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それが「破滅への第一歩」だということに、きみは気づいているのかな?|『ファーゴ』(3)

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テーマ発表!!


 第1回第2回に引き続き、映画「ファーゴ」をベースに新しい物語を妄想します。

※「ファーゴ」のストーリーなどについては、第1回の記事をご参照ください。


妄想開始!


嘉村 「ファーゴ」は、生活感漂う妊娠中の女性警官が、血生臭い殺人事件に挑む物語ですが、「設定を思いっきり変えても面白くなるのでは?」ということで……前回に引き続き、一体どんな物語にするといいかディスカッションしてまいりましょう!

三葉 承知しました。

嘉村 前回ご紹介したのは、「『ファーゴ』 ~『百合JKの浮気』編」、「『ファーゴ』 ~『陸上部員のドーピング』編」の2案でした。


案③


嘉村 それでは「案③」にまいりましょう!

三葉 はい。「案③」は、「『ファーゴ』 ~『会社員の賄賂』編」です。


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嘉村 賄賂!

三葉 詳細をご説明する前に、「ファーゴ」風の物語を作る時に注意すべきポイントを振り返っておきましょう。


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三葉 ……ですね(より詳しくは第1回の記事で)。

嘉村 ふむふむ。

三葉 以上を踏まえて……「案③」!「ファーゴ」と比較すると以下のようになります。


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三葉 ストーリーをご紹介しましょう。……物語は「ごく普通の会社員(以下、A氏)が、取引先(以下、B氏)から賄賂を受け取ってしまう」ところから始まります。

嘉村 ふむ。

三葉 「賄賂」と言えば、無論悪。それは許されざることです。……しかし、A氏が受け取ったのは大金ではない。ほんの5万円程度です。そしてA氏は、不仲の妻に財布を握られており、毎月乏しい小遣いでやりくりしていた。

嘉村 ほぉ……。

三葉 本来であれば、後輩や部下におごってやるべき立場です。また、たまには豪華な昼食を食べたいことだってある。……が、彼にはそんな余裕はなかった!

嘉村 何だかかわいそうですね……。

三葉 そんなA氏に訪れた臨時収入のチャンス!……彼は至って真面目な男です。しかし今回に限っては、己の欲望に逆らえなかった。かくして、A氏は賄賂を受け取った。

嘉村 なるほど。

三葉 ところが、それは破滅への第一歩でした。すなわち……間もなく、B氏がムチャな要求をするようになる。「前回と比べて3割ほど高いんですがね、この値段で買っていただけませんか?」。A氏は驚く「理由もなく3割も値上げだなんて……そんな話がありますか!」。しかし、B氏は笑う「ほぉ。あなたと私とは一蓮托生だと思っていましたがねぇ」。A氏は絶句する。これは脅しだ!……しかし、彼は逆らえぬ。賄賂を受け取っただなんて公にされたら、一体どうなることか。想像するのも恐ろしい。彼は渋々指示に従う。だが、上司に何と説明すればいいのか!……背に腹は変えられぬ。A氏は帳簿をいじって誤魔化すことにする。

嘉村 うーむ……。

三葉 その後も、B氏からのムチャな要求は続きました。A氏は頭を抱える。いつまでこんな目に遭うんだ!まさか一生!?オレはたかだか5万円のために、一生ヤツに首根っこを掴まれたままなのか!?

嘉村 哀れだ……。

三葉 そんな時、A氏は同級生(以下、C氏)とばったり遭遇します。学生時代、2人は大して親しい間柄ではありませんでした。ただC氏は、A氏の顔を見て何かを察したのでしょう。「たまには飲みに行こうぜ」と誘ってくれる。A氏は躊躇する。今日も今日とて懐が寂しいのです。しかし「オレのおごりだ」と言うC氏の言葉に押され、2人は居酒屋に入る。A氏は、すぐに酔っ払う。そして賄賂を受けとったことも含めて、すべてをぶちまける。……彼は、誰かに愚痴を聞いてほしくて仕方がなかったのです。とは言え、家族や同僚に話すことはできぬ。すべてを胸の内にしまい込み、苦しんでいた。それがいま爆発したのです。泥酔していたA氏は断片的にしか覚えていませんが……「あの野郎、よくも騙しやがって!」「ぶっ殺してやりたい!」なんて叫んだ記憶がある。

嘉村 ふむ。

三葉 さてそれから数日後、例の取引先から電話がかかってきた。A氏の目の前が暗くなる。またか……。しかし、相手はB氏ではない。B氏の同僚だと言う。そして、「弊社都合で恐縮ですが、このたび御社の担当が変更になりました。つきましては、近々ご挨拶に伺いたいのですが」。

嘉村 ほぉ……。

三葉 担当の変更?つまり……あのクソ野郎に脅されることはもうないということだろうか?もしそうなら最高にハッピーなことだが……随分と急な話である。何だか胸騒ぎがする。

嘉村 ふむふむ。

三葉 そして後日、新担当が挨拶にやってきた。明るく爽やかな好青年です。「B氏とは大違いだ」とA氏は思う。名刺交換などを済ませると、青年は早速新商品の紹介を始めた。仕事熱心な男だ。しばらく話に耳を傾けてみるが、青年の口からは賄賂のわの字も飛び出さない。A氏は恐る恐る口を開く「これ……ちょっと高いですね……」。青年は腕を組み、しばらくうなると「上司にかけ合ってみます!」。誠実な対応である。どうも賄賂のことは知らぬらしい。A氏はさりげなく問う「えっと、前の担当の方……B氏でしたっけ?あの方は?」。青年は困惑顔になる。そして視線を宙にさまよわせると、声のトーンを落として「ここだけの話ですが……失踪しちゃったんですよ」。「失踪!?」「ええ。突然出社しなくなって……」。青年は言葉を濁しつつも、「元々評判の悪い人だったんです。弊社でも、厄介払いできて助かったと考える人も少なくないんですよ」と打ち明けた。

嘉村 失踪ですか……。

三葉 A氏は歓喜する。もうクソ野郎に悩まされることはなくなったのだ!神様、ありがとう!……しかしその直後、1本の電話がかかってくる。相手はC氏だ。「よぉ。その後、調子はどうだ?」。A氏はうきうき声で、「最高だよ!」と応える。C氏は乾いた声で笑う「そりゃあ何よりだ。オレもやった甲斐があるよ」。

嘉村 ……。

三葉 「……」「どうした、急に黙り込んで?」「えっ……『やった甲斐』って言うと……」「ああ、お前のために一肌脱いだ甲斐があったってことだよ。……わかってんだろ?」。A氏の口の中がカラカラに乾く。言葉が出ない。C氏が続ける「ってことでよ、またこの前の店で会おうぜ。あのオッサンの最期がどんな具合だったか聞かせてやるよ。きっと胸のすく思いだぜ」。

嘉村 あー。これ、B氏は殺されてますよね……?

三葉 ええ。

嘉村 ……もしかして、このC氏というのは普通の人ではないとか?

三葉 はい。C氏と再会したA氏は愕然とします。C氏は、どう見てもただの勤め人とは思えぬ格好をしていた。派手なネクタイ、折り目の付いたスーツ、磨き込まれた革靴、そしてサングラス。ヤクザである。A氏は怯える。

嘉村 やっぱり……。

三葉 かくしてA氏はC氏の言いなりになり、会社の商品の横流しなど犯罪行為に手を染めることになったのでした……。

嘉村 じつに哀れ……。

三葉 さて……ここでいよいよ主人公の登場です!「案③」の主人公は警官。彼は、ひょんなことからB氏の失踪に違和感を覚えます。これはただの蒸発ではない。拉致されどこかに監禁されているのか、あるいは既に殺されているのか……。

嘉村 ほぉ。

三葉 途中、同僚警官から「お前も一緒にどうだ?警察の安月給にはうんざりしてるだろ?」と汚職に誘われ心が揺れるものの、グッと堪え、彼は捜査を継続する。そしてやがて真相に至り……独身の彼は、スーパーで半額シールの付いた惣菜を買い、1人それを食べながら呟きます「上手い話には裏がある、か。それにしても旨いな、このエビフライ。半額とはラッキーだった」……で、おしまいです。

嘉村 なるほど。「誘惑に耐えた主人公」と「おいしい話に手を出し、ひどい目に遭ったA氏」の対比……つまり、「ファーゴ」にも見られた「日常の小さな幸せ」と「非日常」の対比ですね。

三葉 ええ、その通りです。


案④


嘉村 続いて、「案④」にまいりましょう。

三葉 はい。「案④」は、「『ファーゴ』 ~『江戸時代の賄賂』編」です。


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嘉村 また賄賂!

三葉 はい。「案③」は「現代日本の会社」を舞台にした物語でしたが……。

嘉村 ええ。

三葉 「江戸時代」に移植しても面白くなりそうだなと思いまして。

嘉村 ほぉ。

三葉 まずは、「ファーゴ」との比較表をご覧ください。


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三葉 ストーリーをご紹介しましょう。……舞台は、江戸時代です。そして物語は、「とある代官(以下、D氏)が賄賂を受け取る」ところから始まります。

嘉村 賄賂というと……「越前屋、お主も悪よのぉ」「いえいえ、お代官様ほどでは」というアレですか?

三葉 そうですね。ただ、「案④」の代官はいわゆる悪代官ではありません。むしろ善良な人間です。

嘉村 ほぉ……と言うと?

三葉 彼が治めるのは、痩せこけた土地でした。領民は総じて貧しい。不作の年には餓死する者も出る。領民を救うべく、D氏はあらゆる手を打ちました。すなわち……ぎりぎりまで年貢を引き下げる。さらに、身銭を切って貧者に施しをする。

嘉村 まさに名代官だ!

三葉 とは言え、故郷の家族への仕送りを止めるわけにはいきません。また、部下の給金を滞らせることもできない。かくして……彼は困窮した!代官でありながら、いつもピーピーしていた。

嘉村 あー……。

三葉 そんな時、土地一番の豪商がやってきた。彼は菓子箱を差し出す。中身は饅頭だろうか。D氏の口の中にじわっと唾が湧く。豪商はニヤッと笑って箱を開ける。饅頭ではなかった。黄金に輝く小判だった。

嘉村 お約束のシーンですね。

三葉 D氏は仰天する「なっ、何のつもりだ!」。彼は清廉潔白な代官です「こんなものは受け取れぬ!」。しかし豪商は、「領民一同、お代官様には感謝しております。多くの者が、お代官様に助けられました。ところが!お代官様ご自身は困窮していらっしゃる!嗚呼、頬がこけていらっしゃる!見ていられない……。私たち領民を想ってくださるのなら、ぜひこの小判を受け取ってください。そして栄養をつけてください。お代官様が健康を害したら、それこそ領民の不利益だ。お代官様には健康でいてもらいたいのです!」。

嘉村 ふむふむ。

三葉 さすがは商人である。弁が立つ。話を聞いている内に、D氏は「受け取ってもいいのではないか」という気になってくる。「いや、むしろ受け取るべきだ。受け取らねばならぬ。この男の言う通りだ。本当に領民を想うなら、栄養をつけ、健康を維持しなければならぬ」。かくして、彼は小判を受け取りました。

嘉村 なるほど。

三葉 ところが……その後、豪商の態度が一変する!「あれは賄賂であり、賄賂を受け取った以上は優遇してもらうのが当然」といった態度で接するようになったのです。D氏は泡を食う。しかし、彼は真面目な男です。「お代官様ともあろう方が、まさか恩を仇で返すのですか!?」と詰め寄られると、何も言えなくなってしまう。

嘉村 ふーむ……。

三葉 致し方がありません。D氏は、豪商に便宜を図ってやる。豪商はどんどん増長していく。D氏は困り果てる。しかし要求を呑まねば、「賄賂を受け取ったくせに」と騒ぎ立てるに違いない。それはまずい。とはいえ、このままヤツの言うがままというわけにもいかぬ。……苦渋の決断です。D氏は、「ヤツに『警告』してほしい」と土地のヤクザにこっそり依頼します。……部下にこんなことは命じられませんからね。

嘉村 あー……。

三葉 そして……自体はますます悪化する!

嘉村 そうなると思いましたよ……。

三葉 すなわち……ヤクザは、豪商とその家族を皆殺しにして、さらに家に火を放ったのです。D氏はぶっ魂消る「とっ、とんでもないことをしてくれた!」。しかし、ヤクザはニヤニヤ笑っている「『警告』ってのをしようと思ったんですがね。どうにも強情な野郎だったんで、つい」。D氏はその場に崩れ落ちる。しかしヤクザは悪びれることなく、「あの野郎は強欲者で、みんなから嫌われていた。悪を斬るのもお代官様の仕事でしょ?これも領民のためってやつですよ。ハハハ!」。

嘉村 これほど哀れな代官も珍しい……。

三葉 さて……ここで主人公が登場します!主人公は、江戸幕府から派遣された使者。「D氏の治める土地で、大規模な火事があったという。放火なら重罪だ。状況を確認せよ」と命じられた彼は、旅商人に変装し、はるばるやってきました。

嘉村 ふむふむ。

三葉 主人公は、すぐに調査に取りかかります。途中、宿屋の娘といい雰囲気になり、「江戸に残してきた妻子を捨てて、この土地に永住しようか」なんて真剣に悩むものの、「いやいや!そんな訳にはいかん!」と思い直したりしつつ……やがて彼は真相にたどり着く。そして呟く「嗚呼、早く家族に会いたい」。………で、物語は幕を閉じます。

嘉村 なるほど。

三葉 以上、「『ファーゴ』をリスペクトした物語」のアイデアをご紹介しました!


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 「ファーゴ」の研究はこれで終了です。ありがとうございました。

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 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

(担当:三葉)

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