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#詩

スコラ沸石学教授による形而上的イデア鋳型の存在証明のレポートまたは、嗜眠症者の為の甘美な夢見のエスキィス

スコラ沸石学教授による形而上的イデア鋳型の存在証明のレポートまたは、嗜眠症者の為の甘美な夢見のエスキィス

「鳥(からす)は鳥(からす)に、
薔薇は薔薇にかえれ
運命の女神の欠けた薬指から、
黄昏色の宝玉を留めた指環が、
水平線に堕ちるまで
鉛漬けの小禽(ことり)の嚥下と
水銀嬰児(あかご)の瞬きが済む時間、
​黄金比宮の糖蜜を飲み込む猫が
月の眉間に居座る瞬間(とき)、
線上二面性キューブ界において、
ショウウィンドウに飾られた霜製の蕾は
剃刀の刃により割礼される​───────
あくまで内圧は高く、

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銀の砂時計

銀の砂時計

私の骨髄には、銀の砂時計が埋まっている。
寝転がりながら、自分の肉体〈カラダ 〉が出す音だけを聞いていると、よく分かる。
死んだ星を細〈ほそ〉く砕き、その白粉〈しらごな〉を硝子の背骨の管に通したもの、それが私。
星の瞬きや、妖精が囁く音よりも、絹の糸に茜珊瑚や金の粒を通すよりも、輝かしい、ささめきながら降り積もる、溶けない雪のような、その音。
全ての砂が脳の頂点まで達すれば、その時が私の寿命、今際

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心象風景

心象風景

「感情敷箱庭」

この庭は、喜びの色鮮やかな鳥が飛び交う密林、
煮えたぎるような、真っ赤な怒りが吹き出す火山、
さめざめと、土砂降りの青黒い嘆きが降る泉、
そしてその水の中の、穏やかな色の蓮華の葉に、透明玉髄のような雫一つ。
今日もどこかで、独り寂しく、泣く子がいる、その涙は泉に落ちさえすれば、ほかに嘆く皆もいると泣く子が安心する。
一番良いのは優しく包み込む陽の光で、すべての雫が満足したように、

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絢爛たる華々

絢爛たる華々

「花遊虫舞」

揺籃花(ようらんか)の少し開いた蕾に、いそいそと蜜蜂が花粉を集めにやってきました。
ぶんぶん、大きいお尻を振りながら、女王様とまだ小さく白いおくるみに包まれた兄弟たちのために急いで、蜜も頂戴していきます。
とても甘い蜜が、ゆっくりゆっくり自分の口の管を伝っていくのを味わっていると、少しばかり失敬する気持ちを起こしても、仕方がないように思われました。
だって、もうここのところずっと休

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竜の歌

竜の歌

竜はどこまでも孤独な生き物です。
卵から孵ると一目散に己の住処を見つけます。
火山に住む者は、火の石を食べて焔を吐き、
水の神殿に住む者は、治水の長として働き、
地の洞窟に住む者は、番人として宝を貯めこみ、
住処を必要としない者は、大空を羽ばたいて、人々に語り継がれて、伝説の中で生きていきます。
好き好んで人を喰らうものは、竜としての誇りを失い、
ただの獣に成り下がったものです。
竜が死んだとして

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