくなったという。
突然友人が、ウルトラマンになりたいと豪語した。強くなりたいというのが動機だった。ある昼休み、廊下にて喧嘩が起こると、早速彼は仲裁に向かった。喧騒の残る中で、彼は戻って来ると、昼食のカップラーメンを啜った。「まずいな」そう言って満足そうな顔をしていた。
クラスで一番人気の女子に恋人が出来たという噂がうまれた。髪の短くなっている姿を、誰かが目撃したのである。落胆する友人の前に、更なる証人が現れた。「昨日、君の好きな髪の長い子が、化粧して、駅で待ち合わせしているのを見たんだ。」
彼は安堵した表情を見せた。
友人が死んだ。清々しい春空の中、彼はビルから飛び降りた。先日、大きな失恋をして、精神がひどく弱っているという話を聞いたばかりだった。悲劇の目撃者によれば、友人は、地面に打ち付けられる直前、悲痛な遺言を叫んでいた。「いきたい」