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  • センネンケージ

    ※センネンケージとは?※ 現在更新中の小説『センネンローグ⇒https://novel.daysneo.com/author/zui_00/』の後日談にあたる連作短編です。 今は更新停止中で、ここでは過去作を読むことができます(一部有料)。

最近の記事

自由の翼

1 【任務内容】 剣闘士の訓練 【終了条件】 闘技会での優勝  石造りの殺風景な部屋にいるのは三人の男。一人はシノで金色の瞳を鋭く細めている。彼の後方には上等な服を着た男が立っており不安げにシノの様子を見守っていた。  二人の視線の先にいるのは大柄な男。彼は正に筋骨隆々といった外見をしており日頃から肉体を鍛え上げているのが分かった。しかし、そんなたくましい姿をしているにも関わらず今の彼はぐったりと床に倒れ伏しており、酷く弱々しい有様になっている。吐き出す息は浅く、目つき

    • 星と獣

      1 「これでよしっと」  お湯をカップラーメンに注いだヒロは独り言を呟いた。あとは三分待てば軽食が出来るのだから便利なものだ。  現在地は館内の食堂。ヒロは小腹を満たすため、本日はカップラーメンに手を付けようとしていた。食堂では謎の便利機能によって様々な料理が簡単に食べられるのだが、その中からあえて彼はカップ麺を選んでいる。理由は単純に、好きだからだ。一仕事終えた後は無性に食べたくなってしまう。  お湯を沸かすのに使った鍋を片付けると、ヒロはワクワクした面持ちでカップラー

      • 集え悪党ども

        寂れた町 【任務内容】 浄水場の調査 【終了条件】 原因の解明 「ワクワクしますね!」  助手席に座っているセリオンがテンション高めな声を上げた。  対して、運転席に座っているヒロはテンション低めに応える。 「俺はそうでもねぇな」  現在、二人は車中にいた。楽し気なセリオンのせいで仲良くドライブでもしているような雰囲気だが、当然そんなことはなく普通に仕事だ。  今回の任務は浄水場の調査。山岳の奥にある浄水場からの給水が一週間ほど前から止まってしまったと連絡があり、

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        • 彼女の歌声

          「こんなに仲良し僕達はー、お日様浴びて笑うのさー」  現在地はシノの部屋の自然区域。畑に実った青いプチトマトへジョウロで水をやりながら、ウナテは小さな声で歌っている。それを聞いていたイサが普段通りの淡々とした口調で問いかけた。 「その歌、覚えたのか」  ウナテは頷く。 「何十回も聞かされたので、耳に染み付きました」 「……ヨモはしつこかったな」  イサは数時間前の奇妙な実験を振り返った。  事の起こりは、どこからともなくヨモが人間の歌を入手してきたことから始まる。

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        • センネンケージ
          70本

        記事

          色あせた誘い

          1 「ホラよ。コレだろ?」  ハヤテに差し出された本をリンは笑顔で受け取った。 「ありがとうございます!」  現在地はアヤの部屋。悪霊を癒す病院、の地下に出来上がった駅だ。  仕事を終え冥界から帰ってきたハヤテから、リンは忘れ物である本を受け取っていた。初めて冥界へ行った日、船に置いたまま忘れられていた本は、後日ミツセが見つけて大切に保管してくれていたようで、傷や汚れもなく少女の元へ帰ってきてくれた。  安堵した様子で本を確認しているリンへハヤテは尋ねる。 「その本

          色あせた誘い

          失せて消えず

          1  予定時刻ピッタリに診察室へ現れた人物を見て、アヤは笑顔で声をかける。 「ヨモが病院に来るって変な感じね」 「たまにはいいじゃん」  病気とは無縁な機械少女も、白い顔に愉快そうな感情を張り付けて返事をした。  二人がいるのは三足教の関連施設である病院。ここでは定期的にアヤが医療業務を行っているのだが、今日は珍しくヨモから予約の連絡が入っていた。もちろん、診察の対象は彼女自身ではない。 「で、具合の悪い人は? どんな症状なの?」  アヤがヨモへ尋ねる。アヤが彼女

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          神隠し触れるべからず

          旅行の誘い  ある日、自室で機械をいじっていたヨモの元へオシオから連絡が入った。 『あ、ヨモか? 旅行に行かんか?』 「行かん」  藪から棒な誘いを冷たく断り、少女は通話を終了させる。しかし外部連絡用の四角い端末は即座にバイブレーション機能を発動させ、着信があるのを所有者に伝えてきた。端末の画面には、またもやオシオの名前が表示されている。 「おじいちゃーん? 電話はさっきしたでしょー?」  ヨモが鬱陶しげな声で応答すると威勢のいいオシオの台詞が飛んできた。 『お

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          戦いの後の後

          1  時刻は夜。天眼の光が弱まったことで空には薄暗い闇が訪れている。  静かな野原を窓から眺めるアヤは、つい数時間前までここが戦場だったのが嘘のようだと回想していた。設置された松明の明かりがポツポツ揺らめく様は幻想的にすら見えたが、ここでは今日、沢山の人々が戦い、死んだ。  国同士の戦争の一端で行われた争いは、人々や土地へ幾多の傷跡を残しながらも一応の終息を迎えている。アヤ達が加勢した勢力が勝利したもの、無傷とはいかず多数の死傷者を出した。既に怪我人の運搬は終わっていたが、

          戦いの後の後

          お守り人形

          1  駆け寄ってきたローブ姿の少年は、自分の傷を確認するなり声を上げた。 「うわっ……酷いな……」 「…………」  対して、自分は何も言わない。知らない人と話すのが苦手なのもあるが、何より情けない姿を見られた恥ずかしさと、腕に負った傷の痛みが混ざり合い、なんと返せばいいか分からなくなってしまったのだ。  無言のまま硬直しているこちらを余所に、少年はブツブツ言って自身のローブの中を漁っている。 「こういう時に限ってろくな物がないんだよなぁ……」  どうやら応急処置を

          お守り人形

          彼女の告白

          1  シノの部屋に広がる自然区域。その一角には、最近畑のエリアが出来た。決して広くない五畳ほどの畑には、未だ実を付けていないプチトマトの苗が均等な間隔で植えられている。  それへ水をやっているのは、イサ。園芸をするには不似合いな黒いコートを揺らしつつ、彼は畑の周りをうろついていた。黒い手袋をした手には緑のジョウロを掴んでおり、それを不器用に動かし水を降らせている。  伸びた葉に当たった水滴が光を反射して砕け散り、地面を濡らしていく。実に平穏で爽やかな光景だったが、イサの心

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          たらい回しな夜

          1  大仕事をやり遂げたセリオンはご機嫌だった。 「フンフフーン」  鼻歌を歌って夜道を闊歩する男を、道行く人々は胡散臭そうに見送る。  彼が進むのは荒れた路地。歩道にはゴミが転がり、並ぶ建物は落書きだらけだ。こんな道を好んで通るのは訳有りの者ばかりだったが、そんな連中でも今のセリオンに絡む輩はいなかった。口元から牙を覗かせニヤついている彼に恐れをなしているのか、単におかしな奴だと思われているのか。  弱々しく光る街灯が自身を照らすスポットライトのような気さえして、セリ

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          館の七不思議

          図書室  七不思議を探してみよう。本の最後は、そんな言葉で締めくくられていた。 (七不思議かぁ……)  自室のベッドにて、今日も楽しく読書を終えたリンは満足げに本を閉じる。  少女が読んでいた本の表紙には、学校の七不思議というタイトルが無機質なフォントで表記されていた。一緒に描かれている少年少女のイラストは冷汗を垂らしており、内容が決して穏やかでないのを表している。  タイトルが示す通り、本のジャンルは子供向けの怪談物で、学校周辺で起きたホラー体験が適度な緊張感でまとめ

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          向かいの男

           電車内。とある横座席にて、一人の男が向かいの席の男へ銃を突き付けていた。 「荷物を寄越せ」  銃を持った男は低い声で指示する。  対して、脅された側は眉間にシワを作って不快感を表現した。しかし抵抗する気はないらしく、無言のまま自身の鞄を渡す。妙に落ち着き払っている彼へ苛立ち、脅している側は乱暴に鞄を奪った。  銃口を相手へ向けたまま男は荷物を漁る。まず最初に探したのは切符。そして、金が入っている財布を見つけニヤリとする。だが次に出てきた物が何かを知ると、瞬時に表情は強張

          向かいの男

          気がかり三昧

          1  私室に貯蔵してあった菓子類を切らしてしまったヒロは、小腹を満たそうと食堂へ向かうことにした。  その道中。 「……?」  広間を通りかかった彼は物憂げな表情で椅子に座っているアヤを見つける。普段は会議等に使われている五角形の広い空間は、一人で使うにはスペースが余り過ぎていた。  アヤは大きな長方形の机に肘をつき、頬に手を当て思案に沈んでいる。何かあったのを察したヒロは、とりあえず軽い調子で彼女へ話しかけた。 「どうした? 食いすぎ?」  その音で彼の存在に気付

          気がかり三昧

          盲人とカジノの計略

          1 「どーして止まったんですか?」  マイペースな女の声。 「信号が赤だからだよっ!」  返すのは乱暴な男の声。 「悪い人なのにシンゴー守るんですか?」 「お前うっせーぞ!!」 「や、やめてよ……刺激しないでよ……」  二人の会話を遮るのは子供の声。車中の三人は、車が発車してからずっとこの調子だ。  会話を遮る、というより女を制止しようとしているのはスクナだった。年相応に怖いものは怖い少年は、運転席でハンドルを握る男へ恐怖を感じている。何せ男は、自分達を銃で脅

          盲人とカジノの計略

          揺らめく人魚は死の虜

          1 【任務内容】 行方不明者の捜査 【終了条件】 事態の解決  現在地は、とある孤島の入り江。規則的に揺れ動く海面は綺麗な青い色を放っていた。汚れのない透明度の高い海水が、岩場に生える色とりどりの珊瑚を明瞭に映し出している。その間を泳ぐ魚達も皆鮮やかな色をまとっており、風光明媚な景色をより引き立てていた。 「よし、ここに工場作って工業排水垂れ流しにしよう」  そんな美しい景観を文字通りぶち壊しにする台詞を発したのはヨモ。 「できるもんならやってみなさいよォ!」

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