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ミソジニーは止せ!お前はただ自分の人生に満足していないだけだ!!|『クラッシュ』(6)

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テーマ発表!!


 前回に引き続き、映画「クラッシュ」に登場する「ジーンの物語」をベースに新しい物語を妄想します。


※【参考】「クラッシュ」の作品概要などはこちら


妄想開始!


嘉村 それではまいりましょう!

三葉 はい。「クラッシュ」は、人種差別をテーマにした群像劇です。

嘉村 ええ。

三葉 そして、「群像劇」というからには作中に複数の物語が登場するのですが……その内の1つが「ジーンというキャラにまつわる物語」。今回は、この「ジーンの物語」のストーリー構造を利用して、新しい物語をアレコレ考えてみましょう!

嘉村 承知しました。

三葉 まずは、「ジーンの物語」の概要を振り返ります。


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三葉 ……ですね(より詳しくは前回の記事で)。

嘉村 ふむふむ。


案①


三葉 さて、以上を踏まえて「『ジ-ンの物語』をリスペクトした物語案①」ですが……。

嘉村 はい。

三葉 ズバリ!「『痴漢冤罪でひどい目にあったので、それ以来女性を敵視してしまうのも止む無しと思いきや、じつは単なる八つ当たりだったのかよ!』という男性の物語」です。


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嘉村 ほぉ!

三葉 まずは、「ジーンの物語」と比較してみましょう。


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三葉 ストーリーをご紹介しましょう。……主人公は男性会社員です。30代前半で、真面目な男。仕事は忙しい。最近昇進したことで、部下の面倒を見るなど負担も増えた。やりがいはあるが、楽ではない。

嘉村 ふむ。

三葉 また、現在1人暮らしをしているが、電車で1時間ほどのところに老いた父が住んでいる。父はあまり体調がよくない。だから毎週顔を出し、様子を見るようにしている。「近い内に施設に入ることを検討しなければ」と思っているが……まだ手は回っていない。

嘉村 なるほど。「心身ともに余裕のない毎日を送っている」という感じですね。

三葉 ええ、その通りです。彼は疲れ切っていた。恋人を作って温泉旅行にでも出かけたいところだが……はて。いつになったらそんな余裕ができるものか。

嘉村 ふむふむ。

三葉 そして、世の中とは残酷はものです。ただでさえ疲弊している主人公に、さらにトラブルが降りかかる。すなわち……ある日の通勤電車の中で、痴漢と勘違いされてしまうのです。彼は、「自分はやっていない!」とアピールする。ウソではありません。本当にやっていないのです。しかし、相手の女性は聞く耳を持たない。致し方がない。彼は、女性と共に次の駅で降車する。駅乗務員がやってくる。彼は、改めて潔白を主張する。だが、乗務員は彼の話をまともに聞いてくれない。女性はキーキー騒ぎ続ける。始業時間が迫る。さらに連日の疲労もあって……彼はイライラする。猛烈にイライラする。そして言ってしまう「だから、やってないと言っているだろ!こんなブス、こっちから願い下げだ!」。

嘉村 あー……。

三葉 言ってすぐ、「しまった」と後悔する。口は禍の元と言うが本当だ。しかし、後悔先に立たず。女性は烈火のごとく怒り、大粒の涙をこぼし始めた。そして警官が駆けつけてくる。……どう見ても、彼の分が悪い。女性を泣かせた悪人だ。彼は警察署へ連行される。

嘉村 なるほど。

三葉 結局、その日1日取り調べを受け、「女性が被害届を出さなかった」ということで主人公は解放されました。およそ半日の拘束で済んだ。不幸中の幸いと言えるかもしれない。しかし……当事者にとっては半日だろうと1年だろうと不幸は不幸!

嘉村 まぁ……確かに。

三葉 翌日出社すると、妙な噂が立っていた。目撃者がいたのだ。彼は上司や部下、取引先に事情を説明し、仕事が遅れたことを詫びて回る。昨日は一切仕事ができず、今日もまた説明と謝罪で1日が終わる。クソ……今日から徹夜かよ!

嘉村 ふむ。

三葉 彼は、夜を徹して仕事をしながら考える……被害届を出さなかったということは、結局のところ、あの女性は「彼が犯人だ」と明言できなかったのだろう。あの場では怒りや恐怖から喚き散らし、一度騒いだ以上は引っ込みがつかなくなり、そして騒ぎ続けた。しかし数時間、あるいは10時間ほど経って冷静さを取り戻し、怖くなったに違いない。痴漢冤罪かもしれぬ。「自分はやっていない!」と主張し続ける男を見るに、冤罪の可能性が高い気がしてくる。かくして、彼女は被害届を出すことなく、事件は幕を閉じたのだ。……幕を閉じた?クソが!こっちは閉じてねぇんだよ!時計を見ると、もうすぐ夜明けだ。しかし、またまだ仕事は終わる気配がない。

嘉村 ふむふむ。

三葉 それ以来、彼は露骨に女性を嫌悪するようになりました。女性が性犯罪や性差別に遭ったなんてニュースを見ると、反射的に「ウソつけ!女は総じてクソだ!!」と考え、Twitterなどで暴言をまき散らす。

嘉村 ははぁ……。

三葉 あるいは職場では、女性社員に対して、男性社員とは比べものにならぬほど厳しく叱責してしまう。さらに、酒の席で女性を侮蔑するようなジョークを飛ばす。見かねた者が注意すると、「ジョークだよ、ジョーク!無粋なことを言うなよ」と言って逃げる。

嘉村 ふーむ……まぁ、痴漢冤罪でひどい目に遭ったばかりですからね。女性を嫌悪してしまうのもわからなくはありませんが……。

三葉 ええ。ところがある日、彼はふいに自分が間違っていたと気がつきます。つまり、こういうことです。……彼は、仕事や父の介護などで疲れきっていた。思い通りにならぬ自分の人生に苛立ち、常にイライラしていた。そしてそのイライラが原因で、事件のずっと前から、Twitterに罵詈雑言を書き込んだり、部下に怒鳴り散らしたりしていたのです。

嘉村 ほぉ。

三葉 事件後、彼は女性にきつく当たるようになりますが……それは単にイライラの矛先が女性に向いたに過ぎません。要するに、八つ当たり。相手は誰でもよかったのです。

嘉村 なるほど。

三葉 こうして、彼は自分の身勝手さを理解しました。そして、「このままではいけない。変わろう。変わりたい」と考える。「他人に優しくしたい!」……この先、彼が本当に変われるかどうかはわかりませんが、きっと大丈夫。彼ならやれるだろうという希望を漂わせつつ……閉幕です。


案②


嘉村 続いて、「案②」にまいりましょう。

三葉 はい。「案②」は、「『外国人による犯罪を間近で目撃してしまったのだから、それ以来外国人に恐怖し、差別してしまうのも止む無しと思いきや、じつは単なる八つ当たりだったのかよ!』という女性の物語」です。


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嘉村 ほぉ。

三葉 まずは、「ジーンの物語」との比較表をご覧ください。


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嘉村 「ジーンの物語」同様、「主人公」は女性で「テーマ」は人種差別なんですね。

三葉 ええ。しかし、ストーリーはだいぶ異なります。ご説明しましょう。……「案②」の主人公は女性で、職業は会社員でも専業主婦でも、あるいは学生でもいいのですが……ある日彼女は道を歩いていて、傷害事件を目撃してしまいます。

嘉村 傷害事件!

三葉 すなわち、外国人男性が包丁を持ち、呆然と立ち尽くしていた。彼の足元には人が倒れている。そして、辺りは血の海。……主人公は、最初何が起きているのかわからなかった。現実味がなかった。しかし、それは現実だった。間もなく、外国人男性が主人公に気づき、振り返ります。返り血を浴びたのでしょう。頭から足元まで赤い点々……主人公は腰を抜かす。外国人男性はふいに駆け出し、主人公の脇を通ってそのまま走り去っていった。

嘉村 ほぉ。

三葉 やがて警察がやってきて、彼女は保護されます。そして警察で事情聴取を受けている最中、犯人が捕まったと知らされる。犯人は自宅で1人震えており、捜査員の問いかけには素直に応じているという。怖くなって現場から離れただけで、逃亡の意思はなかったようだ。

嘉村 なるほど。

三葉 その後のニュース報道によると、被害者は日本人女性。病院に搬送され、一命をとりとめたとのこと。犯人の外国人男性とは恋愛関係にあり、痴情のもつれによる事件ではないかと警察は捜査を進めているそうです。

嘉村 ふむ。

三葉 何か大きな陰謀が絡んでいるわけではないし、犯人が杳として知れないこともない。世間の人びとは「あら、怖いわね」なんて思いながらも、次の瞬間には別の話題について考えていた。ニュースバリューという点では、面白味のない事件ですからね。

嘉村 ええ。

三葉 かくして、事件は幕を閉じました。……が、しかし!主人公の中では終わっていない!その日から、彼女は外国人に対して強い恐怖を抱くようになったのです。街中で外国人を見かけるたびに、あの時の恐ろしい映像が脳内にフラッシュバックする。そして、恐怖は容易く怒りに変化します。「外国人は恐ろしい!」→「ここは日本で、私は日本人。それなのに……私は怯えて暮らしている。なぜ外国人のせいで、私が怯えなければならないの?理不尽だわ!」→「外国人は出ていけ!」というわけです。

嘉村 ふーむ……なるほど。

三葉 とまぁ、こうして彼女は外国人を嫌悪するようになりました。そして、極右の政治団体にシンパシーを感じたり、あるいは外国人の人権擁護を主張する人びとに強い憤りを感じたりする。さらに、Twitterなどで人種差別的な投稿を繰り返す。「外国人の恐ろしさも知らないくせに無責任なことを言って!この人たちにも、あの恐ろしい現場を見せてやりたい!あの血まみれの男!あの血!」。

嘉村 ふむふむ。

三葉 しかし……ある日、彼女はふいに気づく。彼女はそれまで、「事件を目撃し、外国人の恐ろしさに気づいた。だから自分は攻撃的な発言をしているのだ」と考えていた。しかし、そうではなかった「私……事件の前から周囲の人に攻撃的だった」。

嘉村 ほぉ……。

三葉 種明かしをすると……つまり、彼女は自分の人生に不満を抱いていたのです。仕事が上手くいっていないとか、婚期を逃して焦っているとか、そういうものですね。だから、いつも苛立っていた。そして、そのイライラを周囲の人にぶつけていた。

嘉村 ふーむ……。

三葉 事件を目撃して以来、彼女は人種差別的な言動を取るようになりましたが……それは、イライラをぶつける相手が外国人になっただけのことなのです。攻撃対象は誰でもよかった。つまり、八つ当たりです。

嘉村 なるほど。

三葉 そして、成長とは自覚から始まるものです。自分の未熟さや愚かさを自覚して反省するからこそ、人間的な成長があり得るのです。その点、いま彼女は自覚した。成長の第1歩を踏み出したと言っていいでしょう。……というところで、物語は幕を閉じます。

嘉村 ふむ。

三葉 以上、「『ジーンの物語』をリスペクトした物語」のアイデアをご紹介しました!



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(担当:三葉)

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