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スタートアップでのストックオプションに関する具体的なお話 〜付与する法人編〜

スタートアップ・ベンチャーに携わる人であれば、ストックオプション(SOと言われることも多い)という単語を耳にしたことがあると思います。
しかし、なんとなくは把握していたとしても、どのようにそれが設計され、付与され、どのように行使され、金銭を生み出すのかをきちんと把握してない方が多いのではないかと思います。
また、いざストックオプションを発行しようと思ったけれども、どれくらい付与すればいいのか分からない、という方も多いようで、何度も相談を受けたことがあります。

そこで、「付与する法人側」「受理する被付与側」の2編に渡って書き記すこととし、本稿では法人側の立場において必要であろう知識や進め方、裏技について書いていきます。

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ストックオプションとは

大辞林での記載は以下です。
"あらかじめ決めた価格で自社株式を購入する権利。会社に貢献した特定の個人や機関に報酬として会社が認める"

まぁこれだと分かりづらいのでざっくり書くと、企業は現状の会社評価(に近い)額で自社株を期間内に購入できる権利を(主に)従業員に与えることができ、従業員はその株価が値上がりした場合キャピタルゲインを得ることができるというものです。
もっとざっくり書くと、被付与者は会社の株価が安い時に株を擬似的に受け取ることができ、将来上場や売却した際にその時の株価の差分を利益として享受できる、というものです。

ちなみにストックオプションには「無償」「有償」「株式報酬型」の3タイプがありますが、ここでは主に無償ストックオプションについて書いていきます。

どのような位置づけで考えるべきか

ストックオプションを一言でいうと、金銭的報酬の一種です。
付与側からすれば、将来利益の期待値を高めることによって相場より低い給与・待遇での雇用を可能とし、また、被付与側からすれば、給与に加えてより大きな金銭を得ることが可能となります。

頑張ってくれているスタッフに対して給与を上げたい!と思ったとしても、固定費を上げるという決断はなかなか難しいものです。
しかし、ストックオプションの付与を行うことで、擬似的に将来給与を上げることが可能となり、メンバーがより頑張るモチベーションを作ることが可能です。
また、基本的には退職すると失われる権利なので、雇用の維持にも役立ちます。

ストックオプションは既に上場・バイアウト(セルアウト)をしている企業では中々旨味が作りづらいこともあり、スタートアップが採用を行う上での強みにもなります。
実際、僕がバイアウトした後にはストックオプション発行ができないということで採用をやりづらいなと感じたことがあります。

まとめると、メンバーに対して報いたいけれどもすぐには難しい場合、将来利益の期待値を上げるという方法でそれを実現する手段、ということです。

どのフェーズで行うべきか

基本的には付与時の価格が低ければ低いほど、被付与者の旨味は大きくなります。
しかし、ストックオプション制度の設計・登記にも費用が少なくとも数十万程度はかかるため、設立直後の法人の場合その負担が小さくないことも多いです。

そのため、導入を行うのは数千万〜億円程度の資金調達を行う前、というのが現実的なところだろうと考えられます。
しかし、設立〜シード期であっても「ストックオプション設計時には◯%を付与することとする」などの覚書を交わすことによって、擬似的にストックオプションの発行をすることも可能です。

どれくらい与えるべきか

前提として意識しておくべきは、合計10%というボーダーです。
理由としてはこれ以上多いと上場時に弊害となる可能性があると言われているからで、VCさんから投資を受ける際にも契約書にそう定められていることが多いですが、厳密ではないようです。
僕の周りには、15%まで付与できるようVCさんに交渉してそれを実現した方もいます。

どれくらい与えるべきなのかについては、上記のようにストックオプションとは金銭的報酬なのでそれを踏まえて付与率・時間の軸で考える必要があります。
例えば時価総額1億円で1%付与して5年後に300億で上場し、単純化するためにそれまでの希釈化はなかったものとして考えます。
その場合、3億円/5年なので、年収に換算すると6,000万円となります。
もちろん、ストックオプションでの報酬は収益がゼロになるリスクを取った方に対して渡すものなので給与より高く設定すべきですが、1つの目安としてください。

具体的にどれくらい渡すべきかについてですが、中心となる人物でも途中入社の場合は1%以上渡すと結構多いな、という印象です。
こちらのリンクでは調査結果が示されていますが、創業メンバーと思われる人を除く各社の従業員持株比率上位10名の1人あたりの平均値と中央値を算出したところ、平均値は0.34%、中央値で0.185%だそうです。
しかし、例えば上場に必要なCFOの採用のためであったり、重要度や相場の給与が非常に高い方を採用するためには、それ以上の付与を行うことももちろん検討して良いです。

付与時に注意すべき点について

まず、税制適格条件を満たしているかを確認すべきです。
なぜなら、税制適格の場合はキャピタルゲインに対する税率は約20%ですが、非適格の場合は55%にまで上昇します。
キャピタルゲインが大きくなればなるほどこの影響は大きくなりますので、行使時に実は非適格だった、なんてことがないように状況の確認はしっかり行いましょう。

適格or非適格を分けるポイントの1つに、法人と被付与者が雇用関係にあるか、というものがあるのですが、雇用契約を結んでいたとしても実態として勤務を行っていない場合、税務署から認められない場合があります(会計士さんに確認しました)。
そのため、外部から関わっている法人からストックオプションの付与を受ける場合、雇用契約を結んだだけで良しとするのではなく、短時間であっても勤務の継続や、社外取締役への就任などを検討すべきです。

加えて、上場時だけでなくバイアウト(セルアウト)時にも有効になるように設計しましょう。
欧米諸国とはまだ差がありますが、日本のスタートアップにおいても、バイアウトでのイグジットが多く見られるようになってきました。
優先株についての記事でも似たようなことを書きましたが、「上場時のみ行使できる」という設計でスタッフの方が利益を得ることができないということになると、いざ売却という時にそれが枷や将来における問題になる可能性があります。
上記したようにストックオプションというのは頑張ってくれているスタッフの方への金銭的報酬です。
イグジットまで貢献してくれたスタッフに報いるためにも、この条項はぜひ入れましょう。

どのように設計をすべきか

結論から言うと、弁護士さんや会計事務所さんなどのプロに頼みましょう。
自分達でやることも可能ではありますが、会計・法務など多方面に渡る知識が求められ、ミスがあった際の問題も大きいです。
最低でも数十万かかる依頼とはなりますが、必要なコストやリスクを考えるとプロに任せるべきです。

「社外高度人材に対するストックオプション税制の適用拡大」について

こちらは1年ほど前に話題になったトピックで、要するに税制適格に収まる範囲を拡大することによって、外部協力者へのストックオプションの付与を増やしていこう、という取り組みです。
しかし、詳しくはこちらのリンク先を見ていただきたいのですが、条件として求められるハードルが高く、簡単に利用できるものではないというのが正直なところ。
税制適格が認められるか否かの実例もあまりないため、基本的には既存の税制適格ルールに則って設計することをお勧めします。

信託型ストックオプションについて

SmartHRさんが2017年に実施したことでも話題になりましたが、簡単に説明すると、設計時の株価でストックオプションをプールしておき、柔軟に各スタッフに割り当てることが可能である、というスキームです。
これを見るとかなり便利であると感じられると思うのですが、その設計には数百万円が最低必要となります。
そのため、こちらの設計を検討するのは1億円以上の調達を行う場合が現実的であろうと考えられます。

また、裏技ではないのですが、ストックオプション付与枠に余裕がある場合、個人に多めに渡しておいて行使割合を決める、という方法が使えます。
どういうことかというと、例えば「1%を付与するけれども行使できるのは0.5%だけ」という設計にすれば、この被付与者に将来より多くのストックオプションを付与したいと思った時に既に時価総額が上がっていたとしても、行使できる量を増やすことで最初に付与した株価での行使が可能です。
また、ダイリューションを防ぐという目的でもこのスキームは使えるので、付与枠に余裕がある企業の方はご検討ください。

まとめ

制度に関する説明などは世に多くありますが「じゃあどれくらい渡せばいいの?」などの具体的な話はほぼないので、このように記事にしてみました。
次回の更新ではストックオプションを受け取る側の立場で考えること、注意すべきことについて書いていくので、よろしければこちらからフォローしてみてください。

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お金について考える

ITベンチャーに新卒入社後2012年創業 複数回エクイティ・デッドでの資金調達を行い各種事業を行う 2015年に既存事業譲渡と訪日旅行者向けWebメディア立ち上げを並行しつつ、 2016年にフジメディアホールディングスグループに数億円でバイアウト 2019年から福岡で2度目の創業